古内一絵さんの小説『キネマトグラフィカ』には、古内さん自身が見てきた、映画業界の変遷が描かれている。
キネマトグラフィカ-731×1024

平成元年、老舗映画会社に入社した男女6人。彼らは仕事に対して、あるいは映画に対してさまざまな思いを抱いていた。小説『キネマトグラフィカ』の著者・古内一絵さん自身も平成元年に映画会社に入社、業界の変遷を見てきた方だ。

「たぶん、デジタルではなくフィルムの映画を扱った最後の世代なんですよね。それを編集者に話したら“面白い!”と言われて。それまでは自分のやってきたことが小説になるとは思っていませんでしたが、ちょっと書いてみる気になったんです」

女性初の営業職の咲子、結婚願望の強い留美、帰国子女の麗羅、映画オタクだけど営業が苦手な栄太郎やお調子者の学、体育会系の和也たち。入社4年目の年、学のブッキングミスのため、彼らは協力しあい、一本のフィルムを全国にリレー形式で順番に届けることに…。

「登場人物にモデルはいませんが、私も同期たちと今でも仲がいいです。ひとつの作品を成功させるために協力しあっていたからでしょうね」

全国リレーはしなかったがフィルムを地方に届ける業務は実体験で、「今は少なくなった地方の独立系の劇場のことを書いておきたいという気持ちがありました。作中に出てくる、フィルムを違う缶に収めてしまう“缶違い”やスクリーンを切られる事件はほぼ実話です(笑)」

また、咲子が体験する女性総合職に対する偏見や嫌みも、現実にあったことなのだとか。

「当時の働く女性のなかには“男性社会にお邪魔させてもらっている”という感覚の人がいました。今は女性の働く環境も改善されましたが、根底は変わらないとも感じます」

また、女性の先輩はふたつに分かれていたという。

「後輩女性を叩いて押しつぶそうとする人か、引っ張ってくれる人か。今思うと、それは余裕があるかないかの違いでしたね。私も岩波ホール総支配人だった高野悦子さんに大変お世話になったんですが、そうした実績のある方は厳しく優しく教えてくれたというか。今気づいたのですが、麗羅には高野さんのような人が投影されているかもしれません」

その後、50代となった咲子らそれぞれの人生模様は? 人間ドラマとして、さらに映画や人の働き方を振り返る平成史として読ませる一作。

古内

ふるうち・かずえ 作家。1966年、東京都生まれ。映画会社勤務ののち、「快晴フライング」で第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞、’11年に同作でデビュー。著作に『マカン・マラン』など。

『キネマトグラフィカ』 久々に開かれた映画会社の同期会。集まった6人は、あの頃何を思い、50代の今どんな人生を歩むのか。映画愛も詰まった長編。東京創元社 1600円

※『anan』2018年6月13日号より。写真・土佐麻理子(古内さん) 大嶋千尋(本)インタビュー、文・瀧井朝世


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我が身を振り返る、内省する意味のある日で、そこから発展して自分に近い人たちとその外にいる人たちとの関係を見つめることまで含みます。異なる視点・意見をもった相手との間で対立したり迎合したりと揺れ動く様子もイメージされますが、いずれにしても自分の考えや気持ちについてしっかりと見つめることが大切です。

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