Who's Hot?

〈WHO’S HOT〉中島歩「性質的にはひょうきん者だと自分では思っているんです」

エンタメ
2024.12.10

長身でノーブルな雰囲気を持つ中島歩さん。しかしインタビューが始まってみたら、見た目の印象とは違ってじつは結構おしゃべり。お話もギャップだらけの興味深い人物でした。

今回の取材にあたり経歴を調べていたら、日本大学藝術学部(通称・日芸)で落語研究会に所属していたとか。えっ…落研出身? そんなイメージがなかっただけに、少なからず驚いた。しかし今年のドラマ『不適切にもほどがある!』で、イケメンなのにウザい安森先生をノリノリで演じていたことを思い出し、なんだか妙に納得してしまう。

――中島さんの次回作は、日常の些細な会話から突拍子もないシュールな展開や不条理な笑いで人気の城山羊の会の舞台『平和によるうしろめたさの為の』です。

もともと僕がずっとファンだったんです。大学を卒業するかしないかの頃、演劇ってどんなものがあるのかと手当たり次第に観ていた時期に出合い、面白くて憧れたし。そこに出演していた岡部たかしさんや岩谷健司さん、古舘寛治さんは、当時から僕の中でスターでした。古舘さんとは数年前に共演をしてから仲良くなり、演技の話をよくさせてもらっていたんですけれど、その古舘さんがいつか一緒にと言ってくれていたのが、今回ようやく実現しました。

――城山羊の会の面白さを中島さんに説明いただくとしたら…?

びっくりするぐらい俳優の声が小さくて、身近な会話をしていると思いきや、物語がどんどんおかしな方向にいき、どっかからはだいぶおかしくなっていく。なんか食べ物に例えたら伝わる気がするんだけど、蕎麦とか…。評判の蕎麦屋がいつも並んでいるから入れなくて…は違うか。蕎麦ぐらい気軽に食べられるけれど、食べたら知らない謎の麺だった、みたいな。

――伝わるかはわかりませんが…。いま楽しみにしていることは?

もう憧れの先輩俳優たちと一緒にやれることです。1か月みっちり稽古して、公演数も結構あるので。ここに出られることが誇らしいです。目標だったから。

――でもこれまで、デヴィッド・ルヴォーや森新太郎さん、赤堀雅秋さんといった演劇界でも錚々たる演出家の舞台に出ています。

20代の頃にいろんな演出家さんと出会って、稽古場でいろいろなことを言われました。そこで芝居の基礎みたいなものを勉強させてもらえてよかったなと思います。

――これまでとくに印象に残った方や現場はありますか?

いっぱいありますけど、最初に美輪明宏さんと『黒蜥蜴』という舞台をやらせていただいたのは大きいですね。演出というか芝居の雰囲気が独特で、美輪ワールドなんですよ。体を美しく見せたり、言葉を美しく聴かせるというところに特化した演技で、学生時代に観てかっこいいと思っていた、あまりニュアンスをつけずにボソボソしゃべる芝居とは真逆の世界でした。後々考えるとそういったスタイルのお芝居を経験できたことはすごくよかったです。ボソボソしゃべるような演劇であっても、見せていかなきゃいけない場面もあるし、物語を伝えるためには立たせないといけないセリフもある。それは前田司郎さんの現場で学びました。前田さんはロジックのある人で僕も理屈っぽいので、影響を受けた部分はかなり大きいです。ルヴォーさんは、まだまだ技術の足りない僕に「中島はどうしたいんだい?」と聞いて意見を尊重してくれましたし、森さんは手取り足取り千本ノックのような稽古をしてくださった。20代の頃は、アイデアがあっても表現する技術が追いついていない状況でしたが、少しはできるようになった今、たくさんの経験が実になっていると感じることが多いです。

――でも当時から、ただ演出家の言う通りにやるのではなく「こうやりたい」があったんですね。

もとからある話を自分なりに面白く表現していくことを最初に意識したのは、たぶん落語だと思います。大学で落研にいたのですが、入部当初はもともとある噺をひたすら練習させられるわけです。でも2年生になると好きな落語家のやり方を真似たりしながら、自分なりにアレンジし、それを観客の前でかけてリアクションによって変えていく。そこが楽しくて落語にハマったし、いま振り返ると、その経験が演技に目が向くきっかけだったのかなと思います。

若いうちに世に出たいという安易な気持ちがあった。

――日芸ですし、もともと演劇や映画がお好きだったんですか?

いや僕はずっと国語の先生になろうと思っていたんで、国語の教員免許を取得できる学校を探していたんです。そんなときにラジオで爆笑問題さんが日芸出身だと話していて、調べたら教員免許も取れるらしいので受けたら、そこしか受からなかったという…。入学してみたらいろんな変わった人たちがいて、なかにはすでに俳優として活躍されている人もいたり。そういう周りの雰囲気にすごく感化されたんですね。それまで大学に行って就活をして…とイメージをしていた進路から脱却したというか。

――落研にはなぜ?

漫才とかコントは高校の学祭とかでやってたんです。だからお笑いのサークルに入れたらと思っていたんです。「落研でお笑いもやるよ」みたいな感じで勧誘されたんで入ってみたら、ガッチガチの落語をやらされました(笑)。でもやっていくうちに面白くなって、それが今の仕事にも繋がっているんだからわからないですね。

――芸人じゃなくて俳優になろうというのは?

もちろん芸人も考えましたよ。落語家も。でも、お笑いの世界では勝てる気がしなかった。落語に関しては、怠け者の自負がある僕には、ひとりで頑張る世界は無理だなというのと、下積みがあるのも嫌だなって。若いうちに世に出たいという安易な気持ちがあったし、有名にもなりたいと思ったときに、俳優だろうって。

――安易に(笑)。

俳優になるには、まずいろいろ観て知らなきゃと思い、それまでも映画はそこそこ観に行ってましたけど、演劇はまったく知らなかったので、当時の小劇場界隈の芝居を、面白いものから本当につまらないものまでたくさん観ました。城山羊の会もそこで知ったんですけれど、ここにこんな超面白い人たちがいるって知って、より芝居をやりたい気持ちが高まりました。そもそも子供の頃からお笑いが好きで、クラスでふざけてる奴だったので。

――どちらかというと、静謐で文学好きで冷静なイメージでした。

いや、カッコつけたい気持ちはあると思うんですけれど、性質的にはひょうきん者だと自分では思っているんです。だから、『不適切にもほどがある!』で宮藤官九郎さんが面白オカシい奴を書いてくださったのは嬉しかったです。今後はもっとそういうところを見せていきたいんですよね。

――中島さんの原点にある笑いってどんなものですか?

子供の頃はウッチャンナンチャンさんのコントとか、とんねるずさんの番組とかが好きでしたね。ダウンタウンさんのような関西の笑いはもっと後…高校とか大学の頃で。あとは漫画じゃないですか。『ドラゴンボール』とか。連載最初の頃ってギャグが多くて、とことんふざけてましたよね。

――じゃあ学校でもギャグを。

ギャガーですよ、ゴリッゴリの。ひょうきん者でした。クラスの二枚目然としてる奴とかのことを、しょうもないって思ってました。面白くないしって。

――イメージ的にはそっちかと…。

中学生くらいになって女の子を意識し始めて、ヘアワックスとかつけてましたけど(笑)。モテたいけれど面白さが優先。男子同士の笑い優先。でも、女の子の視線は意識してる…みたいな。

楽観的な性格ですぐ忘れる。振り返らない(笑)。

――中島さんといえば、2014年の連続テレビ小説『花子とアン』のイメージが未だに強烈です。仲間由紀恵さん演じる華族の蓮子と恋に落ち、蓮子の夫を欺き駆け落ちをする青年役でした。

いやもう…あのときの自分は芝居ができなさすぎて、エラい恥かいたって感じです。まだデビューしてすぐで演技の訓練も積んでないなか、吉田鋼太郎さんみたいな手練れと恋敵ですよ。理屈っぽいから頭ではいろいろ考えていくのに全然表現できなくて。すごく大事な役なのに下手さばかりが注目されて、これじゃダメだっていうのはすごくありましたね。たまに再放送がありますが、本当にやめてほしいです(苦笑)。でもおかげで調子にのらずに済んだのはよかったのかなと思います。

――今も、お芝居や役に対してわりと理屈で考えられるんですか?

最近は、いい意味で適当になってきました。一時期、演技に迷って、ハリウッドのアクターズスタジオ系の演技書を読んだら、自分の頭の中で考えていたあれこれが一本の線になって、そこから伸び伸びできるようになったんです。台本を細かく読み込んで綿密に準備していくっていうのは変わらないのですが、本番になったときに準備したことをベースにしつつもその場で起きたことに乗っかっていくことに自覚的になったんです。現場で無防備な状態でいられるようになったというか。それに気づいてから楽になりました。

――挫折を経験しながらも、俳優を続けてこられたのは?

楽観的な性格っていうのはあると思います。仕事がなくて辛かった時期もありますけど、すぐ忘れるんです。振り返らない(笑)。

――プライベートが想像できないのですが、お仕事以外の時間はどんなことに使っていますか?

踊りに行ったりします。音楽が好きで、レコードをコレクションしたりもしていましたし。あと最近は健康ブームです。一時期、体がガチガチでひどかったのが、すすめられてホットヨガを始めて。今、一番体調がいいくらいです。

PROFILE プロフィール

中島歩

なかじま・あゆむ 1988年10月7日生まれ、宮城県出身。大学在学中にモデルを始め、オーディションにより2012年の舞台『黒蜥蜴』で俳優デビュー。舞台のみならずドラマや映画で活躍。近作に、映画『ナミビアの砂漠』『HAPPYEND』、ドラマ『海のはじまり』など。出演映画『敵』は'25年1月公開予定。

INFORMATION インフォメーション

中島さんが出演する舞台、城山羊の会『平和によるうしろめたさの為の』は、12月4日~17日に下北沢・小劇場B1にて上演。作・演出は山内ケンジさん。出演には、古舘寛治さん、岡部たかしさんといった城山羊の会の常連キャストが名を連ねる。前売り一般4000円、当日一般4300円。

舞台『平和によるうしろめたさの為の』公式サイト

コート¥234,000 シャツ¥129,000 パンツ¥153,000 シューズ¥102,000(以上LEMAIRE/EDSTROM OFFICE TEL:03・6427・5901) その他はスタイリスト私物

写真・小笠原真紀 スタイリスト・上野健太郎 ヘア&メイク・小林雄美 インタビュー、文・望月リサ

anan 2423号(2024年11月20日発売)より

PICK UPおすすめの記事

MOVIEムービー