“一気読み&二度読み必至”に納得 小説『ヴィクトリアン・ホテル』の仕掛け

エンタメ
2021.03.30
名画『グランド・ホテル』といえば、ホテル内で複数の人間のドラマが同時進行で進む名作映画。下村敦史さんの新作『ヴィクトリアン・ホテル』はまさにこの“グランド・ホテル方式”に則った作品だ。

高級ホテルに来た訳ありな人たち。巧妙な伏線に驚愕必至のミステリー。

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「最初は爆弾テロ計画などの犯罪事件も考えましたが、今回は人間模様を重視することにしました」

と言いつつ、巧妙な伏線が仕掛けられる本作。老舗ホテルにやってくるのは悩みを抱えた女優、人生を諦めた老夫婦、宣伝マン、パーティ会場で新人賞の授賞式に臨む若手作家、借金まみれのスリら。彼らの運命が思わぬところで交錯していく。

「もちろん、ミステリーとして面白いこと、驚かせることを考えました。と同時に、新しい視点を提示したかった。もとの映画がお金と愛情がテーマになっているようにひとつのテーマで登場人物を結びつけるのも方法だと思って。自分は“優しさ”でいくことにしました。前作『同姓同名』で悪意を徹底的に書いて毒素が全部出されたのか、今回は善意がメインになりました(笑)」

だが、ほのぼのした内容なわけではない。たとえば女優は駅で困っていた人を助けた行為がSNSで「騙されたのでは」「犯罪を助長する」と非難されてしまった。

「当事者同士は喜んでいるのに関係ない人が批判してくる。そうすると、もう人に親切にするのはやめておこう、となってしまう」

作家も、作品内の人物造形について理不尽な批判を受けて悩んでいる。

「たとえ多くの人からいい反応を得た小説でも、必ず怒ったり批判してくる人がいる。作中で作家同士が語る場面は、自分なりに答えを導きたいという気持ちで書きました」

悩める人たちが交錯する本作。ホテル内で誰がいつどこにいて、どんな影響を誰に与えるのか、タイムテーブルを作るのは至難の業だったという。そのなかで、状況によって同一人物の印象が変わることも。

「何か失敗した人を、その一部分だけ取り上げていつまで裁き続けるのかということはよく疑問に思うので、それが小説の中に表れていますね」

そんな人間ドラマを堪能しているうちに、終盤、読者は実に巧妙な仕掛けに気づいて唖然とすることに。帯の「一気読み&二度読み必至!」の惹句、これ、本当です!

高級ホテルにやってきた訳ありの人々。ロビーや廊下、レストランやパーティ会場で彼らが出会う時、運命の番狂わせが起きることに。実業之日本社 1600円

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しもむら・あつし 1981年、京都府生まれ。2014年『闇に香る嘘』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。以降、社会派ミステリーで人気を博す。著書に『生還者』『コープス・ハント』『同姓同名』など。

※『anan』2021年3月31日号より。写真・中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世

(by anan編集部)

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