
SDGsの目標「ジェンダー平等の実現」。男女はもとより、性的マイノリティの人々も含め、すべての人が平等な機会を与えられる社会を目指す。ドラマで“男装の弁護士”を演じたことがある俳優の土居志央梨さんは、男女の格差をどう感じているのだろう。
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努力して道を切り拓いた先人に改めて感謝したい
2024年に放送されたNHK連続テレビ小説『虎に翼』で、山田よねを演じた土居志央梨さん。ドラマの舞台は、昭和初期から戦後にかけて。今よりずっと男女それぞれの“らしさ”が求められた時代に、よねは男装を貫き、世の中の理不尽に怒りの声をあげ続けた。土居さんはこの役を演じ、そして日本初の女性弁護士となる寅子(伊藤沙莉さん)を主人公とした本作に出演したことで、改めて思い至ったことがあるという。
「よねの男装にはそうする理由がありますし、日常的に怒っているとはいえ、正当なことを主張しているだけ。よねはいろんな人をモデルにしている役なのですが、あの時代を生きていくには、周りから偏見を持たれるなど、大変なことも多かったと思います。それでもよねのように諦めず、自分の意志を貫いた先人がいてくれたからこそ、“男女の役割”にとらわれない生き方が少しずつ認められるようになり…。すごく努力して道を切り拓いてくれたことに改めて感謝しましたし、私たちもよねや寅子のように手を取り合っていくことが大切だなと思いました」
ドラマには、よねたちが生きた時代からおよそ100年経った今にも通じる社会や家庭での男女格差が描かれ、大きな反響を呼んだ。作中で、寅子はそんな不条理に直面するたび、「はて?」と疑問を呈したが、土居さん自身の日常にも、「はて?」を感じる出来事が。
「一番古い記憶のなかでは、子どもの頃、お正月に親戚がうちに集まったときのこと。おかあさんやおばあちゃんなど女性たちが台所で料理をして、できあがったら男性たちが座っているテーブルに運び、男性たちはそれを食べて楽しそうにお酒を飲んでいるという。女性たちが座って会話に入ることもなければ、男性たちが立ち上がって手伝うこともなく。みんなで準備をすれば早く終わるのに、なんでなんだろうと不思議に思ったことを覚えています」
世界の男女格差は?

6歳未満の子どもを持つ夫婦の家事・育児関連時間(1日あたり)/日本は夫が家事・育児に費やす時間が1時間23分。妻の7時間34分とは、大きな差がある。しかも、育児は49分とわずか。他の先進国と比べても、日本は夫が費やす時間が格段に少ない。出典:内閣府 男女共同参画局『男女共同参画白書 平成30年版』
ほかにも、今振り返ると、ランドセルの色が男子は黒系、女子は赤系と決まっていたり、習い事にも“男女らしさ”が刷り込まれていたりと感じる部分があるという。
「私は子どもの頃、バレエとピアノを習っていましたが、それは親が女の子にやらせたい習い事だったからだと思います。一方、弟はスポーツをするのが当たり前という感じで…。そういう潜在的な男女の“役割”みたいなものへの違和感に自覚的になり始めたのは、大学生の頃です。親元を離れ、自分の意志で人生を選択することが増えていく段階になって、改めて意識するようになったというか。アルバイト先の居酒屋さんで、『お酌は女の子がするものだよ』と言われるとか、なんだろう…単純に、違和感ですよね」
そんなとき、土居さんはどうしているのだろう。場の雰囲気を壊さないようにと不本意でも断りきれない人もいると思うが。
「お酌に関しては、私はやらないと決めているんです。自分が飲みたいお酒は、自分でつげばいいと思っているので。それに、『気を遣わないほうが悪い』みたいな暗黙のルールもなんだか気持ちが悪いので、お酌に限らず、やりたくないことはやらないし、要求されても断ります。子どもの頃から言いたいことは、はっきり言うタイプだったんです。だから、よねのキャラクターに共感しましたし、よねの主張に対して『いいぞ、いいぞ』と思っていました(笑)」
土居さんが「勇気をもらった」というよねだが、3月20日放送の『虎に翼スピンオフ「山田轟法律事務所」』で帰ってくる! 今作では、「すべての国民は、法の下に平等であって(中略)、差別されない」という日本国憲法第十四条が、よねの視点で描かれる。
「憲法では『差別されない』と言いきっていますけど、実際には起きている。理想といえば理想ですが、十二条に『国民の不断の努力によって、これ(国民の自由及び権利)を保持しなければならない』とあるように、私たちはそこに向かって努力しなければいけないと思うんです。十四条は、進むべき道標のようなものなのかなと感じています」
『虎に翼スピンオフ「山田轟法律事務所」』
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よねと轟が事務所を立ち上げる背景は?
土居さん演じる山田よねと、轟太一(戸塚純貴さん)が法律事務所を一緒に設立するまでのバックストーリー。寅子に加えて、弁護士事務所の前身・カフェ燈台を営むマスター増野(平山祐介さん)も再登場。NHK総合で3月20日21:30~22:42放送。
ただ懸命に生きている人を周りが決めつけてしまう

土居さん自身、演じる立場から離れ、普段、映画やドラマを観るなかで、社会に刷り込まれた差別意識を感じることがあるという。印象的だった作品を聞いてみると、
「ジュリア・ロバーツ主演の『エリン・ブロコビッチ』です。無職でシングルマザーのエリンが、法律事務所で働くことになり、大企業を相手取った裁判で巨額の和解金を勝ち取る物語。いわばサクセスストーリーですが、それだけでは収まらないというか。エリンが露出度の高い服を着ているというだけで、周りから軽んじられることも描かれている。ただ懸命に生きているだけなのに…。そんな側面も誠実に伝えている作品のような気がして、私は好きなんです」
『エリン・ブロコビッチ』
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見た目で誤解されがちだけど、誰より誠実
実話に基づいた物語。3人の子どもを育てるシングルマザー、エリンが大企業の環境汚染を暴き、手ごわい裁判に挑む。デジタル配信中/Blu-ray ¥2,619 権利元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング
もう一つは『チョコレートドーナツ』で、1970年代に実際にアメリカで起きたことを映画化した物語。ゲイのカップルが、育児放棄されたダウン症の子どもを引き取り、家族のように暮らすが…。
「まだゲイや障がいのある人に強い偏見があった時代。二人はゲイであることを隠して子どもを育てますが、それをリークされて一緒に暮らすには不適切と裁判にかけられてしまうんです。その尋問が、二人を追い込む酷い決めつけに満ちていて…。だからといって作品自体が差別反対を声高に主張しているわけではなく、平等で俯瞰した視点がどこかに感じられる。私にとってはそういう作品こそ心に残り、いろんな考えが巡ります」
『チョコレートドーナツ』
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ゲイであることで晒される、容赦ない偏見
歌手を目指しながらショーダンサーとして働くルディと、その恋人の弁護士・ポール。二人はダウン症の子ども・マルコを引き取り、愛情たっぷりに育てる。しかし、幸せな日々は長く続かず…。デジタル配信中/Blu-ray ¥2,750 発売元・販売元:ポニーキャニオン
SDGsが掲げるジェンダー平等の実現に関しては、たくさんの多様な人たちが懸命に生きていることを念頭に、広い視野を保ちたいと土居さんは言う。
「例えば、女性が決定権のあるポジションに就きたいと努力したとき、そうなりやすい環境であったほうがいいと思うんです。でも、そのポジションや職業はこれまで“男性のもの”とされ、知らずに過ごしてきた女性は少なくない気がします。私の子どもの頃の習い事が、バレエとピアノだったように…。それは男性にも言えること。まずは“男女”の枠にとらわれず、いろんな可能性を知る機会があるといいのかなと思います」
世界の男女格差は?

各国の女性の国会議員の割合(高い順)/下院(日本は衆議院)、または一院制議会における女性の国会議員の割合を表すグラフ。50%以上の国が複数あるなか、日本は15.7%と寂しい結果。これでは女性の声が国政に届きにくいかも。UN WOMEN“Women in Politics: 2025”
Profile
土居志央梨
どい・しおり 1992年7月23日生まれ、福岡県出身。京都造形芸術大学映画学科俳優コース在学中に、『彌勒』で映画デビュー。2024年、連続テレビ小説『虎に翼』に出演し、注目を集める。Netflixで配信中の出演映画『10DANCE』も話題。
写真・Nae.Jay スタイリスト・仮屋薗寛子 ヘア&メイク・浜田あゆみ 取材、文・保手濱奈美
anan 2486号(2026年3月4日発売)より












