江口のりこ「俳優業は仕事ではありますが、私にとっては日常であり、生活と一緒なんです」

エンタメ
2024.09.02
主役から脇役まで幅広く引き受ける役柄に、無類の実在感を醸し出す俳優・江口のりこさん。吉田修一の同名小説を原作に、森ガキ侑大監督が実写化した『愛に乱暴』では、無関心な夫と、気を遣う義母との関係にストレスを感じながらも、丁寧な暮らしをすることで自らの居場所を見つけようとする妻・桃子を演じる。

愛を乱暴にしないためには、まず自分を好きになること。

江口のりこ

「桃子は丁寧に食事をつくり、自分の好きな食器を周りに置き、ゴミ捨て場を綺麗にして、一生懸命取り繕っている。報われない彼女は見ていてしんどいけれど、完成した映画を観たときに、森ガキ監督の映画や桃子というキャラクターへの愛情がすごく詰まってるなと思いました。桃子のことをよく見ているなって」

20回以上書き直され、シンプルに研ぎ澄まされた脚本は、終着地についての余白が与えられていたそう。エンディングでの桃子の描写は、江口さんのアイデアが採用されている。

「数日後にラストシーンを撮るという段階で、桃子は出ていくのか、それともこの家にずっと住むのか、という話をみんなでして、考えました。そういう話し合いが本気でできたのは、すごくいい現場だったなと」

桃子の抱えるヒリヒリするような孤独が、多くの女性たちに覚えがあると思わせる痛みであることが、登場する女性キャラクターらを微かに連帯させているのも本作の魅力だ。

「それは、義母役の風吹ジュンさんが現場でつくってくれたところが大きいです。脚本では、義母は桃子のことをもう少し突き放していたので。風吹さんも、この映画をどう決着をつけたらいいのかと悩んでいたわけです。私は私で悩んでいたので、そうやって桃子に対するちょっとした優しさや共感を生み出してくれた先輩の姿に勇気づけられましたし、映画自体も豊かになったと思います」

愛を乱暴にしないためにできるのは、「まず、自分を好きになること」と江口さんは考える。

「私は、深く考えないタイプなので、基本的に自分のことは好きですが、好きじゃない部分ももちろんある。それに、日々の腑に落ちなさ、悔しい思いみたいなものって、解決できないものじゃないですか。それに対して、何かしてやろうとジタバタしても、余計に苦しくなる気もするので、モヤモヤするなーと思いながら過ごしますね。そうすると、いつの間にか忘れてます」

19歳で上京してから、俳優を続ける理由をたずねると、「好きだから」という返答があった。お芝居というもの、役を演じるということの正解のなさ、わからなさが、これまで彼女を突き動かしてきたのだという。

「俳優業は仕事ではありますが、私にとっては日常であり、生活と一緒なんです。太陽が昇って朝になって、沈むと夜になるように。好きだからやっていますけど、好きと思えないときもありますし、それでもやるし、やっていて飽きない。飽きない理由は、正解がないし、難しいからなんですよね。毎回違うことをやるから、例えば、作品に入る前に、役をやるにあたってこういう準備をしておけば安心という材料もないですし。それが面白いのかもしれませんね。いちいち心配でビビってますが、やっぱり現場に行けば、助けてくれる人がいますから」

江口のりこ 愛に乱暴

『愛に乱暴』 夫(小泉孝太郎)の実家の敷地内に建つ“はなれ”で暮らす、結婚8年目の桃子(江口のりこ)は、丁寧な暮らしに勤しみ、毎日を充実させていた。そんな桃子の周囲で不穏な出来事が起こり始めて…。8月30日公開。©2013 吉田修一/新潮社 ©2024「愛に乱暴」製作委員会

えぐち・のりこ 1980年生まれ、兵庫県出身。2000年に「劇団東京乾電池」に入団。『月とチェリー』(’04)で映画初主演。今年の公開作に『お母さんが一緒』『もしも徳川家康が総理大臣になったら』などがある。

ドレス¥242,000(BLAMINK TEL:03・5774・9899) その他はスタイリスト私物

※『anan』2024年9月4日号より。写真・高橋マナミ スタイリスト・清水奈緒美 ヘア&メイク・草場妙子 インタビュー、文・小川知子

(by anan編集部)

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