前作『実録泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。』で自身のマゾヒズムと対峙した、ペス山ポピーさん。本作『女(じぶん)の体をゆるすまで』もペス山さんの極めて個人的な体験を綴っているのだが、この社会についての話ともいえる。

すべては女の体のせい!? 自らの性への違和感と救い。

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「前作を描き終わったらいきなり現実に引き戻された感覚になって、次に何を描けばいいのかわからない状態がしばらく続きました。たとえば自分が小学生のときのことを描こうと思っても、7年前で時が止まっているからびっくりするくらい筆が進まなくなってしまう。人生の終わりと捉えているあの出来事と向き合わざるを得ない状況になったんです」

7年前、ペス山さんはアシスタント時代にマンガ家X氏からセクハラを受けている。X氏のもとを離れたあともトラウマという苦しみが待っていて、トランスジェンダーのペス山さんは女に生まれた自分を今まで以上に追い詰めるようになる。

「小さい頃から抱えてきた、この体を許せない気持ちの到達点にセクハラがあったのだと思います。だからマンガがどんな結末を迎えるにしろ、このタイトル以外あり得なかった」

性への違和感を描くにあたり、幼少期や思春期の友人とのエピソード、学校での理不尽な仕打ちなどを振り返るのだが、いかに私たちが“男らしさ・女らしさ”を植え付けられて大人になるのかを思い知らされる。

「性差別や偏見が生まれるのは、教育にも問題があることを明かしたかったんです。そういう学校教育をたぶん加害者であるX氏も受けていて、被害者である私も受けているから。もし私がナイフで刺されたり、ぶん殴られたとしたら普通に警察に届けられたと思うけど、セクハラは受けたほうもそんなにひどいことじゃないと思ってしまいがち。時代が変わってきたからこの作品を描けたように、そういうことを許さない社会の空気が絶対に必要だと思います」

苦しくなる描写もあるが、ペス山さん持ち前のユーモアが救いにも。

「マンガを描きながらいつも思うのは、昔の私が読んで楽になるようなものにしたいってこと。似た悩みを抱える人も多いだろうし、社会問題に直面しているという意味では、みんな私と同じだと思うので、この社会を生きる人に読んでほしいです」

一見脈絡がなさそうだけど、「あれが描けて、やっとこのマンガが終わった! と思った(笑)」とほくそ笑む、番外編もお楽しみに!

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『女(じぶん)の体をゆるすまで』上・下 性被害は受ける側にも非があるのか。繰り返されてきた不毛な問いに、トランスジェンダーの著者が生き返るため立ち向かう、ジェンダー・エッセイコミック。小学館 各1200円 ©ペス山ポピー/小学館

ぺすやま・ぽぴー マンガ家。2017 年に、自身の性的嗜好を描いたエッセイ『実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。』でデビュー。

※『anan』2021年9月15日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

(by anan編集部)

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