生前の行いが気になりすぎる! 現代人も羨む、餓鬼の日常。
「人間より劣っているはずの餓鬼が丁寧に暮らしていたら面白いかなと思ったんです。なぜか餓鬼が好きだったんですよね」
説明すると、餓鬼は仏教で死後に存在するといわれる6つの世界(六道)のなかで、生前に欲深く、嫉妬深かった人が行く餓鬼道という世界に生まれ落ちた者。痩せているのにぽっこりお腹で、眼光は鋭く、見るからに飢えているのだが、ガッキーの生みの親である塵芥居士さんは
「餓鬼のなかに人間性が凝縮されたものを感じる」のだそう。で、気になるガッキーの暮らしぶりはというと、茶がらを使って掃除をしたり、パッチワークで半纏を作ったり、鮭をマリネにして缶詰にまでしてしまったり。ライフスタイル誌から飛び出てきたような(?)丁寧さだ。
「最初は、餓鬼がただ暮らしているだけでしたが、ツイッターで反応をもらえる嬉しさからエンタメ的な行為がエスカレートしていくと、フォロワーさんから『ガッキー、丁寧な暮らしはどうしたの』と言われて慌てて背筋を伸ばしたり、餓鬼なりに顔色を窺うところもあります(笑)」
書籍化するにあたって、イラストを加筆修正して、4コママンガに改編。それらに挟み込まれている描き下ろしの短編では、現代の街でお坊さんに追いかけられたり、魚市場でマグロの競りや解体ショーを見学したりして、アクティブに動き回っている。ガッキーの表情は一切変わらないのにどんどん愛らしく見えてくるのは、塵芥さんの絵の巧みさによるところも大きいだろう。
「日本画のことは全然知りませんでしたが、デッサンの美しさに惹かれ、こんなふうに線を描けるようになりたいと思い、大学で専攻しました」
学生のときにマンガ家になることを一度は諦めたものの、こうしてガッキーで注目されるように。本人はその自覚があまりないようだが、ひとつだけ懸念していることが。
「餓鬼はもともと憐れむ存在なので、愛着を感じすぎるのもよくないな、という葛藤があります。餓鬼の暮らしに憧れて餓鬼道に行きたいっていうのは、本末転倒ですよね(笑)」
『丁寧な暮らしをする餓鬼』 ガッキーの日常を綴った4コママンガ。ノマドワーカーの牛鬼や猫のマコチャンとの交流もほほえましい。“カレー坊主”吉田武士さんの仏教解説も。KADOKAWA 1000円 ©塵芥居士/KADOKAWA
ちりあくた・こじ マンガ家。日本画を7年学ぶ。安達智(あだち・さと)名義で遊女が主人公のマンガ「あおのたつき」を「マンガボックス」で連載中。
※『anan』2020年8月26日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子
(by anan編集部)