ティモンディ・前田裕太「全読者が1000%裏切られる」 話題のSF小説『三体』の魅力を語る

エンタメ
2023.08.27
読書家であり、これまでに数々のSF小説を読んできたというティモンディの前田裕太さん。世界中で一大ムーブメントを起こし、Netflixでの実写化も話題の『三体』をはじめとするSF小説の魅力を語ってくれました。

理論に基づいた現実にありそうな物語が好き。

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――最初に触れたSF作品は何でしたか?

筒井康隆先生の『時をかける少女』です。先にアニメを見ていたのですが、僕が好きな『現代語裏辞典』を書いている人が原作者なんだと知り、興味が湧いて読みました。すると、科学的な裏付けや人間ドラマが熱く描かれていて楽しくて。それが高校3年生くらいの時でした。

――前田さんが思うSF作品の魅力とはどんなものでしょうか。

幼少期には『ハリー・ポッター』や『バーティミアス』などファンタジー作品を読んでいたんですけど、SF作品は、“F=フィクション”に“S=サイエンス”がついているように、理論や理屈があって作られた“本当にあるかもしれない”と思わせてくれるストーリーが面白いです。映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の世界が近づいてきた時に似たワクワク感があるというか。しかも、毎年、さまざまなSF作品が発表されますから、“ようやくあの作品の世界に現実が近づいてきた”と思っていた矢先に、さらに想像を超えた新しいアイデアで描かれた作品が登場するから、結局、いつまでも追いつけない。追いかけても手に入らない好きな人、みたいな魅力もあります(笑)。

――近年、中国の作家・劉慈欣の手がけた『三体』シリーズが、世界で大きな話題になっています。

バラク・オバマ元米大統領がスピーチで『三体』の話をしているのを聞いて読んでみたら、とんでもなかったです。まさに、出合えて嬉しい作品ですね。『三体』は3部作で、1部が『三体』、2部が『三体II 黒暗森林』、3部が『三体III 死神永生』となっています。それぞれに異なるSFのいいところがグッと色濃く出ていて。1部は歴史を絡めた少し難解な部分があり、2部と3部に関しては、SF要素と、激しいバトルシーンが登場するなどエンターテインメント性が増していきます。1部を読んだ後に、これを超える作品はあるのだろうかと思っていたら、2部で軽く超え、さらに3部でも超えていったので恐ろしいなと思いました。3部の途中からうれションが止まらなくなり(笑)、読み終わった後は30分くらい放心状態になって現実に戻ってこられませんでした。人間の脳みそが、ここまで面白くて楽しいものを考えつくんだなと。想像を裏切るとかではなく、誰も想像のつかない展開が繰り広げられる。つまり、全読者が1000%裏切られるし、リアリティゆえのゾッとする感じも体験できる。エンターテインメント性の高いSF作品の中でもトップクラスに面白いです。世界中のファンたちがこぞって二次創作をしていますが、作品の余白の部分を自分なりに想像して楽しめる、“はかどる”作品でもあると思います。二次創作が熱いというのは、元の作品が最高だという証拠でもありますから。『三体』の出版社が、二次創作作品の中から「これは公式と言っていい」というものにお墨付きを与え、『三体X 観想之宙』として出版しているのも面白いです。

――日本でここまで人気になった理由は何だと考えますか?

作者の劉慈欣先生は、検閲のために日本の作品を読むことが難しかった時代が終わったタイミングで、小松左京先生の『日本沈没』や、星新一先生の作品に触れ、日本にこんなに面白い作品があるんだと思ったそうで。『三体』の源流を辿ると、日本のSF作品にインスピレーションを受けた部分があることは間違いないとも公言しています。だから日本人は、『三体』で描かれているものに馴染みがないわけではなく、作中で起こる突飛な出来事に対しても、“意味がわからない”で終わらない何かがあると思います。日本のSF黄金世代の源流を濃縮し、劉慈欣先生の味付けをした、エンターテインメントの原液みたいなものが『三体』ではないでしょうか。

――内容や言葉が難解で、途中で止まっているという人も少なくありません。前田さんはどのようにして読んでいったのでしょう?

結構、いろいろな部分を読み飛ばしながら読みましたね。科学的な部分は本当に何を言っているかわからないところも多く、最初は理解しようと頑張って調べたりもしましたが、個人的には“調べたとて…”くらいだったんです。何度も繰り返し読んでいますが、ちゃんと理解している理論は2割くらいしかないし、それでもめちゃくちゃ楽しめます。難解な部分は、物語の展開に根拠や裏付けがあるよ、適当なことを言っているわけじゃないよ、と伝える時間だと考えています。思っているよりも適当に読んでいいと思いますよ。翻訳をしている大森望先生ですら、「読み飛ばしてますよ」と言っていますから(笑)。登場人物たちの名前も難しいと感じるかもしれませんが、極論を言うと、物語が壮大すぎて一回しか名前の出てこない人もたくさんいます。そういう人は“誰だっけ?”のままでよく、“よく出てくるな”という人だけ覚えておけばいいのかなと。本に主要人物の名前が書かれた小さな冊子が付いているので、気になった人がいたらそれを見れば大丈夫。“地球の歴史で考えたら一人一人の名前なんて覚えられない”くらいの気持ちでいてください(笑)。

――ついに実写化もされます。

こんな面白い発想や壮大な世界が実写映像化できるのか、どのように描くんだろうか、と思いました。世界中に多くのファンがいるということはプレッシャーもすごいでしょうし、制作側の腕も試されるでしょうし。でも、SF小説を実写化した作品を見ると、本では難解で不明瞭だった描写が、映像で見るとすぐにわかることも多くて。たとえば、「重力に耐えるために接合部分がどうのこうの~」みたいな表現が、映像では部品を映して終わりとか。『三体』も、小説では“わかる人にはわかる”だった部分を、視覚表現によってみんなが理解できるものにしてくれそうだという期待があります。100%、楽しみです!

『三体』

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アジア初のヒューゴー賞受賞作。
文化革命で父を亡くし、人類に絶望した女性科学者の葉文潔は、宇宙に向けて電波を発信、それが惑星「三体」の異星人に届く。すると彼らは地球への侵略活動を開始、とんでもない災厄に襲われることになる。『三体II 黒暗森林』『三体III 死神永生』と続く3部作。実写版がNetflixで来年1月から配信予定。劉慈欣 著 立原透耶 監修 大森望、光吉さくら、ワン・チャイ 訳 早川書房

まえだ・ゆうた 1992年8月25日生まれ、神奈川県出身。芸人。『ハレバレティモンディ』(札幌テレビ)、『天才てれびくん』(NHK Eテレ)、ラジオ『ティモンディの決起集会』(FM愛媛)などにレギュラー出演中。エッセイの連載も。

※『anan』2023年8月30日号より。写真・小笠原真紀 取材、文・重信 綾

(by anan編集部)

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