睡眠を見直すことが、健康と美容への近道。
オンもオフも忙しく、つい睡眠時間を削ってしまう、なんて人に知ってほしいのは、睡眠時間を削るほど、日中のパフォーマンスは落ちるし、この時期特有の夏バテの症状も悪化するということ。
「睡眠中は何もしていないから無駄な時間と思う人もいるでしょう。でも脳と体の休養や、様々なメンテナンスが行われている、心身にとってとても重要で実はアクティブな時間なんです」(日本睡眠学会専門医・渋井佳代さん)
睡眠不足は自律神経の乱れを招き、体のメカニズムが崩れて肥満や病気を引き起こすことも…。
「リラックスして眠りにつき、毎日規則正しいリズムで睡眠時間をとれるのが理想です。でも、生活習慣や体質の違い、ホルモンバランスや感情の影響、季節の変化などで、睡眠サイクルは様々に変わります。良い睡眠のためには、○○をするべき、してはダメ、などルールに縛られて、ストレスを感じるようなら本末転倒です」
昼間やりたいことや、やるべきことが自分なりにできているなら良い睡眠がとれている、くらいに鷹揚に捉えればいい、と渋井さん。
「ただ、そもそも自分の眠りに無頓着な人も多いので、まずは睡眠のメリットやメカニズムを知り、眠り自体を見直しましょう」
良質な睡眠がもたらすメリット
美肌
美肌のカギを握るのが、肌の新陳代謝を促す成長ホルモン。成長ホルモンは深いノンレム睡眠時に分泌されやすいので、グッと深い眠りに入れるよう睡眠環境を整えたい。
痩せる
良質な睡眠で、食欲を調節するホルモンのバランスが整い、食べすぎが防げるように。また、気持ちが前向きになり活動意欲が高まって積極的に動き、消費カロリーがアップ。
脳の機能回復
睡眠で脳をメンテナンスすることで、記憶力は向上し、集中力、判断力が増す。眠くてどうしようもなく深夜作業をするより、潔く寝て翌日に回した方が脳の実力を発揮できる。
病気のリスク軽減
体の中に入ってくる様々な異物と戦うための免疫力は、睡眠中にしっかり全身がメンテナンスされることで強化される。免疫力=睡眠力と言っても過言ではない。
自律神経が整う
脳の疲労が解消されると自律神経の働きを司る脳の視床下部の働きも改善され、整いやすくなる。また、睡眠で感情が整う効果もあり、その面からも自律神経が整いやすくなる。
睡眠のメカニズムをおさらい
浅い眠りのレム睡眠、深い眠りのノンレム睡眠、どちらにも心身のメンテナンスにとって大事な役割がある。ノンレム睡眠とレム睡眠の1サイクルは60~90分で、これが一晩に4~5回繰り返される。浅い眠りの時に目覚めた方が脳と体が楽。サイクルには個人差があって、同じ人でも季節や体調などで違いが生じる。
【レム睡眠】夢を見ながら、脳は活発に活動中。
体は休み、脳内の記憶を司る“海馬”や感情を司る“扁桃体”、視覚イメージを生み出す“視覚連合野”は、覚醒時同様活発に活動。感情や記憶の整理に大きく関わる時間。覚醒の準備もしていて、エンジンを空ぶかししている、アイドリングのような状態。
【ノンレム睡眠】脳も体も休息モード。疲労をしっかりケア。
睡眠は脳も体も休息モードに入る、深い眠りのノンレム睡眠からスタート。4段階のステージがあり、深くなるほど脳はクールダウン、日中働きすぎた脳が休息できる。入眠がスムーズだと、就寝後30分から1時間程度で最も深いステージ4に達する。
レム睡眠~ノンレム睡眠の流れ
覚醒~睡眠段階1
感情を整理しながら、目覚めの準備にも余念なし。
日中に起こった出来事に対する感情の記憶の整理を行う時間。体は寝ていても、脳はいつでも目覚められる準備状態。睡眠時間が6~7時間経った頃、一番長いレム睡眠が訪れる。
睡眠段階1~2
うつらうつらとぼんやりした、深い眠りに入っていく初期段階。
はっきりと寝ている自覚はない睡眠レベルで、眠り始めとレム睡眠前後に訪れる。「横になったのに一晩中眠れなかった」という人は、この段階のまま朝を迎えていることが多い。
睡眠段階2~3
寝返りを打ちながら、脳と体はオフモードに向かう。
深い眠りに向かいながら、寝返りを打ったり、歯ぎしりをする程度には体が動く段階。脳では長期記憶を保存する作業が行われる。勉強などの記憶の定着には深い睡眠が必須。
睡眠段階3~4
ぐっすりと深い睡眠レベルで、心身の疲れを癒して。
一番深い睡眠レベル。入眠後30分~1時間後と、もう1サイクルの時、合計2回訪れるのが理想。脳も体も必要最低限の代謝エネルギーで抑えられ、疲れを癒す方に力を注ぐ。
渋井佳代さん 日本睡眠学会専門医。「スリープクリニック銀座」院長。患者のライフスタイルや職種に応じた、多様性に富むアドバイスに定評あり。女性ホルモンバランスの変化がもたらす睡眠への影響にも精通。共著に『女性のための睡眠バイブル』(主婦と生活社)。
※『anan』2022年8月31日号より。イラスト・髙橋あゆみ 取材、文・板倉ミキコ
(by anan編集部)