意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する連載「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「日銀新総裁」です。

金融政策の舵取り。学者ならではの判断に期待。

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4月9日、日銀新総裁に植田和男氏が就任しました。日銀総裁の交代は10年ぶり。日本の金融政策を決める大事な存在で、内閣が任命し、国会にはかり衆参両院の同意を得て決まります。

日銀は中央政府から独立した立場ですが、安倍政権下では政府と一体となり政策を打ってきました。2013年にスタートした黒田東彦前体制では、アベノミクスの一環として、「デフレからの脱却」を目標に、量的・質的金融緩和を行い、市中にお金を大量に流しました。賃金上昇を含む、2%の物価上昇を目指し、お金を借りやすい状況を作ったのです。しかし、賃金は思うように上がらず、「2%上昇」の目標には達しませんでした。

日本は「イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)」という独自の政策を’16年より導入しています。マイナス金利を適用して短期金利を操作しながら、長期国債の利回りが0%程度で推移するように、日銀が国債を買い入れるというものです。ただ、長期金利の操作は、大型船を操縦するようなもので、ほんの少し向きを変えただけでも軌道が大きく変わります。植田新総裁は、基本的には黒田前総裁の路線を踏襲しながらも、長期金利の操作に対しては慎重な立場。G7の財務相・中央銀行総裁会議では「物価安定目標の持続的で安定的な実現を目指し、金融緩和を継続する」と述べました。

日銀総裁は、財務省出身者と日銀出身者が交互に務めることが続いていましたが、バブル崩壊後は3代続けて日銀OBが就いていました。しかし、今回は異色の人事で、植田新総裁は経済学者。東京大学で長らくマクロ経済を教えており、日銀職員のなかには教え子も多く、強い結束力が期待できそうです。世界的には、学者が中央銀行の総裁を務めることは珍しくありません。最新の経済や世界動向を俯瞰視できることは大きな力になります。ただ、現場は理論通りにはいきませんから、マクロな視点を持ちながら、ミクロな私たちの暮らしにどの程度敏感でいられるのか、植田総裁のバランス感覚が問われます。経済成長しておらず、国際情勢は不安定で、インフレが進む今、新総裁の差配に注目しましょう。

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ほり・じゅん ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~8:30)が放送中。

※『anan』2023年5月3日‐10日合併号より。写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子

(by anan編集部)

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