「感染症が広まって、緊急事態宣言が発令された2020年。はっきり言って、ああこれはもう一生ライブができないのかもしれない、と思いました。今後どう生きていくかみたいな。最初のころにライブハウスでクラスターが起きて、ライブ=悪みたいな風潮ができあがってしまった。それが本当に辛かった。私、娘が2人いるので普通にママ友とかもいる。そうすると、ライブハウスになんて行かない人はそういう見方しちゃうよなというのも理解できた。『ルール無視でやってるんじゃないの?』『ライブなんかなくても生きていけるし』っていう。だけどその一方で、ライブがないと生きていけない人たちがたくさんいることも私は知っているから。だからそれが苦しかったですね。音楽業界の本当の気持ちをどうにか分かってほしくて」
’20年も数か所の夏フェスに参加予定だったがそのほとんどが中止となった。唯一、感染対策を万全にし、大阪城ホールで開催された「THE BONDS 2020」で、ナヲさんは客席の変化に驚いたという。
聞こえるのは拍手の音だけ。そうか、そうなるんだって。
「マスク必須、お酒禁止、アリーナ席は1m四方ごとに区切られている。声出しはもちろんタオルを回すのも禁止。初めての規制だらけの中での開催で、演る方も観る方も戸惑いました。でも実は’12年に自分のスペースで暴れたい腹ペコ(マキシマム ザ ホルモンのファンの総称)たちのために、自分たちだけのテリトリーで自由にヘドバンも跳びはねることもできる“升席”を用意した『“マス”ター・オブ・テリトリー』というイベントをやったことがあるんです。だから、ソーシャルディスタンスをしっかりとった客席は既視感があった。だけど、声が聞けないのが本当に、ああこうなるんだ…とショックで。普通、フェスって大きなビジョンで『ネクストアーティスト!』って呼び込みがあって、ドンッと“マキシマム ザ ホルモン!”って名前が出る。そうすると『ワーー!!』ってもの凄い歓声が響く。「よっしゃ! やるか!」って出番前に一番テンションがあがる瞬間なんですよ。でも声出しはNGなのでバンド名が叫ばれてもパチパチパチって拍手の音しかしなくて。うーわ、この中でライブするのか、とちょっと身構えましたね。私たちは完全にライブバンドなんで、ライブは自分たちだけの世界じゃない。お客さんとのコールアンドレスポンスや、かまし合いで成り立っているところが大きい。それが、これどうなっちゃうんだろうって。私たちも不安だし、お客さんの気持ちも痛いほど分かる。歌いたいよね、叫びたいよね! って。お互いそういう気持ちを抱えたままライブしなきゃいけない現実は、なかなか呑み込めるものじゃありませんでした」
’21年も多くのフェスが開催を断念。ナヲさんは「当時は本当にきつかった」と振り返りつつも、「でも、みんな前を向いてたんです」と話す。
「当たり前ですけど、みんなすっごいいろいろ考えていたんですよ。『ロックなんてぶち壊してなんぼじゃん。ルール破ってなんぼでしょ?』って言われることもあった。そういう固定観念あるじゃないですか。でも、ロックの人って実は真面目なんです(笑)。すごく真面目に音楽のことを考えている。今はルールを守って大好きな音楽シーンの未来を守るほうがかっこいいって知っている人たちなんですよ。だから、みんなめっちゃ考えていたし、未来のために我慢もできた。それはお客さんもそうだし、主催者側もそうだと思う。特にミュージシャンが主催しているフェス…10-FEETや氣志團、西川(貴教)さんとか関係性が近いミュージシャンたちが、感染症対策を考えて、どうすれば開催できるか、どうすれば規制の中でお客さんたちが楽しめるかってやってる。それ見てたら、みんなでなんとか乗り越えて未来を目指したい! って気持ちになれた」
今年6月、マキシマム ザ ホルモンは5年ぶりの海外ライブツアーも敢行。フランスでは再延期となっていた世界最大級のメタル・フェス「HELLFEST 2022」にも参加した。
「みなさん、もうご存じだと思いますが、ヨーロッパではみんなマスクもしていないし、ライブで声もあげられる。あれ? コロナって日本だけで流行ってる? ってマジで思いました。いや、こんなに違うんだって。ステージが暗転してSEが鳴った瞬間の大歓声、1曲目が終わった後の鳴り止まない歓声。もう思わず泣いちゃいましたね。やっぱこれだ! これが聞きたかったんだって。それと同時に、日本のみんなもそうだよなって思いました。日本人だって歌いたいし、声をあげたいよって。ゆっくりかもしれないけど、取り戻せるように前進していきたいです」
日本ではまだまだ厳しい規制が続く。そんな中でも、変わっていく、突破していく糸口はあるとも。
「ネガティブの中に少しでもポジティブを見つけていくほうがよくない? って思ってるんです。声が出せないならと、うちのライブではペットボトルに何か入れて音を出す鳴り物OKのライブをした。するとみんな『じゃ、何を入れていこう』って、あれこれ工夫してくれるんですよ。ピーナッツ入れて叩きまくってたら、ライブ終わったらピーナッツバターできてた! ってSNSに上げてくれた子がいて(笑)。なんかそういうのいいですよね。制限された中でも、楽しんで遊んだもん勝ち。フェスもそう。ただ残念ってだけじゃなくて、自由に楽しんで、みんなで今年の夏を完走したいです!」
「SUMMER SONIC 2019 TOKYO」でのステージ。写真・浜野カズシ
メンバーの“歌と6弦と弟”担当のマキシマムザ亮君は実弟。7/10に出演した「京都大作戦2022~今年こそ全フェス開祭!~」を皮切りに、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2022」「SUMMER SONIC 2022」など大型フェスをはじめ、今年は全国各地のフェスに多数出演予定。
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※『anan』2022年8月10日号より。写真・小笠原真紀 ヘア・松岡克明(Spica) メイク・小原愛奈 取材、文・梅原加奈
(by anan編集部)