昼のわたしと、夜の彼女。一つの体を共有する二人の真実。
「私自身が高校2年生の時、祖母に誘われて同じようなボランティアに行ったことがあるんです。相手は30代の女性の方で、すごく喜んでくださって。受験が終わったら会いに行こうと思っているうちに、その方は呼吸器が抜ける事故で亡くなってしまいました。当時の私はまだ身近な人の死にも直面したことがなくて動揺して、ずっと悲しい思い出として心の中に残っていました」
いつか何らかの形で、その後もあったかもしれない交流を物語にしたいと思っていた。
「でも、そんな簡単に私が普段書いているようなエンターテインメント作品にはできなくて。デビュー10年目になって、ようやくこういう形にすれば書く意味があるかなと思えるものができました」
受験勉強と咲子との交流で過ぎていく日々のなか、茜は自分が深夜、夢遊病者のように出掛けていると気づき、ある結論にたどり着く。そして物語が第一部「昼のはなし」から第二部「夜のはなし」に移った時に立ち現れるのは、茜自身は知らない驚愕の事実。さらには、咲子の本音も明かされていく。
「私がボランティアでお会いした時、その方はとても優しくて前向きな印象でした。でもそれはその時だけ整えられたものだったのではないかとか、自分は喜んでもらえて嬉しかったけれど、それは偽善みたいなものではなかったかとか、いろいろ考えることがあって。それが今回、昼の話と夜の話のミステリー部分とうまく結びつきました」
また、茜は咲子が交通事故に遭う直前、恋人や親友との間に何かがあったらしいと知り、その謎を追うことになる。その過程で、今とはまた違う咲子の人物像が見えてくる。
「寝たきりの方はその部分ばかり見られがちですが、その方も人生で他にいろんなことがあったはずで、そこに焦点を当てたい気持ちがありました。普段小説を書いていても、いま進行している世界線以前のその人の人生も考えないとキャラクターは浮かび上がってこないと感じます」
登場人物の印象が二転三転する展開は辻堂さんの得意技。ただ驚かせるだけでなく、人間の複雑さが見えてくるのが彼女の作品の魅力だ。
「人って、この人は善人で、この人は悪人だなんてくくれないものなので、自分の作品ではあまりステレオタイプの善人や悪人は描きたくないというのがあります。人間って、もっと奥深いものではないかと、書けば書くほど感じますね」
すべてが明かされた時こみあげてくるのは、切なさとやるせなさと、温かさ。一連の出来事の全貌を知ることができるのは、読者だけだ。
辻堂ゆめ『二人目の私が夜歩く』 交通事故で寝たきりとなった女性・咲子と交流を深める高校生の茜は、就寝中のはずの深夜、自分が外を出歩いていると気づくが…。中央公論新社 1870円
つじどう・ゆめ 2014年、大学在学中に『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞、翌年受賞作を『いなくなった私へ』として刊行しデビュー。’22年、『トリカゴ』で大藪春彦賞を受賞。
※『anan』2024年6月19日号より。写真・土佐麻理子(辻堂さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世
(by anan編集部)