麺料理は大好きだけど、飲み干せるほどのスープに出会うことは少ない。だから今年8月に赤坂から移転オープンした月島『本宮クッス』の元祖冷麺は衝撃だった。澄んだ金色のスープは一口飲めば「もうこれは一滴たりとも逃せない!」と丼ぶりを抱えたくなる(必死か)。
「3日間の仕込みと10日間の熟成を経てようやく出来上がるスープなんです」と店主の李ソラさん。なんとまあそれは大変な……とありがたさが増すのだが、この奥ゆかしくも清らかな旨味は、上質な牛や鶏のダシをベースに果実や野菜の味わいを引き出して生まれているらしい。化学調味料はもちろん塩以外の調味料は一切使わず、朝鮮半島に古くから伝わる伝統的な製法によって生まれる、時間と手間の味。だから1日20食が限界。
「もっと簡単に、現代的なレシピにアレンジすることはできるけどしたくない。元々お祝い事があると祖母が作ってくれた味なんです。世の中が目まぐるしく回るからこそ、このゆっくりとした味を残していきたい」。冷麺以外にも、ききょうやたんぽぽなど日本では珍しい10種類の自家製キムチを振る舞うイベントを行うなど、故郷の食文化の多様な魅力を伝える李さん。「どれも栄養価が高くて、健康にも美容にも良いんですよ」と笑う李さんの肌はつやつやと輝いて、そのたしかさを物語っていた。
イカ冷麺¥2,000。そば粉とサツマイモ粉とジャガイモ粉をブレンドした細麺の冷麺に、新鮮な食材がたっぷり。祝い花のように華やか。イカに出会えるかどうかは仕入れによっての運次第。定番は鶏冷麺¥1,600。
『本宮クッス』 東京都中央区月島3‐16‐9 リノスタイル月島1F TEL:080・1081・8172 11:00~15:00(14:00LO) 無休 店舗移転予定あり。最新情報はTwitter(@SAKAE16406487)かInstagram(@bongung_gussu)で要確認。
ひらの・さきこ 1991年生まれ。フードライター。著書にエッセイ集『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)。
※『anan』2019年10月9日号より。写真・清水奈緒 取材、文・平野紗季子
(by anan編集部)
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