アオイヤマダさん

「東京2020オリンピック閉会式」でのエモーショナルなパフォーマンスで注目を集めたアオイヤマダさん。近年はヴィム・ヴェンダース映画『PERFECT DAYS』など俳優としても活動。個性あふれる彼女の源にあるものとは。


撮影の前、おもむろにスマホで音楽を流し出したアオイヤマダさん。それを芝生の上にそっと置くと、メロディに委ねるように体を揺らし、気づいたら踊り始めていた。音楽が風に乗り、周りの草木がそよぐ様とふわりと舞う衣装と踊る体とが共鳴しているようにも見えた。

── 撮影中、踊られていたのは音楽に動かされている感覚? それともインスピレーションですか?

アオイヤマダ(以下、ヤマダ) どっちもあります。音楽だったり衣装に動かされている感覚もあれば、自分が動きたいように動いている感覚もあって。

── 素敵でした。ヤマダさんは、謡と舞で物語を紡ぐ能の上演スタイルを現代に置き換えた『未練の幽霊と怪物』に出演されます。人間の強い思念が幽霊の姿となって表れ、その想いを語る作品です。

ヤマダ 岡田(利規・作、演出)さんの作品って一体どうやって作っているんだろうと思っていたので、お話をいただいて嬉しかったです。

── 実際の稽古はどんな感じで?

ヤマダ 稽古初日から3日間はひたすら台本の読み合わせでした。でも2日目ぐらいから動きたくなってウズウズしていたら、それを察した岡田さんから「僕は、とりあえず動いてみることはしません」と言われました。最初は何をイメージしてどうテキストを読んでいいかわからなくて悩んでいたのですが、とりあえず口に出してみたら、言語化するのは難しいんですが、岡田さんがよく言う「言葉に喋らされる」という感覚が少しわかった気がしました。

── テキストから喚起された?

ヤマダ すごくありました。この1文字だけで言葉の意味合いが大きく変わったり、空間が変わったりしてしまうんだということも感じて、今、言葉のもっと深い世界に引きずり込まれた感じがしています。

── ウズウズしたのは?

ヤマダ 私の場合、言葉から考えるというより、実際に体を動かしてみたほうがエモーションを見つけやすいんです。普段、自分のパフォーマンスもそうやって作っていますし。でも、岡田さんの作品はそうじゃないんだなと。

── 今作に限らず、岡田さんの作品は敢えて言葉と体の動きを切り離しているように感じます。

ヤマダ 私はそれまでリアルな感情をひたすら追い求めて、そこに浸ればいいとばかり思っていたんです。でも岡田さんは、「感情を込めたからといって必ずしもお客さんに伝わるとは限らない」とおっしゃるんです。これまでとは違うアプローチを求められて、難しいことに挑戦している感じです。

── 事前に何か準備は?

ヤマダ 岡田さんが「珊瑚」と「円山町」を書く際に参考にした本や資料があり、それを読んだりしました。あと珊瑚を見に海に潜りに行ったりもしました。

── そういう体験が、ご自身の中では大事なんでしょうか?

ヤマダ 大事ですね。岡田さんは「演劇はリアルにやるけれど、それは演劇としてのリアルだから、本物を体験する必要はない」とおっしゃるんですが、珊瑚に対する想像力が全然ないと不安ですし。

── 能と聞くと、なんだか難解そうな気もしてしまいますが…。

ヤマダ ご覧になればわかりますが、一見難解そうなものを身近にしてくれるのが岡田さんなので、一回観てほしいです。ぜひそこに自分の想像力を参加させながら。

── 感情や想いのような形のないものを舞台で見せる手段が踊りだと思うのですが、“未練を踊る”ことはどう捉えていますか?

ヤマダ 普段…さっきの撮影のようなラフに踊るときもですが、見えないけれど確かにある何かを感じて踊っている気がします。それは何か今もわからないけれど、未練みたいなものもあると思っています。

出会いを繋いでいったら今に至った感じです

── 幼少期にダンスを始めて、どんなところに心を打たれました?

ヤマダ 私、人と話すことが本当に苦手だったんです。でも踊った瞬間、空気中の粒みたいなものを感じて。それに、自分の日常生活ってわりと規則的なほうだと思うのですが、そこから自由に解き放たれたような、体と魂がひとつになれたような感じがしたのかな。それが気持ちよかったです。

── 当時はどんなダンスを?

ヤマダ ジャンルというより、先生が曲に合わせて作った振りを踊る感じでした。当時の私にとって踊ることは、自分の名前とか性別とかから離れて、非日常的なところに飛び込める時間だった気がします。

── ダンスを学ぶために東京の高校に進学していますが、そこまでダンスにハマるきっかけが?

ヤマダ その時点では、正直そこまでダンスをやっていくぞという気持ちはなかったです。ただ、当時からファッションも好きでしたが、地元の長野では赤い口紅を塗るだけでも周りからちょっと浮くんですよね。それで「東京のほうが馴染めるんじゃない?」と母が提案してくれました。上京してから、文化や芸術としてのダンスの方向性や可能性の広さを知り、今みたいな活動に繋がっています。

── 長野にいたときから、好みの方向性が個性的だったんですね。

ヤマダ 人と話すことは苦手だけれど、目立つことが好き…というか、たまたま自分の好きなものを追いかけていたら目立ってしまった、みたいな感じだったのかな。

── そういう感性を育てたものは何だったのか気になります。

ヤマダ ひとつは母親の影響が大きいと思います。雑誌『VOGUE』を買ってくれていて、そこからファッションにのめり込んでいました。おばあちゃんの服を借りて、畑の真ん中でVOGUEの一ページをオマージュして写真を撮ってもらったり、身近なものを使ってディレクションしてみたり。それが楽しくてしょうがなかったです。

── 当時憧れた存在はいました?

ヤマダ あんまりいなかったかな。ファッションもそこまでブランドに詳しいわけではなくて、でも確実に自分の好きな空気感とかテイストや色があったんです。その興味がだんだん料理とかの方向になって、今はパフォーマンスに変わっただけ。好きなものの根本的なところは変わっていないけれど、形が変わっていったというか。

── でも揺らぐことなく?

ヤマダ だいぶ揺らいでいるとは思いますけれど、根っこの部分は変われないんだなと思って。あと、周りにそういう自分を認めてくれる人がいて、変わらずに済んでいるというのもあると思います。

── ダンスで生きていこうと思われた瞬間はあるんですか?

ヤマダ それ毎回聞かれるんですけれど、自分でもよくわからないんです。決めたわけでもないし。でも、出会いを繋いでいったら今に至っているんですよね。

── 導かれてきた人なんですね。

ヤマダ 正直、今もめちゃくちゃ自信なくなります。相手の期待に応えたいとか、こう思われたい、みたいなモードになってしまうと体が言うことを聞かなくなってしまうんです。さっき、稽古中にウズウズしたと言ったけれど、本心では、いいこと言わなきゃって考えすぎてしまって、このままだとマズいモードに入るぞって思って動きたくなったという感じでした。でも岡田さんは、どんな意見も「面白いね」と受け止めてくださるので、とてもホッとしました。

野菜はかわいい。それを使ったお弁当もかわいい

── 俳優としても活躍されていますが、言葉で表現することの難しさや面白さはありますか?

ヤマダ 演じるということ自体には、ダンスとの違いをそんなに感じていません。ただ、言葉はすごくストレートですよね。基本的に私の場合、まずその情景を体で作ってからセリフを言うという作り方をしていますが、今回の舞台は「とりあえず動くことはしない」と言われるのでそれが難しいです。

── 今、ご自身の心が動くものってどういうものですか?

ヤマダ お弁当とか…。毎朝夫に作っているんですけれど、なんか好きなんですよね。野菜ってかわいいじゃないですか。自然にあんなビビッドなやつができることもすごいし。それを使ったお弁当もかわいくて好きなんです。海のものと山のものと生きているものと、いろんなものが入っていて社会の縮図みたいな感じ。

── 食への関心も高いですが…。

ヤマダ 高校生のときにちょっと体調を崩したことがあり、体に直結しているのは食だと思ったことから気をつけるようになって。そこから料理研究家の方と知り合って、その方の家に居候していたときに、そこによくごはんを食べに来ていた満島ひかりさんに「お芝居やらない?」と声をかけていただきました。全部が繋がってるんです。

── 今、踊っていて楽しいなと思う瞬間はどんなときですか?

ヤマダ 人に見てもらえたときです。やっぱりお客さんがいて成り立つものだと思っています。お客さんがいると、自分でも思ってもみなかったようなことが起きたり、体が急に軽くなったりすることがあるんですよ。それってアドレナリンってやつなのかな…どこか浮いているような感覚になるんです。

── なんとなく、ダンスって自分だけの世界に没入して踊っているような印象がありました。

ヤマダ 私の場合は、自分が人の役に立てたという実感を持てたときが幸せなのかもなと思います。お弁当も同じなんじゃないかな。自分のために作ると思うとしんどいけれど、夫や周りの人が喜んでくれるならって思うと苦じゃないんです。「人のため」という言葉って結構危険でもあるから、以前は言うのを躊躇していたんですけれど、やっぱりその言葉が一番自分の腑に落ちるんですよね。便利なものや仕組みを開発するとかはできないから、せめて誰かの記憶に問いや光を残して、それがふとしたときに、その人にとって観てよかったものだったって思い出してもらえたら、嬉しいです。

Profile

アオイヤマダ

長野県出身。身体と記憶、食と人、音楽と心の繋がりを信じて独自の感覚と日常を融合させ、楽曲制作、エッセイ、パフォーマンス作品に取り組む。近年は俳優としても活躍。現在、出演映画『禍禍女』が公開中。映画『炎上』は4月10日公開予定。高村月とパフォーマンスユニット・アオイツキとしても活動する。

information

『未練の幽霊と怪物』

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『未練の幽霊と怪物』は、チェルフィッチュ主宰の岡田利規さんが能に触発され、音楽と演劇、ダンスの要素を取り入れてスタートしたシリーズ。一昨年には「挫波」「敦賀」を上演し、第2弾となる今回は「珊瑚」「円山町」の2本立てに。アオイさんは「珊瑚」に出演。2月13日(金)~3月1日(日)KAAT神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉 チケットかながわ TEL. 0570-015-415(10:00~18:00) 公式サイト

ドレス ¥132,000 ビスチェ ¥46,200(共にヴィヴィアーノ TEL. 03-3475-5725) その他はスタイリスト私物

写真・岩澤高雄(The VOICE) スタイリスト・沢田結衣(UM) ヘア&メイク・進藤郁子(資生堂) インタビュー、文・望月リサ

anan 2483号(2026年2月10日発売)より
Check!

No.2483掲載

惹かれる気持ち。

2026年02月10日発売

“好き”が溢れ出す恋い焦がれる想い、作品やキャラクターへのときめき、思わず心を揺り動かされてしまう物や人…そんな「惹かれる気持ち」を深掘りする特集。

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