生きづらい現実から目を背けず、真正面から向き合った意欲作。
「誰の中にも辛い現実は見たくない、それより人生楽しく生きていたい、みたいな気持ちがどこかにあると思うんです。でも僕は、楽観主義的なことばかりではいられないとずっと前から感じていて。一回立ち止まり、少し考える。そんなきっかけになるような作品を作りたかったんです」
そのための仕掛けが“過激を演じる”こと。湧き上がる感情をそのまま吐露するのではなく、さらにそこから飛躍して、架空のストーリーを乗せていく。必然的に表現が過激にはなるけれど、そのぶん聴き手の心に響く。それは1曲目の「胎内回帰」から強く表れている。
「生きていく中で、繰り返し押し寄せる恐怖や不安。それを感じなくて済むような圧倒的な安心感を、胎内回帰という究極の手段で求める歌なんです。でも、それは単なる現実逃避だということも当然わかっている。そんな葛藤をこの曲に込めました」
全体的にシリアスなトーンだが、Mom本人はにこやかな表情が人懐こい23歳の青年。作詞、作曲をはじめ、ジャケットやMVなどアートワークまですべて自身で手がけるという多彩さにも注目が集まっている。
「クリエイティブな作業が得意だからというより、自分のやりたいことは自分が一番わかるので。人の手が入ることによる化学反応みたいなものもあると思いますが、まだそれが信じられなくて(笑)。なじまないものは入れたくない。それだけです」
自身の考えを一つひとつ丁寧に言葉にする姿からは、思慮深さが窺える。そんな彼にとって、今後の制作にあたり、このコロナ禍はどう影響してくるのだろう。
「僕の中では、これまでと変わらずにいたいな、という気持ちです。こういう大きな出来事があっても、基本はブレずに作り続けたい。そういう意味で、いろいろ向き合える時間が持てたのは、よかったと思います」
7月8日にリリースされたアルバム『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』。先行配信シングルを含む全13曲。最後の隠しトラックまで気が抜けない。¥2,700(Victor Entertainment/Colourful Records)
マム シンガーソングライター/トラックメイカー。高校の頃から音楽制作を始め、'18年よりMomの活動を本格化。同年11月、1st album『PLAYGROUND』を発売。AppleのCMにも抜擢されるなど注目の存在。
※『anan』2020年7月22日号より。写真・黒川ひろみ 取材、文・保手濱奈美
(by anan編集部)