“業界騒然”“プロも虜にする”“才能の塊”と、彼を評する美辞麗句には事欠かない。しかも、それがハッタリではないことは、一度でも彼の音楽を耳にすればわかるはず。17歳のときにデビューし、その時点ですでにJ-POPを変容させる可能性を感じさせた“アンファンテリブル(恐るべき子ども)”。
そんな「ぼくのりりっくのぼうよみ」(以下、ぼくりり)さんは現在19歳の大学生。最近では、文芸誌にエッセイを寄稿したり、クラウドファンディングでオウンドメディア「Noah’s Ark」を立ち上げたりと、さらに表現のフィールドを拡げている。
――楽曲が映画やドラマの主題歌になるなど、快進撃が続いています。特に、資生堂『アネッサ』のCMソングになっている「SKY’s the limit」は、マイナーコードでクールなこれまでのトーンと違う、明るくてキャッチーな曲ですね。
ぼくりり:歌詞もすごくポジティブだとか言われますが、意識としてはそんなに変わっていないんですけどね。ところどころ、応援ソング的なフレーズが交ざっているくらいで。CMタイアップのお話をいただいたのは、去年の夏でした。ちょうどセカンドアルバムの制作に取りかかっていた時期だったので、制作のタイミングの問題で、いまスポットで流れている短いサビのところだけまず作って、少し寝かせてたんです。ひらうた部分を作ったのはその3~4か月後だったかな。実際にレコーディングしたのは3月、MVは4月20日ごろです。公開までの流れがすごく早かったです。
――新曲に込めたメッセージがあれば教えてください。
ぼくりり:いまはたくさんの人がインスタグラムなどのSNSで、キラキラした写真とか上げていますよね。実際はカフェでおしゃれランチなんて週2回しか行っていなくても、そうやって“理想の自分”を表現する。インターネット上で運営している自分と、実際の自分との間に乖離があったりすることに対して、「盛るな」「ウソじゃん」とディスるのをよく目にするけど、その何が悪いのか、僕にはピンとこないというか。自撮りアプリの「SNOW」とかで、かわいこぶるのも別にいいじゃないですか。だからそのアンチテーゼとして、インスタグラム上のキラキラしたアカウントを肯定するような曲を作りたいな、と思ったんです。
――その新曲のMVの中で女装もしてますし、「SNOW」で加工した映像も入れてますね? 女の子みたいにかわいいというコメントも見かけます。
ぼくりり:「こう見られたい」というのがあるなら、自分を演出していいんだよという。メッセージを発信する側としては、自分から率先してやってみせないと、と思って。いや、別に女装したかったというわけではないんですが…。女装した感触ですか? みんな褒めてくれたので、ハマるとヤバいなと思っていますね(笑)。
――いつもMVやCDのアートワークもカッコいいですよね。今回もハジけたパーティ感がよかったし、ぼくりりさんは、それにどのくらい参加しているんですか。
ぼくりり:どのくらい関わるかはそのつど違うんですが、今回はかなり最初から入っています。ぼんやりと僕が感じたイメージを監督さんとかアートディレクターさんに伝えて、それを受けて提案してくれたのを「あ、それいいですね」と少しずつ詰めていってできあがる。
――アーティストとしての「ぼくりり」さんって、たぶん素のぼくりりさんとは違うんだろうとも思うし、一方では、実はほとんど素のままなんじゃないかとも思ったりします。
ぼくりり:その使い分けはあるにはあるんですけど、それほど厳密じゃないというか。これもぼくりり、あれもぼくりりという感じで、いろんな面があることを、アーティストとしてはいっぱい出していきたい部分でもあるので。
――ぼくりりさんの歌詞に、慰められる人もはっとさせられる人もたくさんいて、語彙の豊かさや言語感覚の鋭さについてはよく評判になっていますが、1曲書くのに、どのくらいかかるんですか?
ぼくりり:だいたい納期の前日に「ヤバっ」ておもむろに取りかかります。段取りができないので…。実際、それで致命的に遅れたこともないし、なんとかなるだろうと。リリックのテーマは、そのときどきで巷で話題になっている現象について書くことが多いですね。いまの社会や人々を見ていて気づいたことに、自分なりの理屈をつけてまとめている感覚なんです。インスピレーションで書いている気がしないから、才能の有無なんて関係あるのかなと思ってしまいます。
――音楽活動以外に、小説やエッセイを発表するなど文芸の活動もされていますよね。長い文章を書くのと、歌詞のような短い文章を書くのでは、感覚は違いますか?
ぼくりり:そうですね、違うと思います。そもそも音楽と小説では何を受け取ってもらいたいかという目的が違うから。たとえば洋楽とかは「歌詞の意味はわからないけれど、発音された単語の響きが“耳に心地いい”」ってこと、ありますよね。僕もそうなんですが、何を求めて音楽を聴くかといえば、やっぱり歌詞の意味より、音やリズムに乗る快楽なんです。というのも、メジャーデビュー1年半で僕が獲得した率直でリアルな実感が、「みんな、それほど歌詞を掘り下げて聞いていないんだな!」(笑)。だから、曲を作るときも、言葉というファクターは大事にはしているものの、どう韻踏みして音に酔ってもらうかという身体的な感覚を優先します。
あと、歌詞だと削って削って「あとは想像で補って」と受け取る側に委ねていた部分も、小説ではストーリー展開やキャラクターたちの描写を削りすぎると「何が言いたかったお話なの?」って全然伝わらなくなる。文字を耳で楽しんでもらうか目で楽しんでもらうかのバランスが全然違うなあと思って、小説は難しいですね。だから、SFアンソロジー『伊藤計劃トリビュート2』(早川書房)に短編を寄稿させてもらったときも、あれでよかったのかなという気持ちは拭えなくて…。音楽ならそれがカッコイイ表現かどうか、自分のセンスですぐわかるのに、小説についてはまだ面白いかどうか客観的に見られないです。人に読んでもらうときに、小説はめちゃ緊張します。
――音楽をやっていないとき、たとえばお休みの日とかは何を?
ぼくりり:だいたいゲームですね。DSも、ちょっとなつかしいニンテンドー64もボードゲームも、ゲームなら何でも好きだし、最近は『モンスターハンター』をめっちゃしてます。理想の休日は、友だちとゲームして、焼き肉を食べに行く…とかですね。そうだ、いまマンガを描いているんです。
――え、マンガですか!?
ぼくりり:最近、『HUNTER×HUNTER』を読み直して、傑作だなあとあらためて思ったんです。それがきっかけで、自分もバトルマンガが描きたい! という衝動に駆られまして。音楽家ということを切り離して考えれば、19歳の男があの作品に影響を受けてマンガを描き始めるって、わりと普通というか、きっといっぱいいるだろうと。なので、いろんなマンガを買ってきて、第1話の作り方を研究しています。それでわかったのが、『NARUTO-ナルト-』の第1話の完成度が異常に高いってこと。100点満点じゃないですかね。今後の物語を進めるうえでの関係図を説明しすぎず、それでいて読者の興味を逸らさないで描けてるのがすごい。
…って何の話してるんだ…。ただ、いざ自分でやってみると難しくて、公開もいつになるかわからないですけれど。それは「ぼくりり」という名前と関係ないところで挑戦したいので、ふつうに『週刊少年ジャンプ』の新人賞とかに応募してみようかと思ってます(笑)。
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