誰もがきっと一生に一度は考えるであろう永遠のテーマ“もし明日死ぬとしたら、何を食べるか”。食べ方について侃々諤々と意見を戦わせたギャグマンガ『目玉焼きの黄身 いつつぶす?』(以下『目玉焼き』)のおおひなたごうさんが、次に選んだのがまさにその“さいごメシ”だ。
「『目玉焼き』が完結に向かっていってるときに次回作も考えておかなければと思い、温めていたネタなんです。なんなら『目玉焼き』の最終回で取り上げようと思ったくらいなのですが、1~2話では描き切れない大きなテーマになりそうな予感がして、新たな作品になりました」
物語は、編集者の天城星乃(あまぎほしの)がある晩、婚約者の一平に別れを告げられるところから始まる。失意のどん底で仕事も手に付かなくなるが、行きつけの居酒屋で常連が盛り上がっていたさいごメシの話題をヒントに、グルメ新連載をスタートさせる。
「よく考えたら『目玉焼き』も第1話でカップルがケンカ別れするんですよね(笑)。さいごメシということで、最初は料理に重点を置いて考えていたのですが、誰が作っているのか、誰と一緒に食べるのかが実はポイントだったりする。星乃も最初は、『人のさいごメシなんか知ったところでどうなるの?』みたいな感じなんですけど、彼女の気づきは僕の気づきでもあるんです」
取るに足りない話と思いきや、大切にしているものや人生観まで見えてくる、さいごメシ。1巻では食事制限がつきもののボクサーを取材するのだが、職業面からのアプローチもたしかに興味をそそられる。
「『目玉焼き』のときもそうでしたが、たくさんの人に話を聞いて脚色していく作り方を心がけています。自分の想像だけで描こうとすると、嘘っぽくなってしまうので」
いつになくシリアスな雰囲気を漂わせているが、そこはやはりおおひなたさん。油断すると“膝カックン”的にギャグが入り込んでくる。
「さいごメシをテーマにしている以上、死は避けられないですし、いつか自分にも降り掛かってくるものなのだと少しでも意識しながら読んでほしいという思いがあります。でもシリアスになるほどギャグの破壊力も大きくなるので、そこは描いていて楽しいところだったりもします」
さまざまな人のさいごメシを通して、自らの人生とも向き合う星乃。
「好きなものを食べて死ねる人なんて、実際はほとんどいないのかもしれません。だけどそれができたらいい人生だったと思える気がするし、その場面を描いてみたいですね」
『星のさいごメシ』1 さいごメシから浮かび上がる人生観が味わい深い、グルメ&ギャグ&人間ドラマ。「月刊コミックビーム」のウェブサイトで、読者のさいごメシを紹介中。KADOKAWA 700円 ©おおひなたごう/KADOKAWA
おおひなたごう マンガ家。1991年デビュー。『目玉焼きの黄身 いつつぶす?』はアニメ化、実写ドラマ化もされ話題に。京都精華大学新世代マンガコース専任教員。
※『anan』2020年11月25日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子
(by anan編集部)