シニカルでユーモアあふれる洞察力に脱帽。Z世代の観察図鑑。
「僕ら平成世代は、“がんばれば報われる”的な昭和の努力神話を引き継いでいないつもりだったのですが、実はどこかで、親世代の昭和のマッチョな価値観が自然とすり込まれているというか、驚くほど昭和の人間の延長戦をやっているんだなと思うことも多いんです」
第1話は大学のビジコン(ビジネスコンテスト)サークル、第2話は人材系のメガベンチャー企業、第3話は地域猫保護にいそしむ人たちのシェアハウス、第4話は地域の銭湯活性化のためのコミュニティが舞台だ。どの短編でも、意識高い系の若者たちの挑戦と挫折ともいえるドラマが描かれる。昭和や平成に青春を送った人々から、何を考えているかわからないと思われがちなZ世代の思考回路や行動原理が、目新しいというより、わかりすぎるくらいわかるのが面白い。
各編に登場する、ちょっと斜に構えた沼田という男に注目。キラキラしているけれど実際は何も生み出していない語り手やコミュニティを揺さぶるトリックスターだ。沼田の観察力は、著者のそれを彷彿させる。
「僕が自慢できることがあるとすれば、会った人の数と飲みの場の数(笑)。そういう中で、自然と『この人ってどういう人なのかな』と考えるのが習い性になったというか。例えば『ブランドものとかに興味なさそうなのに、なんで財布だけマルジェラなんだ?』とか他のこともチラチラ観察しながら突き詰めたりするんですよ。それは何か関係しているかもしれませんね」
だが空疎に笑っているのではない。逆説的に突きつけてくるのだ。
「本書に登場する令和を生きる男女は賢くて、75点くらいは取れる人生なんですよ。でも、みんな行動しないで評論家気取りで生ぬるい幸せに浸かって流されていく。そんなのは幸せじゃないとは言わないけれど、その分大事なものを取りこぼしていないかと警告はしたいんですよね」
麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』 唯一、女性視点で進む第2話。女同士の葛藤や母と娘のすれ違いも描かれ、女性読者にとっては首肯し考えさせられるところも多い一編だ。文藝春秋 1650円
あざぶけいばじょう 作家。1991年生まれ。2021年からツイッターに投稿していた小説が話題になり、書き下ろしなどを含む『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』でデビュー。
※『anan』2024年4月17日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)