裕福な専業主婦と“悪女”を生きる女。91歳のレジェンドが描く愛・憎・哀。
「最初の発想は、出会った人の人生をためらいなく壊すことに満足感を得るような、生粋の悪女の物語でした。けれど、考えるうちに糸子の背景が見えてきました。タイトルに込めた“秘密”が何かは徐々にわかっていただけると思います。私自身もそれに思い至ったとき、彼女が人間として哀れでならなくなりました」
見た目も地味で女性的な魅力に乏しかった糸子だが、次第に「魔性」的なつかみどころのなさが開花していく。とりわけ、彼女が放つ体臭は独特らしい。それに美也の夫や弟は翻弄されていくのだが…。
「女性はそれを異様な臭いだと感じ、男性はえもいわれぬ匂いだと思う。彼女の武器のようなものですね。それがどう展開に関わっていくのかも読んでいただけたらと思います」
人間心理の綾も描かれる白熱のサスペンス。全14回で完結する最後まで、目が離せない。
絵のタッチもミステリアスで、ひと目でわたなべさんの作品だとわかる。また、西洋の洋館や上流階級の暮らしなどを、いち早くマンガを通して紹介してくれたひとりでもある。
「時代ものや外国を舞台にした作品なら、参考資料や空想で補えるのですが、現代ものは、イマドキらしさをどう出すか、人物像やコスチュームに悩みますね」
わたなべさんはいわずと知れた少女マンガ界のレジェンド。ホラーやサスペンス、ミステリー、怪異譚といったハラハラドキドキする作品を連綿と手がけてきた。特に“悪女”を描いたものは名作揃い。対照的なふたりの女性、出生の秘密、裕福さへの憧れなど、本作にちりばめられたモチーフは、マリサとイサドラが活躍した『ガラスの城』にも通じるものがある。
「現実の生活では、理性が勝つので、普段抑えているものを創作の中では思い切り描くことができる。私の心の奥には、悪女に対する憧れがあるのかもしれませんね。なにしろ、悪女を描くことは面白いんです」
現在は『Jour』(双葉社)で「中国怪異譚」を連載中。創作意欲はいまなお盛んだ。
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わたなべ先生の歴史的名作に触れてみたい人は、電子版をチェック。
'52年に貸本マンガからキャリアをスタートさせ、今年で画業67周年を迎える。なかでも、わたなべさんの大きな功績は、西洋仕込みのサスペンスなどを取り入れた、それまでの少女マンガになかった物語を描いたこと。そのターニングポイント的な作品が『ガラスの城』(集英社)。現在は電子書籍のみの流通になるが、こちらを入り口にワールドをもっと楽しんで。
『秘密~ひめごと~』 美也と糸子の運命を追う。本作は集英社より9月下旬に電子書籍化を予定(価格未定)。連載は終了しているがマンガアプリ「マンガMee」で現在も購読可能(一部無料)。
わたなべまさこ 1929年、東京都生まれ。少女マンガの黎明期から活躍。代表作に『ガラスの城』『聖ロザリンド』など。女性マンガ家で初めて旭日小綬章を受賞。
※『anan』2020年6月17日号より。インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)