拍手と笑いで満たされる。福が来そうな落語を、今年も。
「広いステージの上に座布団が一枚。その上にたった一人、座って落語をやる。お客様は2時間半、拍手と笑うことしか許されない(笑)。思えば、こんなおかしな空間にどうしてみんな来てくれるんだろうと(笑)。年始に初めて笑うのを初笑いというならなんでもいいだろうし、今なら家でなんでも見られるでしょう。でも一年の始まりに一つの場所にみんなで集まって、同じ箇所でみんなで笑う習慣がいまだに残っている。ふっと思うと、変わるはずのないものがそこにちゃんと息づいている気がしますね。生で観て、自分の耳で聴いて、脳で感じて、それを持って帰るためにチケットを取り、自分で出かけてくる。ライブで観ることって“面倒の極致”だと思うんですよ。その日が雨降りだったらどうするんだ、一緒に行こうと言ってた彼女が急に行かなくなったらどうなるんだ、とかね。でもこの場でしか得られないものがあるからこそ、江戸時代から今も変わらず、人は足を運んでくださるんでしょう。僕らも会場からの生の拍手をいただいた時からやめられなくなって、この拍手をもう一度いただきたいと思いながらやっています。“面倒の極致”を乗り越えてきた人だけにしか味わえない時間を提供するために、舞台裏では死に物狂いになって準備をしてきた人たちがたくさんいます。私は落語家ですから適当にやってますけどね(笑)」
適当に、と師匠は言うけれど、’06年に披露した「ディアファミリー」では高座後に鹿の剥製が登場、’04年の「歓喜の歌」では噺の中からそのまま抜け出てきたようなコーラス隊が登場…と、“PARCO劇場だからできる落語”を追求し続けてきた。舞台裏には美術プランナーや映像制作、大道具など、通常の落語では考えられない規模のスタッフが師匠の頭の中を形にする。今年はどんな『志の輔らくご』を体験できるのか。
「3本用意しています。締めは古典落語。やっぱり江戸時代から日本人って変わってないなというか、いい民族だよなと思ってもらえる古典を最後に一席、前の二席は新作と2025年版の再演ものを。今日劇場で、同じ空気を吸った人たちとだけ、年の初めの良きこの日を迎えられたらいいなという思いで、今年のパルコの雰囲気を考えています」
今年の公演では、会期中に記念すべき400回目を迎える。
「ずいぶん続きました。別に数えなくてもいいのにね。でもまあ、とても幸せなことです。思えば私にとってここは、上京し初めて演劇を生で観た場所。旧PARCO劇場の下手側から安部公房の『友達』を観ながら、『いつか俺、この舞台に立つな』と。そう思ったんですよ、20歳の時に。結果的には座ってましたね」
PROFILE プロフィール
立川志の輔
たてかわ・しのすけ 落語家。1954 年生まれ、富山県射水市(旧新湊市)出身。劇団所属、広告代理店勤務を経て立川談志に入門。’90年に真打ち昇進。古典、新作ともに市井の人への繊細な視点が光る。
INFORMATION インフォメーション
『志の輔らくご in PARCO 2025』
上演中~1月31日(金) 渋谷・PARCO劇場 全席指定8000円 パルコステージ TEL:03・3477・5858