STUTS「大衆に寄せすぎることなく…」 『大豆田とわ子』のED曲制作に込めた想いとは

エンタメ
2021.10.21
穏やかな笑顔のこの方は、ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』のエンディング曲を作ったSTUTSさん。音楽ファンに“天才”と目されてきた存在が、一般層からも注目を集めています。
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STUTSさんは、ヒップホップのトラックメーカーであり、MPCプレイヤー。その名を広く知られるきっかけとなった初期の名曲「夜を使いはたしてfeat. PUNPEE」(’16年)といった自身の楽曲制作はもとより、他アーティストのプロデュースや、テレビ、CMへの楽曲提供など多方面で才能を発揮。最近はなんといっても作編曲・楽曲プロデュースを手がけたドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』のエンディング曲「Presence」が大きな話題に。

――STUTSさんはMPCという機械を使って作曲や演奏をされていますが、そもそもMPCとはどういったものなのでしょう。

STUTS:サンプラーと呼ばれる機械の一種で、ヒップホップのビートや、ハウスとかテクノとかクラブミュージックを作る時によく使われるものです。曲を作るための機械なんですけど、演奏にも使えるので、僕はそれで演奏もしている、という感じです。

――音楽には、子どもの頃から親しんでいたんですか?

STUTS:そうですね。でも、音楽をすごく好きになったのは、やっぱりヒップホップと出合ってから。小6とか中1の頃で、友達が貸してくれたCD‐Rに、CHEMISTRYさんの曲(「BROTHERHOOD」)が入っていたんですけど、そこにラッパーのDABOさんがフィーチャリングされていて。その時に初めてヒップホップに触れたので、「何だこれは!」という感じで、しばらくこの曲ばっかり聴いていました。それから日本のコアなヒップホップとかアメリカのヒップホップも聴くようになって…。中学時代はヒップホップしか聴いていなかったです。

――すっかりハマったんですね。聴くだけではなく曲を作るようになったのは、いつ頃から? 

STUTS:中3です。気づいたらラップの歌詞を書いているぐらい、最初はラップをやりたいと思っていたんですけど、それにはビートが必要で。じゃあ自分で作ろうと、ヒップホップ雑誌のトラックメーカー特集みたいな記事を読んでみたんです。そしたらそこにMPCのことが詳しく書いてあって、これだと思って買いました。

――STUTSさんは、中高一貫の超進学校出身とのことですが、身近にヒップホップを楽しむ仲間はいましたか?

STUTS:それが全然いなくて…。レゲエが好きな人はいたので、その人に無理やり「ラップやって」って言ったことはありましたけど、それぐらいヒップホップを共有できる人はいませんでした。布教のために、おすすめの曲と、自分の曲も入れたMDを配りまくったりもしてみましたが、ガッツリ、ハマってくれた人はいなかったです(笑)。

――そんな中でも、STUTSさんのヒップホップ熱は変わらず。その頃からミュージシャンになりたいと思っていたんですか?

STUTS:いえ、そんなことできないだろうって勝手に思い込んでいました。ただ、音楽は別の仕事をしながらでも、ずっと続けていきたいと思っていたんです。実は、音楽にハマる前まで、お医者さんになりたいと考えていたんですけど、高1ぐらいの時にそれだと音楽を続けられないかもしれないと思い進路を変えました。

――では、どのタイミングでミュージシャンになろうと?

STUTS:大学院を出て、就職して、2年近く経った頃です。音楽だけで生活できるなんて思わずに、働きながら1stアルバム『Pushin’』(’16)を作ったんですけど、 同時に転職も考えていた時期で。ただ、どんなに行きたい会社でも一番にくるのは音楽だったし、アルバムを出せて以前よりも多くの人に聴いてもらえるようにもなったので、「もしかしたら音楽だけでも生活できるかもしれない」と、1回挑戦するつもりで会社を辞めました。

――それを親御さんに相談した時、びっくりされませんでした? 東京大学の大学院卒とのことですし、就職もして、ある意味、堅実な人生を歩んでいたと思いますが。

STUTS:びっくりはしていなかったですね。「覚悟ができているならいいのでは」と。すごく応援してくれています。ただ客観的に考えると、やっぱり申し訳ないような気もしますよね。大学院まで行かせてもらって、学んでいたことと全然関係ないことをしているわけですから(笑)。でも、自分の中ではすべてが今につながっているので、そういう経験も全く無駄にはなっていないのかなと思います。

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――最近のお仕事といえば、やはり『大豆田とわ子~』のエンディング曲「Presence」シリーズが話題でしたね。気鋭の5人のラッパーを迎え、ボーカルは松たか子さんが担当しています。

STUTS:それまで自分が作ったことのないようなバランス感の曲でしたし、テレビドラマで使われる曲ということで、あまりヒップホップになじみのない方々にも聴いてもらえる機会になる。しかも松さんに歌ってもらえるということで、作っている時はけっこうプレッシャーがありました。発表後にどんな反応があるのか想像できず、よくわからない音楽で終わってしまったら悲しいなと。でも、放送が始まってからネットを見てみると、わりと好意的に受け取ってもらえているんだなという印象で。テレビで流れる曲とはいえ、ビートもラップも大衆に寄せていなくて、自分が今までやってきたことの延長だったので、それを一般の方にも受け入れてもらえたのは、すごく嬉しいことだなと思います。

――現行の日本のヒップホップの最前線といえる曲が、従来のファンだけでなく、多くの人の耳に届いたのは意義深い気がします。

STUTS:メディアでは、自分の感覚とはちょっと違ったふうにヒップホップを紹介されてしまうこともあったので、そうじゃない感じでやれたらいいなと思って作ったところはあります。今回、こういう機会を任せてもらえてすごく光栄でしたし、あれをテレビでやろうとしてくださったスタッフのみなさんに、感謝の気持ちでいっぱいです。

10月27日、USEN STUDIO COASTにて単独ライブ「“90 Degrees”LIVE at USEN STUDIO COAST」が開催。オフラインでのチケットは完売していて、配信チケット(前売り¥2,500)が発売中。ゲストはKID FRESINO、JJJ、NENE、PUNPEE他。もしかしてあの曲も披露? と期待が膨らむラインナップ。見逃し配信は11月7日まで。

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スタッツ 1989年生まれ、愛知県出身。トラックメーカー、MPCプレイヤー。2016年、1stアルバム『Pushin’』を発表。以降、’18年の2ndアルバム『Eutopia』、’20年のミニアルバム『Contrast』など、コンスタントに楽曲をリリース。最新作となるSTUTS&松たか子 with 3exes名義のアルバム『Presence』が、CDとアナログ盤で発売中。

※『anan』2021年10月27日号より。写真・下屋敷和文 インタビュー、文・保手濱奈美

(by anan編集部)

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