職を失い、妻に捨てられた中年男・治と、母親から伯父である男の元に押し付けるように預けられた少女・優子。長崎でのひと夏の同居生活を軸に、ふたりを取り巻く人々を描いた舞台『夏の砂の上』。本作で舞台デビューを果たす山田杏奈さん。出演を知らされたのは、約2年前だったという。

日本を代表する演出家との初舞台。「努力でどうにかなることは全部したい」

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「前々から舞台を観るのは好きで、やる方々のすごさを実感するからこそ、自分が立てるとは到底思えない。だからこの2年、ずっと心に“この時期に舞台をやるんだ”っていうのが引っかかっている感じでした。でも、ずっとドラマをやってきて、自分の芝居の仕方が固まってきちゃっているのを感じるんです。それを一回リセットする意味でも自分のコンディション的にも、今すごくモチベーションを持って臨めるタイミングなのかなと思います」

主人公の治に田中圭さん、姪の優子に山田さんが扮するが、ふたりの過ごす日々は、大きな事件が起こることなくたんたんと過ぎてゆく。

「戯曲を読んでも、すべてが文字で説明されている作品ではないんですよね。演出の栗山(民也)さんからは、『みんな話していることの半分嘘だから』と言われました。嘘をつきたくてついているわけじゃないときもあれば、じつはそんなに考えてしゃべってないと感じる場面もあって、いくらでも解釈の仕方ができるのが難しいです」

登場人物たちはみな、どこか閉塞感や心の渇きを抱え、何気なく交わされるセリフの数々から、微細に揺れる心情が漏れ出す。

「共演の先輩方のお芝居から長崎の情景とか、天気や湿度、温度とかそういうものを感じるときがあって、すごいなぁと思っています。全体的に喉の渇きとか暑さとか“渇き”が出てくる作品なのですが、最後の方に、渇きが満たされた瞬間のセリフがあって。それが伝わるように私もちゃんと表現できたら、このホンの素晴らしさを伝えられるのかなと思っています」

初めての挑戦に戸惑いながらも、「頑張ってどうにかなることならば、全部やろうと思う」と、まっすぐな努力家の一面をのぞかせる。

「この役を私でいこうって決めてもらったからには、私しかやる人がいないんです。頑張って近づけたりレベルアップができるなら、それも含めて私の仕事で、自分がやるべき最低限のことだと思っています」

今作に限らず、映画『ひらいて』のこじらせた恋心を狂気に変え衝動的な行動に奔る主人公など、容易には理解が追いつかない行動をとる役もリアルに演じてきた。

「自分の理解できる範囲から少しずつ役を構築してはいくのですが、それでもわからない場面は身を任せてみるようにしています(笑)。ただ、現場で“わからない”とは言いたくないんです。それって“私にはできません”“そこまで芝居できません”って言っている気がして、悔しいじゃないですか。『ひらいて』を撮っていたとき、母親に“なんでこんな行動するのかわかんない”って言ったら“私はわかるよ”って言われて、悔しくて仕方がなくて…」

その負けん気が、心強く逞しい。

「私が演じた役が観る人にとってはすべてになるわけですよね。観てくださる方に失礼のないよう、100%のベストを尽くすのは当然のことなんです」

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舞台『夏の砂の上』 造船所の職を失い、妻・恵子(西田尚美)にも去られた治(田中圭)。そこに治の妹がやってきて、娘の優子(山田杏奈)を預ける。治と優子の同居生活が始まって…。11月3日(木)~20日(日) 世田谷パブリックシアター 作/松田正隆 演出/栗山民也 出演/田中圭、西田尚美、山田杏奈ほか S席8500円 A席6500円(高校生料金、U24チケット、友の会会員割引、せたがやアーツカード会員割引あり) 世田谷パブリックシアターチケットセンター TEL:03・5432・1515(10:00~19:00) 兵庫、宮崎、愛知、長野公演あり。

やまだ・あんな 2001年1月8日生まれ、埼玉県出身。近作にドラマ『新・信長公記~クラスメイトは戦国武将~』。11月に主演ドラマ『早朝始発の殺風景』(WOWOW)がスタート。来年には主演映画『山女』も控える。

ドレス¥48,400 フーディーシャツ¥30,800(共にコトナ/アルファ PR TEL:03・5413・3546) ネックレス¥6,500(グレイ)https://graey.jp/

※『anan』2022年11月2日号より。写真・Sakai De Jun スタイリスト・中井彩乃 ヘア&メイク・菅長ふみ インタビュー、文・望月リサ

(by anan編集部)

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