思い出の劇場で、自作のシナリオを上演。Wで夢が叶いました。
――TRPGとは、「テーブルトーク・ロールプレイングゲーム」の略と伺っていますが、これは一体どんなゲームなのでしょうか?
参加者それぞれが自分で作ったキャラクターを演じ、進行役を務めるゲームマスターとプレイヤー同士が会話をしながら物語を冒険していくゲームのことです。いわゆるゲーム機は必要なく、“会話すること”と“ダイスを振ること”で遊ぶことができます。好きなキャラになりきって遊ぶという意味では、小さい頃にやった“ごっこ遊び”に近いかな、と思います。とあるシチュエーションに自分…というか自分が作ったキャラクターが置かれたとき、どんな決断や決定をし、その物語を終えるのか。すべてが即興なので、同じシナリオでもプレイする人によって全然違う内容やエンディングになるところがおもしろいですね。
――今回は、ディズムさんが2020年に発表されたシナリオ『カタシロ』をステージ上で“上演される”ということですが、ゲームを上演というのは、どういうことなのでしょうか?
ステージの上で『カタシロ』をプレイします。それを客席のみなさんに観ていただく感じです。人気の動画配信で“ゲーム実況”というものがありますが、TRPGも、遊んでいる様子を見て楽しむ文化があります。それのステージ版と考えるとわかりやすいかも。
――この作品、ご自身が自主制作という形で舞台化していらっしゃいますが、今回はPARCO劇場での上演です。
演劇が大好きなので、お声がけをいただいて本当に光栄なことだと思いました。コロナ禍で無観客配信をやり、セルフプロデュースで映画を作り…とやってきて、徐々に広がった波がPARCOさんに届いたのかなと。TRPGが少しずつ世の中に浸透してきていることが実感できて、本当に感慨深かったですね。ちなみに僕が演劇を好きになったきっかけが、2008年にPARCO劇場で観た『MIDSUMMER CAROL〜ガマ王子VSザリガニ魔人〜』という舞台なんです。有観客での舞台も嬉しいし、それが思い出の劇場だなんて、Wで夢がかなった感じですね。

記憶喪失の患者と、医者。会話をしながら相手の本質に迫っていく。
――プレイされる『カタシロ』とは、どんなお話なのですか?
舞台は病院で、出演者は“記憶を失った患者”として登場し、そこに“医者”が現れて、会話が始まります。
――設定は、それだけですか?
はい(笑)。そこから会話がどう転がるかで、物語の筋道や、エンディングが決まるわけです。
――記憶喪失ということは、覚えていることはなにもない。いろいろと尋ねられても、どう答えていいものやら…ですよね。
まさにそれが、『カタシロ』の核の部分。何も覚えていない中で“頭に浮かんだこと”や“思わず口をついて出たこと”というのは、その人の根幹に関わるものなんじゃないか、と僕は思っているんですよ。通常TRPGをプレイするときは多面サイコロの〈ダイス〉を振るのですが、今回はダイスは使わず、 “テーブルトーク”、つまり会話だけで物語を展開させていきます。医者役である僕は、日常で普通に会話をするよりも相手に踏み込むような問いかけもしていくので、結構緊張感のある1時間強になると思います。普段はあまり話さないようなことを語り合うので、その人の意外な一面が見えることもあり、そこはプレイする人、見る人どちらにとっても醍醐味だと思います。
――12公演、患者役を演じる方々が毎回異なります。白石加代子さんや七海ひろきさん、木村達成さん、尾上右近さんといった俳優の方もいらっしゃれば、落語家の立川志らくさん、いとうせいこうさん、スギちゃん、そして新日本プロレスのエル・デスペラード選手まで! ディズムさんから、患者役に関してなにかリクエストはあったのですか?
具体的にこの方、というのはありませんでしたが、とにかくいろんなジャンル、職業の方に参加していただきたい、という気持ちではいました。人が生きるうえで仕事に費やしている時間は長いわけで、自分も含め、その職業についていることから得ているものっていろいろとあると思うんです。この舞台ではきっと、“その職業だからこその何か”というものが転び出ると思うので、多種多様な仕事をしている方に参加いただけて、すごく嬉しいです。
――デスペラード選手なんて、どんなことを口にするのか、どんなお話になるのか、全く想像がつきません。
僕もすごく楽しみです。マスクを被っている同士、どうなっちゃうんでしょう…(笑)。どの方の出演もとてもありがたいし嬉しいし、楽しみなんですが、正直怖いです(苦笑)。

即興性があるからこそ、演劇はおもしろいし、惹かれてしまう。
――『カタシロ』以外でも、ディズムさんの作品には舞台化されたシナリオがあります。もともと舞台にご興味があったのですか?
僕自身が演劇やミュージカルがすごく好きなんですが、その大きな理由が演劇が持つ“即興性”なんです。お芝居自体は稽古を重ねて作るものですから、僕が観たところで何がアドリブかなんてことは判断はつきませんが、実際に人と人が演じているという時点で、シナリオがあろうがなかろうが、即興性はあると思うんです。しかも舞台の場合、自分の目の前でそれが行われる。人と人が生で対峙する中で“思わずでてきてしまった何か”に、その人の本質というか、真実があるんじゃないかな、と思うんです。
――お話を伺っていると、ディズムさんは、“人の心の奥深くにある何か”に興味があるような気がしてきました。
誰かと、「あなたは本当は誰ですか?」とか、禅問答みたいな話をするのがすごく好きで。そういう話をする場を作りたくて、TRPGのシナリオを書いたりしているのかな…。なので今回も、出演者の“心の奥にある何か”が見えるような舞台になったらいいな、と思っています。みなさんには、「記憶喪失の役なので、何の準備もしないで来てください。プレイ中は、ふと頭に浮かんだことや、おもしろいかもと思ったことはどんどん話してください。それがつながって物語ができあがるシステムになっているので」とだけ伝えています。あ、あと、「勝手に舞台を降りるのだけはやめてください」ともお願いしています(笑)。プレイのあとにアフタートークがあるので、そこでいろいろ感想を伺うのも楽しみです。
――観客として見に行く人は、例えば過去の『カタシロ』のプレイ動画を見ていくなど、なにか予習をしていったほうがいいですか?
もし今までこの作品やTRPGにまったく縁がなかったという方は、ぜひこの舞台で初めて『カタシロ』に触れてほしいです。これまで何度もこの作品を、前情報なしの方でも楽しめる前提で配信してきた僕を信じていただければ(笑)。しかもこれだけ豪華なメンツですからね。遊んだことがある人にとってもきっと全回驚きのエンディングになると思いますので、期待して観に来てください。『カタシロ』というフィルターを通すことで、出演者のみなさんの新しい面を見せられたら嬉しいですし、また観終わったあとに、人間というものをちょっと好きになってくれたら、ありがたいですね。

ディズムさんの、いま好きなこと。
2つ浮かびまして、1つは演劇やミュージカル鑑賞。最近だと、PARCO劇場で上演された佐々木蔵之介さん主演の『破門フェデリコ〜くたばれ!十字軍〜』や劇団四季で『ユタと不思議な仲間たち』を観ましたね。ミュージカル、観るたびに「本当にすげぇな…」って思うんですよ。いつかTRPGでミュージカルができたらなぁ。即興で歌ったりラップしたりするの、おもしろくないですか? もう1つは、物語。最近改めて自分は物語が好きなんだと思っていて。舞台、映画、小説、アニメ、マンガ、いろんな物語を自分にインプットして、僕も物語をもっと書きたいです。
INFORMATION インフォメーション
パルコ・プロデュース2024 PARCO劇場スペシャル版『カタシロ〜Relive vol.1〜』
パルコのゲーム専門チーム・PARCO GAMESとPARCO劇場のチームが贈る、TRPGを劇場で楽しめるという新たな挑戦。記憶を失った“患者”のもとに、1人の医師がやってくる。「あなたは誰ですか?」という問いに、記憶を奪われた患者はいったい何と答えるのか? 会話を重ねる中で素の自分が明かされ、展開も結末もまったく異なる物語が展開する、全12回の即興会話劇。全公演、本編終了後にアフタートークを開催。
12月20日(金)〜28日(土) 東京・PARCO劇場
脚本・演出/ディズム
出演/医者役:ディズム
患者役:白石加代子、七海ひろき、木村達成、立川志らく、いとうせいこう、足立梨花、伊藤理々杏、エル・デスペラード、尾上右近、スギちゃん、紅ゆずる、安元洋貴
もう一人の患者役:相羽あいな、堰代ミコ、藍月なくる、える、健屋花那、千春、周央サンゴ
※公演回毎に「患者役」 「もう一人の患者役」が異なります。
全席指定7,700円 U-35 チケット=5,000円(観劇時35歳以下対象)
PROFILE プロフィール
ディズム
演出家、シナリオライター、YouTuber。TRPGエンタメ集団『驚天動地倶楽部』の代表。2015年よりTRPGのリプレイ動画の配信をスタートし、オリジナルシナリオも執筆するように。代表作であり、今回の演目でもある『カタシロ』は過去にも一度舞台化され、漫画家の島本和彦や芸人の鈴木もぐらなどが出演した。ほかにも『冒涜都市 Z〜魔境の探検家たち〜』、『ロールシャッハシンドローム』、『狂気山脈単独登頂』のシナリオも舞台化されている。2024年にはミステリー舞台『AGASA』の脚本を担当。他にも、Nintendo Switchのゲームシナリオの執筆も。