“何か起こるかも”という予感も見てもらえる一因に。
左・芝大輔さん、右・ともしげさん。
――テレビで見ない日はないといえるほどの人気ぶりです。重宝されている理由は何だと思いますか。
芝:僕たちにはおなじみのくだりやギャグみたいなものがないし、ともしげは別にボケてるわけでもなくて。そこに、構えずともずっと見ていられる要素があるのかな、とは思います。現象として存在し、たまに跳ねる時があったらラッキーくらいの、優しい気持ちで置いてもらっている感じでしょうか。手応えも、そんなにないですからね。
ともしげ:僕に至ってはもっとないですから。決められた文章は読めないし、ボケやツッコミをやるわけでもなく…。みなさんが思うイメージ通りでありたいと思うものの、最近は「イメージと違う」と言われたりもして、乖離をどうしたらいいのかと勉強中の段階です。
芝:俺が15年、言い続けていることですけどね(笑)。
ともしげ:細部まで教えてよ。
芝:たとえば、第一印象は可愛いとか言われるけど、よく見ていくと、爪鋭いじゃん、めちゃ交尾するじゃん、獣じゃん、みたいな。自分の欲が抑えられないようなところはあって、だんだんとめくれてきているというか。
ともしげ:それはそうですね。クロちゃんとかナダルみたいな方向に行くべきか、でもそこまでじゃないか、という葛藤もあって。どのタイプにも当てはまらないなって思ってますけど。
芝:多分、“お前はどこに当てはまるんだ”ということを、長い期間かけて試されていることが、ずっと使ってもらえている一因だと思うよ。でも、先輩方や伊集院光さんが、僕たちはコント55号さんに近いという話をしてくださったりして。その時だけのものをバンバン生み出そうとするところとか。
ともしげ:極楽とんぼさんも、コント55号さんみたいなスタイルだと言われていたことがあったよね。
芝:ヒヤヒヤする感じが近いのかもしれない。たしかにライブでも、“これどうするの?”という誰も手を出したくない時に、こっちを見られているなという意識はあって。それをギリギリすくい上げる姿を楽しんでもらえているということは、自覚していましたね。
――お互いの魅力を教えてください。
芝:どう転ぶかわからないのが、ともしげを使う上で難しいところ。でも、それが表裏一体で魅力でもあるので。計算できるものではないから、邪魔になる時もあれば、いて助かる時もあるという。約束ができないこのタイプがこの世界で長く生きていくことは、普通、絶対に無理なはずなんです。それでも唯一、置いてもらえているのは、僕が15年間以上にわたって賭けてきた彼の魅力みたいなものに共感する人が、だんだんと増えてきたのかなと。
――ともしげさんがテレビに出ていると集中して見てしまいます。
芝:僕たちは、いつ面白いことが起こるかわからない、見逃したくないというワクワク感のある昔のテレビがすごく好きだったんですけど、ともしげは、そういうものなんじゃないですか。ブラウン管みたいに四角いし(笑)。
ともしげ:でかいしね。
芝:最悪、何も起きなくても、何か起こるかもしれないという“予感”があれば見ていられるし、それは僕らの芸風にもなっているので。一度、めっちゃ面白い漫才ができても、二度はできないということの繰り返しです。
ともしげ:芝くんには、僕がウケているのは本当に偶然だから、私生活が真面目じゃないと、噛んだりしても笑えなくなるからとよく言われます。
芝:本人が真剣だという振りがあるから、ミスが笑いとして成立するので。
ともしげ:でも、僕は芝くんが相方でよかったです。本の通りにできないからネタにならないし、作品性を求める人とはうまくいかない。付き合ってくれているので、本当に感謝ですよ。
芝:付き合うというか、天気と一緒じゃないですか。ずっと見ていれば備えることはできるし、雨が降っちゃったら、傘を差すか、濡れたままにするか、意外と降らなかったな~となるか。そういう感じなんですよね。
――芝さんは、「俺たちを誰も知らない漁村で漫才をやってもウケたいよ」とおっしゃっていたそうですが。
芝:漫才って、知らない人が見ても笑える喋り方とか技とか様子のことだから、それは忘れずにいなければいけないなと。ネタに意識がいきすぎると、本当に“面白い”になるのかなぁと思いますし。理想の漫才は、1時間でも一日中でもやり続けられる輪郭のないもので。中川家さんや同じ事務所のナイツさんは、きっと朝から晩までできる人だし、見る人も見ていられる。“今ネタに入りました”という野暮ったさも一切ない、喋り出したところから漫才というものがいいですよね。
――魅力のある芸人はどんな人ですか。
芝:上っ面じゃない優しさがある人じゃないですか。人を楽しませる仕事だから、目の前の人や画面の向こうにいる人の気持ちを考えられる人が残っている感じがする。営業妨害かもしれないけど、永野さんは容赦なく世の中の人に向かっていくけど、根が優しいからこそ、言えるものがある。結構、優しさと残酷さは紙一重だと思うし、だからこそ笑えるんだろうなと。有吉(弘行)さんとかも、辛辣なことを言うけど、それは、自分がしんどい経験をしているから言えることでもあって。
ともしげ:僕が変な感じになった時も、すごく助けてくれましたから。
芝:辛辣なことを言ってウケるのが芸。ネットのつぶやきとの違いですよね。
――同じ企画に登場する、ヤーレンズさんの魅力を教えてください。
芝:こんなにうまい漫才師がいるのかという最初の印象が、ずーっとあるコンビです。お互いのネタを交換してやる機会があったんですけど、まー、難しかったですから。十分にうまいというところは通り越して、うまいをずっと突き詰めていったからこその苦しい時期もあったと思うんです。一番うまいのに売れることから遠かった時期もあったし。根性がありますよね。
ともしげ:努力と向上心、やる気がすごくて、ネタ見せをした時も、ちゃんと人の意見を受け入れていましたね。ネタに向き合わなければいけないことを教えてくれたのもヤーレンズです。
芝:それこそ、ヤーレンズと錦鯉と虹の黄昏の4組でオールナイトライブをやっていたんですけど、他のコンビが何もしないから、ヤーレンズが会場手配やお金のこととか全部、担当してくれて。むちゃくちゃ楽しかったし、今の4組でやったら当時とは違うものにもなって楽しいだろうなと、話したりもしていますよ。実現したいですね。
モグライダー ネタ作り担当の芝大輔(左)と、ともしげ(右)のコンビ。2009年結成。『ジョンソン』『ラヴィット!』(共にTBS系)、『月ともぐら』(テレビ東京)、『金曜日のメタバース』(テレビ朝日系)、『しずおかごはんが食べたい!』(テレビ静岡)など数々の番組にレギュラー出演。
※『anan』2024年3月20日号より。写真・岩澤高雄(The VOICE) 取材、文・重信 綾
(by anan編集部)