意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する連載「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「イギリスTPP加盟」です。

ようやく合意。この後は中国と台湾の問題が。

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TPP(環太平洋パートナーシップ協定)に参加する11か国は、3月末にイギリスの加盟に合意しました。TPPは、太平洋を囲む国同士でモノの関税をなくし、さらにサービスや投資などの自由化を目指す経済連携協定です。元々は2016年にアメリカ、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナム、日本の12か国で署名したのですが、トランプ政権になりアメリカが離脱。 ’18年に11か国で発効しました。

イギリスがTPPへの加盟を申請したのは’21年2月。前年にEUを離脱したため、独自の経済圏を拡大する必要がありました。イギリスが加わることで、TPP加盟国の世界に占めるGDPは、12%から15%に拡大します。

TPPは経済的な効果以上に、安全保障分野で“対中国包囲網”を作ることに大きな意味がありました。ところが、アメリカが抜けたことによりその意味合いは大きく後退しました(のちに’16年に掲げられた自由で開かれたインド太平洋戦略に置き変わります)。

そんななか’21年9月に中国と台湾がTPP加盟を申請し、ねじれが生じます。中国の加盟を許せば、対中国包囲網という安全保障の目的が根本から崩されることになります。しかし、拒否すれば、中国としては「環太平洋地域の国とは貿易はしない。中国と貿易したいのならば、中国のアライアンスに入ってください」というメッセージになり、中南米やアフリカ、太平洋の島々の国々は、パワーのある中国の経済圏になびいていくでしょう。また、中国の加盟を認めれば、台湾は絶対に入れなくなります。また、貿易も投資などのルールを作るときにも、中国は情報の不透明さがぬぐえず、対等な契約を結ぶにはリスクがあります。

加盟の承認は、全加盟国の合意が必要。イギリスは発効以来初めて加盟が認められた国。合意には2年かかりました。他にもエクアドルやコスタリカ、ウルグアイが加盟を申請していますが、中国と台湾の問題をクリアしないことには結論を出せません。ジレンマを抱えたまま、日本はひたすらアメリカに戻ってきてほしいと願っています。

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ほり・じゅん ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~8:30)が放送中。

※『anan』2023年5月31日号より。写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子

(by anan編集部)

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