島本理生「家事や育児に疲れていたからかも(笑)」 最新刊への思い

エンタメ
2017.06.18
公開前から話題の映画『ナラタージュ』の原作者、島本理生さん。新作小説『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』は、緩やかに関係を築いていく男女の話が主軸だ。
島本理生

「食と旅を通じて、少しずつ距離を縮めていく二人の話を書こうと思いました。一緒に生活することは一緒にごはんを食べることだし、一緒に旅をして楽しいかどうかは意外とハードルが高い。その部分が本当に合う二人なら、続いていくだろうと思いました。それに、自分にとって楽しいことが、食と旅なので(笑)」

30歳の知世が仕事を通じて知り合った椎名さんはバツイチの年上男性。出会った当初から互いに居心地のよさを感じている様子の二人。ひとつハードルがあるのは、椎名さんがHIVポジティブという点だ。

「以前から、HIVの資料にある“日常的な接触だったら感染しません”という言葉が気になっていたんです。恋人同士の性的な行為は日常的な接触ではないのかな、って。それで、特別な病気としてではなく、現実的な問題として書きたいと思っていました。調べていくうちに今は治療法も進んで病気とともに生きることも可能だと分かりましたし」

島本理生

江の島にしらすを食べに行ったり、静岡で列車に乗ったり、大阪の道頓堀を歩いたり…。そんな二人の時間のなかで、知世はゆっくりと理解を深めていく。一方、彼女の友人や、苦手としている妹の視点の章も挟まれ、さまざまな女性の人生観、恋愛観が垣間見える。

「書いているうちに彼女たちもキャラクターが立ってきたので、それぞれのことも書くことにしました。妹の知夏については最初、知世がなぜここまで人に気を使う子になったのかは身勝手な性格の妹がいたからだと考えたのですが、途中で彼女にも言い分があるだろうなと思いはじめて。その頃、ちょうど私も知夏と同じように、家事や育児に疲れていたからかもしれません(笑)」

生き方を模索していく彼女たちの誰かに、あなたも共感を寄せるかも。

「個人の幸せの形はいろいろだと思う。結婚にとらわれない形ももっと増えていいと思います。読んだ人が自由に人生を選択したいと思える小説にしたかったですね」

自分なりの幸福を考えたくなる、優しさと芯の強さを感じる物語。

しまもと・りお 作家。1983年生まれ。’01年『シルエット』で群像新人文学賞優秀作、’03年『リトル・バイ・リトル』で野間文芸新人賞、’15年『Red』で島清恋愛文学賞受賞。

知世が仕事を通じて知り合ったSEの椎名さんは、バツイチの年上の男性。HIVに感染していることを告白されても、知世は彼に惹かれていく。幻冬舎 1500円

※『anan』2017年6月21日号より。写真・土佐麻理子 インタビュー、文・瀧井朝世

(by anan編集部)


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