韻を踏む文字が増えるほど、言葉の強度は上がる。
「昔からそういうモチーフってあるじゃないですか。トトロとかもそうだと思うんですよね。ちょっと怖いけど、会ってみたい。そんな子どもの頃に誰しも想像するような存在を、絵本の中に登場させたいと思ったんです。それがどこにいるかというと、子どもにとって身近な場所。それなら公園かなと、自然な流れで決まりました」
この絵本がユニークなのは、韻を踏んだ文で、ストーリーが展開されているところ。太字で記された箇所が同じ響きを持つ韻の目印で、そこを強く読むとラップをしているような気分になれる。
「例えば、絵本の中でも『ぼくを探しに』のシェル・シルヴァスタインみたいな作風なら“心に響く系”だと思うけど、こっちはいわば“反応系”。韻を踏むことで音楽的に楽しめるように作っているんです。その強度を高めることに、注力しました」
“強度を高める”とは、韻を踏む文字の数を増やすこと。
「なかでも手を入れて良くなったのが、扉のページ。もとは2文字ずつぐらいで韻を踏んでいたんですけど、やっぱり3文字ぐらいいけるかなと考えて、最後の最後で書き直しました。韻を踏んでいる文字が増えると、響きが似ている文字の量が増えるので、物理的に言葉の関係性が深まるんです」
扉の文は以下のとおり。
「とおくのそらで ゆうやけこやけ おうちにかえるこ このゆびとまれ」
“そらで”“こやけ”“とまれ”という3文字で韻を踏んでいる。ほかにも、「こっちはシーソー たのしーそー」など、環さん曰く「単純なダジャレ」感覚で楽しめる箇所もある。とはいえ、安直な言葉遊びとは一線を画す。
「絵本は大人クオリティじゃないとダメだと思うんですよね。とくに子どもが小さい時は読み聞かせをするから、大人が読んでいて楽しくないと、こんなの読んでらんねーだろってなってしまう。逆に大人が楽しく読んでいれば、その熱意が子どもに伝わる。だから自分も、大人の鑑賞に堪えうる絵本を作りたいと思っているんです」
“大人クオリティ”とは、具体的にどういうことなのだろうか。
「言語化するのは難しいんですけど…。繰り返し読んでも耐久性があるというか。それが“強度”なんだと思います。自分の絵本でいうと押韻の部分だし、そうでなければテキストであったり、絵で強度を担保するパターンもあったり。そのバランスなんですけどね」
そんな環さんも、現在、お子さんに読み聞かせを行う立場。2人の子の父親で、7歳の上の子には毎日絵本を読み聞かせているそう。
「本から得られるものはたくさんあるから、子どものうちから身近に感じてもらいたい。本当はそろそろ自分で読んでほしいんですけど、本人的には文字を読むのがダルいみたいで。でも、読み聞かせをすることで、例えば、しおたにまみこさんの『たまごのはなし』みたいな大人向けの絵本が今はたくさんあることを、自分自身が知りました。後学のためにも、そういう作品に触れておくのは、素晴らしいことなんじゃないかと思います」
これまで環さんが文を手がけた絵本は、3冊出版されている。それぞれ韻を踏んだ心地よい文体だが、韻を踏むという意味では、自身の楽曲制作と、そんなに変わりはないのだろうか?
「いや、全然違います。絵本のほうがずっと難しい。絵本では、広く理解されるような言葉を選ばないといけないし、文法的にもある程度の正しさが要求される。でも、自分の作品は、まったくそんなものはない。自分がよければ文法とかも別に正しくなくていいし、聞き取れない可能性とかも気にしない。かかる時間も書く内容も、まったく別物です」
その絵本の難しさが、自身の活動にいい影響を与えているという。
「自分のアートとしての作品は、すごく私的なものなんですけど、絵本みたいに公的なものを同じ人間がやることで、自分の作品がより私的な方向に振り切れる。プライベートとパブリックの両者をやることでバランスがとれて、自分の活動には、すごくいいフィードバックがきていると思います」
「まだまだつづくよ よなかはたのしい」というページをめくると、「たのしい あそぼう こうえん たのしい」という似た文と絵のリフレイン。「それまでのガチガチにタイトなラインから、ここで緩まる感じがします」
『よなかのこうえん』
舞台は静まり返った夜中の公園。物陰から「まばたきひとつ こっちでふたつ あっちでみっつ」と何やら生き物が次々現れて…。楽しそうに遊ぶ姿と、軽快なラップ調の文がマッチ。月刊こどものとも2024年8月号 絵/MISSISSIPPI 福音館書店 460円
たまき・ろい 1981年生まれ、宮城県出身。ラッパー。これまで6枚のアルバムを発表。絵本の制作は、本作のほか、『ようようしょうてんがい』(福音館書店)、KAKATO名義の『まいにちたのしい』(ブロンズ新社)がある。©後藤武浩
※『anan』2024年10月2日号より。写真・中島慶子 取材、文・保手濱奈美
(by anan編集部)