相澤いくえさんがマンガ『モディリアーニにお願い』の舞台のモデルに選んだのは、昨年3月まで自身が通っていた美術大学。芸術への憧れ、才能への嫉妬、将来への不安などが入り交じる美大ライフが、ビビッドに描かれている。
「主人公を女の子にすると、自分を重ねすぎてしまうかなと思い、劣等感を持つ男子学生にしました。私の母校も作中同様、女子だらけの美大。主人公たちが異性に対してめっちゃシャイというのは、“東北男子あるある”かもしれません」
才能という途方もない怪物に戦いを挑む彼ら。個性が際立つ泣き顔の切なさは、本作の魅力のひとつだ。ライバルの才能に嫉妬して泣き、自分のふがいなさに泣き、すばらしい作品やその創作者に感動して泣く。
「学生当時の私の気持ちを詰め込んだ感じですね。涙もろいんです」
心を揺さぶるそうしたシーンで放たれるセリフがまた秀逸だ。なかでも、壁画の千葉が憧れの女子の先輩から言われたひと言<不安はね、たった1本の、丁寧な線で倒せるんだよ>は、涙腺決壊の恐れあり。
「ほとんどは、美大時代の先生や周囲の人たちの言葉をベースに考えたものなんですが、先の言葉は、私自身が本気で信じていること。読者さんから『このセリフに号泣した』と言われるとうれしいですね」
イマドキめずらしく、画材はGペン、丸ペン、インクのみ、だそう。
「イラストレーターの中村佑介先生が昔ツイッターに『お金を出して買ってもらうには、人がマネできない労力だとか何か違う価値がなければいけない』とつぶやいていて、絵に自信がない私ができることは何かと考えました。スクリーントーンなどは使わず、背景の細かな線などもすべて手描きにしています」
震災の悲しみを日々の営みに溶け込ませている彼らの姿も描かれ、人として、アーティストとして彼らがどう成長していくか楽しみだ。