原作者・辻村深月、『ハケンアニメ!』の豪華声優陣に「しばらくしてから涙が…」

2021.12.3
2012年に『anan』で連載スタート。そして2022年5月、ついに実写映画化となった、辻村深月さんによる『ハケンアニメ!』。アニメ制作に携わる人たちに取材し、現場の空気や熱量をリアルに描きます。ここでは、映画化に寄せて辻村さんと吉野耕平監督のインタビューをお届け。“働く人”として、“作り手”として、同世代の2人が作品に込めた想いとは?

辻村さんスペシャルインタビュー:世界が変わるほどのアニメとの出合い。

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高校生の時、『少女革命ウテナ』で受けた衝撃を今もよく覚えています。何にも似ていない新しさがあって、これがオリジナリティというものかと度肝を抜かれました。高校生という多感な時期にこの作品に出合えたことは幸せだったと思います。他にも『新世紀エヴァンゲリオン』や『絶対無敵ライジンオー』など、成長過程で寄り添ってもらった名作がたくさんあります。『ハケンアニメ!』でも一生モノのアニメとの出合いを通じてこの業界に入ったという話がありますが、私自身そういう出合いをしたから今も小説家をやっているのだろうと思うし、そういう人たちをこの作品で描きたかったんだろうなと思います。

映画化のお話をいただいた時、プロデューサー・須藤泰司さんの「ものづくりに関わる人間として、この小説を映画にしたい」という気持ちをすごく感じたんですよ。その熱量に打たれておまかせしますとお返事したんですけど、その後も何かが決まるごとに、まるで身内のような熱量で報告してくれて、原作者のことも一緒に映画を作る仲間として引き入れてくださって、あたたかい現場だなと感じました。

私はといえば、俳優さん、声優さんが決まるたびに悶絶していました(笑)。子どものころから憧れていた声優さんもキャストにいらして、しばらくしてから涙が出てきました。アニメに関しては、ここまで作ってくださったことに対する感謝しかないです。劇中でも言っているように、覇権をとるようなアニメであるということを大事にしてくださって。スタッフのお名前を見た時は、なんて贅沢なんだろう! って。しかもみなさんそれぞれ自分の色がある方たちなのに、王子や瞳だったらどう作るだろうと創造性を寄せてくださったところも、プロのクリエイターだなあと感動しました。

『ハケンアニメ!』を書いた時、アニメ監督さんやプロデューサーさん、アニメーターさんに取材させてもらったんです。今回、映画化にあたり吉野監督が同じ取材先にも行かれたと伺って、10年ぶりの里帰りみたいで、感激しました。

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つじむら・みづき 小説家。2004年「冷たい校舎の時は止まる」で第31 回メフィスト賞を受賞し、デビュー。’12年『鍵のない夢を見る』で直木賞を受賞。’18年『かがみの孤城』で本屋大賞を受賞。最新作はホラーミステリー『闇祓』。

吉野さんスペシャルインタビュー:監督とはなんだろうと考えた作品。

『ハケンアニメ!』は、実は映画化のお話をいただく前から好きで、映像化してみたいと思っていた作品でした。『エンドローラーズ』という作品で葬儀業界を取り上げてから仕事ものに興味を持ち始めたんですが、アニメが好きなのでアニメの現場を描いた作品って何があるのかなと思って探していた時、『ハケンアニメ!』に出合ったんです。この作品はいろんなことがすごくニュートラルに描かれているところがいいですよね。アニメ業界って特別な世界だと思われがちだけど、実はすぐ近くでがんばって働いている人たちなんだということがわかるというか。上司やクライアントの急な指示に振り回されるとか、そういう“あるある”が働く人目線で書かれているのが面白いなと思いました。

映画化にあたって気をつけたのは、特別な仕事の人々の物語にはしないということ。疲れたらコンビニ菓子をかじって乗り切って、帰ったらまた洗濯物洗えてなくて、みたいな。帰りの電車ですぐ横に座ってる人の話、くらいの空気を大事にしたいなと思いました。業種は違えど僕も映像業界の人間なので、映画版の瞳監督には経験がかなり込められています。編集画面を見ながらブツブツ言うけど、言葉足らずでいまいち伝わらずキーッてなるところとか(笑)。

監督としては、誰よりもその作品に長い時間をかけるということを一つの拠り所にしています。映画の現場って、監督を立ててくれるんですよ。だけど「監督だから従う」ではなくて、この人はここまで考えてるんだなと信頼してもらえるようになりたいんですよね。それに、監督がスタッフに無理をさせるために普段やさしくするとか、そういうのって一見魅力的に映るけど、どこかズルいなと思っていて。作品のために必要だからやる、それをスタッフに命じるのは監督の責任なので。だから瞳がぎりぎりで変更をかけるシーンも、スタッフを囲い込むのではなく、あくまで瞳がそうしたいからやる、という形にこだわりました。そこは吉岡里帆さんとも「監督ってなんだろうね」と深く話し合いました。

Entame

よしの・こうへい 映画監督、脚本家、CM ディレクター、CG アーティスト。『君の名は。』では回想パートのCGと空間デザインを担当。昨年、初の長編作品『水曜日が消えた』が公開。ミュージックビデオやCM、アニメなど幅広く活動中。

『ハケンアニメ!』 2014年に刊行された『ハケンアニメ!』(小社刊)を原作とした実写映画。監督/吉野耕平 脚本/政池洋佑 配給/東映 2022年5月公開。情報解禁に先駆けYouTubeに予告編がアップされ、ネット上でも話題に。アニメ『サウンドバック 奏の石』特報アニメ『運命戦線リデルライト』特報※共にYouTube「東映映画チャンネル」内。©2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会 https://www.haken-anime.jp/

※『anan』2021年12月8日号より。取材、文・尹 秀姫

(by anan編集部)