――写真家の上田義彦さんが構想から15年かけて形にした最新出演作『椿の庭』がまもなく公開に。
ウンギョン:実はこの作品は、日本映画初仕事。『新聞記者』や『ブルーアワーにぶっ飛ばす』よりも前に撮り始めた作品なんです。お話をいただいた時は、世界的な写真家の上田義彦さんとご一緒できる喜びが大きかったですね。
――物語の舞台は海を望む高台の一軒家。家族の思い出が根付くその家を守り抜こうとする絹子(富司純子)と、ウンギョンさん演じる孫娘の渚との絆が描かれていますが、台本を読んだ時の印象は?
ウンギョン:私たちが何を守り、これからを生きていくのかについて語る映画なんだろうなと思いました。美しい世界観が台本を読んだだけでも伝わってきたので、監督は本当に自然を愛している方なんだなという印象を受けたのも覚えています。
――葉山の古民家で、実際に1年かけて撮影されたそうですね。
ウンギョン:葉山は初めて訪れた場所だったのですが、本当に素晴らしいところ。すべての景色が絵のようだったというか。素敵な家で日本の四季を感じながら撮影した葉山での1年は、二度と経験できないと思うくらい夢のような時間でした。
――ちなみに一番好きな季節は?
ウンギョン:子供の頃は雪を見るのが楽しかったので、冬が一番好きでした。でも最近はもう、冬は骨が痛むくらい寒いので辛いです…(笑)。今一番好きなのは、春と夏の間。自分の誕生日が5月というのもあるんですけど(笑)、暑くもなく、寒くもなく、心地いい風が吹いていて気持ちよくないですか? あの季節は本当に幸せな気持ちが溢れているなぁって。葉山にいる時も、その時期が一番センチメンタルな気持ちになれました。ドビュッシーの音楽のような世界観を感じたというか…。今でも、すごく印象に残っています。
――上田監督からは渚をどう演じてほしいと言われましたか?
ウンギョン:こんなことを自分で言うのも恥ずかしいんですけど(笑)、「ウンギョンと渚のピュアさはよく似ているから、そのまま自然にいてくれればいい」と。お芝居に関しては、お任せしますとも言っていただいて。「えぇ~そんな~」という感じではあったんですが(笑)。とりあえず私もあえて準備はせず、その場に行って感じたものを出せればいいなと。なんというか、これはお芝居なのかドキュメンタリーなのか、不思議な感じに見せたかったんです。今までの作品はしっかり役を作り込んでいたのですが、この作品は富司さんとただ一緒に暮らした感覚でした。
――富司さんとのやりとりで印象的だったのはどんなことですか?
ウンギョン:桃を食べるシーンですね。私は果物をカットするのが下手なんですけど、切り方やお茶を出す作法も富司さんが丁寧に教えてくださって。富司さんとの距離も縮まりましたし、その雰囲気がそのまま映画に収められていると思います。
――渚はどんな女性? また、ウンギョンさんとの共通点は?
ウンギョン:渚はシカゴからおばあちゃんの家に来た帰国子女という設定なので、異国の雰囲気がすると思うんですけど、私と似ているのはやっぱりそういうところじゃないかと。私も韓国から日本に来て仕事をしているので、最初は慣れないことや知らないこともありました。なので徐々にその雰囲気や生活に慣れていくところにはとても共感できましたし、映画の中でどんどん成長していく渚を通して、私も日本でもっとお仕事できるように頑張ろうと改めて思ったりもして。似ていないのは性格。渚は落ち着いていておとなしいキャラクターですけど、私は真逆です(笑)。
――この映画をどんなふうに楽しんでもらいたいですか?
ウンギョン:この作品はスピード感のある最近の映画とは違って、四季を織り交ぜながら一つ一つのシーンをゆっくり丁寧に描いています。その中で、これからの人生をどう生きていけばいいのか、すべての物語を一つ一つ自分に当てはめながら……、えーっと、カムサン?(スタッフに日本語訳を聞いて)あ、そう、鑑賞! 鑑賞というか、味わっていただければと思います。
かつて夫や子供たちと暮らしていた家に、今は孫娘の渚(シム・ウンギョン)と住む絹子(富司純子)。夫の四十九日を終えた頃、絹子は税理士から、この家を手放すことを求められていた…。出演/富司純子、シム・ウンギョン、鈴木京香ほか 映画『椿の庭』は4月9日(金)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開予定。
シム・ウンギョン 1994年5月31日生まれ、韓国出身。9歳の時、ドラマ『張吉山』で子役デビューし、2014 年に主演した韓国映画『怪しい彼女』が大ヒットを記録。日本でも、‘19年公開の映画『新聞記者』『ブルーアワーにぶっ飛ばす』にて数々の映画賞を受賞し話題に。4月6日より上演のミュージカル『消えちゃう病とタイムバンカー』に出演。
※『anan』2021年4月7日号より。写真・野呂知功(TRIVAL) ヘア&メイク・伏屋陽子(ESPER) インタビュー、文・菅野綾子
(by anan編集部)