愛情と自己犠牲、その難しい関係。苦しむ少女に訪れた出会いとは。
「最初に大学生の話を書こうと思った時に浮かんだのは、奨学金のことでした。自分が学生だった頃、学生同士の違いって奨学金を借りているかいないか、借りている額がどれくらいかに顕著に表れていたんですよね。それは家庭環境によるところが大きい、とも思いました」
主人公の宮田陽彩(ひいろ)は母親と二人暮らし。奨学金は貯金し、学費と生活費のためにバイトに明け暮れている。加えて陽彩の場合、母親から経済面でも家事労働面も頼りにされ、それに応えようと懸命で、友達づきあいも皆無な状態だ。
「昔なら親がお小遣いをたくさんくれたのかもしれないけれど、今はそういう子は少ない。遊びに行くにも車の免許を取るにもお金はかかるから、お金がないと友達が作りにくい世の中だなと感じます」
ある出来事をきっかけに、陽彩は家を出て、大学とバイト先が同じ江永雅の家に転がり込む。この江永も複雑な事情から親と縁を切っている。もう一人、過保護で過干渉な親を持つ木村という女子学生も登場。
「それぞれ母娘間にいびつなものがあるけれど、みんな自分の家庭環境しか知らないから、それが当たり前だと思っているんです」
彼女たちの会話がどれもリアルで突き刺さる。そのなかで、陽彩は母親との関係を見つめ直していく…。
「母親は陽彩のことを愛しているけれど、その愛情が娘の人生をプラスに向かせる動力になっているとは限らない。もし“愛されているから我慢しよう”と苦しんでいるなら、逃げるという選択もあるのでは。家族と縁を切るのは難しいけれど、自己犠牲って結局みんなを不幸にする」
作中にも出てくるタイトルの言葉が、力強さを持って響いてくる。
「“あなたは愛されているのだから自分を大事にしましょう”というメッセージはよく耳にしますが、“愛されなくても自分の人生はこれでいい”と、自分で自分を肯定することが大事じゃないかなと思っています」
『愛されなくても別に』 浪費家の母と暮らし学費と生活費のためにバイトに明け暮れる大学生、宮田陽彩。彼女の生活に変化をもたらしたのは、一人の同級生だった。講談社 1450円
たけだ・あやの 1992年、京都府生まれ。大学在学中の2013年、日本ラブストーリー大賞最終候補作の『今日、きみと息をする。』でデビュー。著作に『どうぞ愛をお叫びください』など。
※『anan』2020年9月30日号より。写真・土佐麻理子(武田さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世
(by anan編集部)