菊地凛子さん

インタビュー中、ときに自虐を交えて自身を「結構スットコドッコイかもしれない(笑)」と語った菊地凛子さん。ざっくばらんで親しみやすく、ちょっと愉快な素顔が漏れ出します。


スクリーンで見る菊地凛子さんは、クールでどこかストイックな印象があった。しかし近頃、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』での小栗旬さん扮する北条義時の妻・のえや、ドラマ『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』のおばばなど、クセの強いキャラクターを次々怪演。かと思えばトーク番組で意外な天然エピソードが暴露されたりもして、どうやら見た目とギャップがある人のような…。

── 目前に控える三谷幸喜さん作・演出の『いのこりぐみ』で、初舞台を踏まれます。ここにきて初挑戦に臨まれるのは?

舞台はよく観に行っていましたが、全然違う職種じゃないかというくらい、自分とは距離のある世界だと思っていました。でも、旬くんがあれだけ大変な大河ドラマを終えてすぐに舞台をやられているのを観たときに、そのエネルギーにすごく刺激を受けたんです。いつか一緒にやれたらという流れで、今回のお話をいただきました。不安はありますけれど、三谷さんは自分のことをよく知ってくださっていますし、舞台経験がたくさんおありのキャストの方たちに囲まれていますので、飛び込んでみたいなと。私としては、40からの新人女優、の気持ちです。

── 大河でもご一緒していた小栗さんの舞台の、どんなところに刺激を受けたのでしょうか?

具体的に言うのは難しいんですけれど、映像でご一緒していたときの小栗さんとはまた違ったダイナミックさを感じました。シェイクスピアのような大変な作品で、大きさと同時に心のヒダみたいな繊細な部分も表現されていて。映画は残るもので後から観直せるものですが、舞台は、あの瞬間を味わえるのは何百人かの人たちだけで、もう二度と観られないんだってあらためて実感したんです。

── 40からの新人女優とのことですが、新たな挑戦を恐れないタイプですか?

結婚するまでは、わりと飛び込んでいけたんですけれど、子供ができるとどうしても優先順位が変わってきますから、無防備にはいけませんよね。でも、家族を言い訳にするのも違う気がするんです。最優先すべき存在ができて、自分が費やせる時間が限られているぶん、プライオリティがはっきりしてきたのはあります。

── “新人女優”を楽しんでいらっしゃる響きを感じました。

言い訳です(笑)。新人なんで、ちょっと至らなくても許してください、という気持ちです。

── 「三谷さんは自分を知ってくださっている」とおっしゃっていましたが、どんなところにそれを感じるんでしょう?

私って、わりとしっかりしているとか、はっきりとした考えを持った人のように見られているんですが、それは顔だけの話で…。じつは結構スットコドッコイかもしれない。ヌケているし。そこまで明確に何かを考えているタイプではなくて。ちょっと世間知らずなところもあるし、いろんなことを言い間違えるし。それを周りの皆さんが冷静にツッコんでくださるんです。それを三谷さんは知ってくださっている気がします。

── トーク番組で、車でスーパーに買い物に行ったのに、車を忘れて帰宅してしまったエピソードを暴露されていましたよね。

この間も、車を運転していて信号待ちで停まっていたとき、後ろの車の人が降りてきて、運転席の窓を叩いたんです。私、何かやっちゃったかなと思って恐る恐る窓を開けたら、「後ろにゴミ袋を引きずってますよ」と教えてくれました。うちのゴミ袋をたぶん3km以上引きずってたんです。後ろの方は、取ろうとしたけれど取れなくて、言おうか言うまいか迷って声をかけてくれたそうで。そのとき、本当に私なにやってるんだろうって泣けてきちゃって。

── そう思うと、三谷作品でちょっと変わった役がくるのも、なんとなく納得しちゃいます。

三谷さんは、この人にこんな役をやらせたらきっと面白くなるんじゃないかということを、すごく楽しんでいらっしゃる方だと思うんです。すごく愛がある方で、これまでとは違う面白い面を引き出してくださる。私も大河でそういうチャンスをいただきましたので、信頼しています。

── 学校を舞台にした物語で、担任にクレームを入れるモンスターペアレント役だそうですね。

ある種の先入観を持って観てもらえると、その先に繰り広げられることが驚きに変わっていきます。会話に引き込まれるところがいっぱいありますし、私は結構笑えたんですけれど。

── 菊地さんの面白いところも?

そうですね。出せると思いますので頑張らせていただきます。

本当はビビりなくせに好奇心が先走ってしまう

── 先ほどご自身でも、見た目の雰囲気から強い女性を演じることが多いとおっしゃっていましたが、そのことに対してはどのように思っていらしたんでしょう?

組織のトップの役がわりと多いんですが、人の上に立つ役はとくに難しいなと思っています。人としての存在感とか大きさとかがないと嘘っぽいのだけれど、それって作るのが難しいんです。ただ、そういう大変な役も、やっていくうちに学ぶことがたくさんあるんですよね。

すべての経験が今に繋がっていて、たとえば『ブギウギ』という作品で歌手の役をやって、ほぼ初めてボイストレーニングをしたんですけれど、その経験も今に生かされていますし。なんでも経験が生かされる仕事なんだなと日々思っています。

── じつは面白い人だと浸透しつつありますが、そのことに対してはどう思っていますか?

嬉しいですね。隠していたわけじゃなく、もともとそっちの人間なので。でもそれだけビジュアルイメージって大きいんだなと。

── ハリウッド女優のイメージもあるのかもしれません。

確かに。でも私、ハリウッド女優になったことはないんですよ。日本で俳優をやっていたんですけれど、たまたま向こうの作品で注目されたというだけで。

── でもハリウッド映画に出てみたい、というお気持ちで、オーディションを受けたんですよね。

経験として出てみたいというのが若いときにあって、オーディションを受けたら受かって、こういう人生になった感じです。オーディションはいいですよね、誰にも平等にチャンスがあって。自分の世界を広げてもらいました。

── 全然環境の違う現場でお芝居することの恐れみたいなものは?

たぶん…不安はすごくあるんです。向こうの作品に出ているときに初日に高熱を出したりするんで、それなりにストレスを感じているはずで。でも、どこかでそういうことがどうでもよくなる瞬間があるんです。それこそ『バベル』という映画で、撮影初日が役所(広司)さんとのシーンで、「緊張してないんですか?」と聞いたら、「緊張で死ぬわけじゃないし、気にしてない」という感じのことをおっしゃっていたんです。私はもともと自分に負荷をかけてしまうタイプなので、その言葉を自分に言い聞かせ続けるようにしています。演じることだけではなく、母親としてとか、女性としてとかでも余計なテンションを自分にかけやすいので、それを外すために「死ぬわけじゃないし」って思うようにしています。

私、好奇心はものすごくあるんですよ、ちっちゃい頃から。アイロンを触ったら熱いって言われるけれど、実際に触ってみたことがないから一回触ってみようって火傷する、みたいな。本当はビビりなくせに、そこにまで考えが至らず、あの映画楽しそうとか、見たことのない現場を見てみたいとかの好奇心が先走ってしまって、後になって不安になっていることが多いです。今回の舞台もそうですが、目の前にあることに楽しそう、やりたいって突っ走っていって、現実が近づいてきてから大丈夫かなって不安になる。そういうことをずっと繰り返している人生です。

自分とは違う考え方に出合うと感動するんです

── 好奇心が強い菊地さんの思う俳優のお仕事の楽しさって?

自分でいろいろ考えて役を作っていても、その場所に行って相手の役者さんがいてお芝居すると、変わるんです。そういうのが好きなんですよね。それこそ三谷さんとか、監督やプロデューサーも、自分とは全然違う考え方やアイデアを持った方を尊敬しているんです。作品を観てくれた人でも、「あのシーン、こう解釈しているんだよね」って、自分が全然考えてもいなかった視点や解釈に出合うと本当に感動しますし。

── キャリアを積んでも周りに耳を傾けられる柔軟さはすごいです。

積み上げてきたものが、ないんだと思います。ダメでしょ、それ(笑)。なにせゴミ袋を引きずる女ですからね。でも私、たぶん他人をすごく理解したいタイプなんです。プロデューサーの言うこと、監督や演出家、マネージャーの言うこと…そこにどういう想いがあるのかを理解したい。それは役も同じで、もっと人を好きになりたいんです。

小さなことかもしれないけれど、そうやって他人を理解しようとすることで、平和な世の中になる気がしません? 役者は人を理解して、それを表現して伝える仕事だけど、ひとりじゃできないことで、監督やいろんなクルーがいて、たくさんの人がいて成り立つもの。そのたくさんの人に関われるということも、またすごく楽しいんです。

── その菊地さんの好奇心が、今向かう先はなんですか?

子供ができてから、泳いだり、スキーしたり、ハイキングしたり、それまでインドアだったのがアウトドアになったんですよ。それによって、ハイキングで食べたおにぎりが美味しいとか、これまでとは全然違うインプットの世界があって、それが楽しいかな。

Profile

菊地凛子

きくち・りんこ 1981年1月6日生まれ、神奈川県出身。2006年、ハリウッド映画『バベル』への出演を機に国外にも活躍の幅を広げ活動。2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』も話題に。現在、主演を務めるドラマ『嘘が嘘で嘘は嘘だ』(CX系)放送中。

information

『いのこりぐみ』

菊地さんの初舞台作『いのこりぐみ』は、1月30日(金)~2月23日(月)東京・IMM THEATERを皮切りに、新潟、兵庫、愛知、大阪にて上演。作・演出は三谷幸喜。共演は、小栗旬、平岩紙、相島一之。https://www.delight-ent.com/inokorigumi

トップス ¥407,000 スカート ¥327,800 ベルト ¥85,800 クリスタルのついたピアス ¥184,800※2個セット価格(以上ジル サンダー/ジルサンダージャパン TEL. 0120-998-519) 4本セットリング ¥89,900 ダイヤモンドリング ¥42,900(共にメリッサ・ジョイ・マニング/ソウス TEL. 03-3443-5588)

写真・小笠原真紀 スタイリスト・小嶋智子 ヘア&メイク・村上 綾 インタビュー、文・望月リサ

anan 2480号(2026年1月21日発売)より
Check!

No.2480掲載

冬の癒し旅へ 2026

2026年01月21日発売

全国津々浦々のいま行きたい温泉地、温泉宿をピックアップ。山口・長門湯本温泉、岐阜・下呂温泉、大分・別府温泉をはじめ、長野県松本や三重県湯の山温泉のご褒美宿、レトロなローカル線で訪れる青森・弘前から大鰐温泉の旅、人気の特急「サフィール踊り子」で行く伊豆・下田巡り、千葉県木更津の「竜宮城スパホテル三日月」&和歌山「ホテル浦島」の東西レトロインパクト温泉まで。

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