小学校時代の担任教師・中山が溺死した知らせを受けて動揺する光は、偶然再会した元同級生・琴葉に「私が先生を殺した」と告げられる。一緒に逃げてほしいと請われ、光は急遽、琴葉と一緒に京都へ。それは19歳となった彼女たちにとって修学旅行のやり直しの旅でもあった…。武田綾乃さんの新作『噓つきなふたり』は、謎の不穏さと旅の楽しさが入り交じる長編小説。

修学旅行をやり直す19歳のふたり。それぞれが抱える、嘘と真実とは。

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京都は武田さんの出身地でもあるわけだが、

「それまで数か月に一度は実家に帰っていたのに、コロナ禍で戻れなくなって寂しくて寂しくて。それで、京都が舞台の小説を書こうと思ったのがはじまりでした」

その後、都道府県間の移動が可能になってから、地元の友人とふたりで京都巡りをした。

「京都に住んでいた頃は、かえって名所巡りをしなかったんです。それで、ネットで京都修学旅行ルートを検索して、あえてベタな観光地巡りを計画し、小説に反映させました」

京都タワー、二条城、伏見稲荷、嵯峨嵐山――光と琴葉の旅程に、自分の修学旅行を思い出す人も多いのでは? 一方で、琴葉が本当に中山を殺したのかも気になるところ。と同時に、読者は、厳しい母親の言いなりになってきた光も、なにか秘密を抱えていると感じるはず。

「光は、自分の人生は親に決められている、だから自分のせいじゃない、と思っている。本当は選べるのに、選ぶことを放棄している子というイメージでした。琴葉は、人を疑う気持ちと人を信じたい気持ちの間で揺れ動いているところがあります。他人から“いい子だね”と言われると、舐められていると感じる子のイメージでした。ふたりとも欠点はあるけれど、それも含めて人間らしくてチャーミングだなと思っています」

優等生だった光と、問題児だった琴葉。ふたりの共通点は、小学生時代、子供らしく振る舞うのが苦手だったことと、中山が苦手だったこと。回想シーンで描かれる、独善的な中山の振る舞いが実にもう嫌な感じ!

「小学校時代に人気者だった先生でも、大人になって振り返ると、“先生のあの言動って良かったのかな”と思ったりしますよね。それに、悪い人ではないけれど自分とは合わなかった先生もいる。そういうことが書きたいなと考えているうちに、中山先生の“嫌な人エピソード”がどんどん浮かんできて。ノリノリで書きました(笑)」

現在パートも過去パートも、とにかく会話がリアル。やがて光と琴葉は“嘘”と向き合い、中山の死の真相も明らかに――。

「実は最初イヤミス的な展開を考えていたんです。でも書くうちに、今回はそういう話じゃないな、と気づいて。そこからずいぶん改稿して、また違う読み心地になりました」

若い世代の心の揺れを濃密に描くこの物語が、どこに向かうのか。エピローグには胸が熱くなります。

『噓つきなふたり』 実家を出た後も母親に支配されている19歳の光。偶然再会した元同級生の琴葉に教師殺害を告白され、ふたりは京都へ逃避行する…。KADOKAWA 1650円

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たけだ・あやの 2013年に『今日、きみと息をする。』を刊行してデビュー。「響け! ユーフォニアム」シリーズがアニメ化され話題に。’21年『愛されなくても別に』で吉川英治文学新人賞受賞。

※『anan』2022年12月28日‐2023年1月4日合併号より。写真・土佐麻理子(武田さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世

(by anan編集部)

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