
雑誌『anan』の55年の歴史の中で、初めて開催された新作マンガの公募、「anan新作マンガ大賞」。7月末に行われた選考会の結果と、選考委員3人の講評をお届けします!
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マガジンハウスのマンガサイト「SHURO」編集部と、アンアン編集部の主催で開催された、「第1回anan新作マンガ大賞」。応募条件は「ラブストーリー」で、「かっこいい、素敵な恋の相手、あるいは主人公が出てくること」「読んだ後に前向きな気持ちになれること」。6月30日の応募締め切りまでに多数の応募があり、6作が最終審査に残りました。
選考会は7月末。小社の会議室に、松田奈緒子さん、東村アキコさん、塚原あゆ子さんにお集まりいただき、作品を熟読しながら忌憚なき意見を交換。「この表情に心を掴まれた!」といったストレートな褒め言葉や、「ここが素晴らしいから、次はこんなテーマを描いてほしい」といった未来への提案、また「最近の絵の流行が見えた」など、さまざまな声が飛び交いました。お三方に共通していたのは、「マンガ家を目指す人たちの未来に、役立つ結果であってほしい」という想い。作品に込められたものを汲み取ろうと、端々まで読み込む、そんな姿勢にプロの矜持を見た気がします。
厳正な審査を経て受賞作が決定。今回は残念ながら大賞は該当作なしとなりましたが、準大賞、そして選考委員それぞれが選考委員賞を選出。準大賞作品は
とにて全編無料公開中!受賞作紹介はこの4作!
準大賞:「世界に愛が無くたって」(著者:こづめ)

“女風”を利用する主人公の複雑な事情と想いを描く/主人公のミユキは30 代で恋愛経験がない。物語 は女性用風俗のセラピストとの待ち合わせから始まり、たわいのない会話を通して二人は少しずつ打ち解けていく。そして体を重ねる前にミユキは、女風を利用した本当の理由を告白する。人生への不安、愛されたいという気持ち…。ミユキのセンシティブな気持ちが丁寧に描かれた佳作。
松田奈緒子賞・「海を愛する少女」(著者:平和島暫暫)

いつか海を見てみたい。馬と共に少女は走り出す/草原に暮らす少女は、貝殻を耳に当て、まだ見ぬ“海の音”を聞くのが好き。いつか海を見たいという夢を持っていたが、亡くなった族長の遺言で、海に近づくなと言われてしまい…。場所も時代もわからない、童話のような物語。
東村アキコ賞・「SUSHI!!」(著者:RABURI)

寿司好きテキサス男子と 日本人男子の一目惚れラブ/中学時代に告白し振られた上にアウティングされた相手に、大学で再会。再び心をえぐられた主人公。傷つきたくない からもう一目惚れはしない、と心に決めた途端、眼の前に現れたのはテキサスから寿司を食べに来た謎の美少年~!!
塚原あゆ子賞・「アキオとシロクマ」(著者:かたりな)

段ボールを開けるとそこに、動いて喋るシロクマが!?/エンジニアとして東京で一人で暮らすアキオのもとに、母 からシロクマの抱き枕(Lサイズ)が送られてきた。箱から出し、放置。ふと見ると、シロクマがゲームをし、こっちを見た?! しかも喋った!! そんなふたりの生活を描く。
その他の最終候補作も一部紹介
「パレット」(著者:新川ネリ)

マンガ家を目指す主人公の恋物語/カフェで働きながらマンガ家を目指す主人公は、 年下の新聞記者の彼氏がいる。“普通な自分”を見つけてくれた彼がいる日常が続くことを願っていたが、どうやら彼には気になる人ができたらしい。恋に依存する自分に気がついた主人公は…。
「feeling」(著者:お寿司)

高校生男女、それは恋か友情か/同じクラスで隣に座る志賀(男子)と辻野(女子)。長い電車通学時間に一緒にいることが多く仲良くなった二人は、日々どうでもいいことと本音を淡々とぶつけ合う。夏のある夜、二人は花火をすることに。いつもより会話が深くなり…?
選考委員3人より、講評をいただきました
松田奈緒子さん(マンガ家)
「作品募集のときのインタビューで、『とにかくこれを描きたいんだ、という情熱をぶつけた作品を読みたい』という話をしたのですが、もちろんみなさん想いをたくさん注ぎ込んだ作品を送ってくださったと思うのですけれど、全体的に、もうちょっとパワーを感じたかったです。準大賞作は完成度も高く、30 代の女性の切実さがしっかり描かれているとてもいい作品だと思います。ただその真面目さゆえにきれいに描こうとしすぎている感じがして、完成度がパワーを上回ってしまっている。そこが惜しかったですね。個人的にはこの方の描く医療モノのマンガを読みたいです。
松田賞の『海を愛する少女』は、私がこういったフォークロアな世界が大好きなので選出しました。おばあちゃんの昔話を聞いているような雰囲気が嫌みなく描かれているところが好きです。登場人物の誰にも名前がないところや、プラスチックがまったく描かれていない世界観もとても素敵でした。
今回の応募者も含めてマンガ家を目指す人たちには、何を描きたいのか、自分の作家性というのを一番大事にし、描き続けていってほしいです」
東村アキコさん(マンガ家)
「初回なのでどんな作品が来るのか楽しみでした。応募作はジャンルも絵柄もバリエーション豊かで、とても面白かった。だからこそ審査が難しかったですね。残念 ながら大賞は選出できませんでしたが、準大賞のこづめさんは、今すぐプロとしてやれるレベルの画力と、テーマに真摯に向き合う姿勢があり、なおかつとても読みやすかったので、まずはこの方の作品をもっと読みたいと思いました。東村賞は絵が上手でスタイリッシュなRABURIさんに。男の子はもちろん、私はこの1コマだけ登場した女の子にも釘付けになりました。おしゃれでかわいくて、私が思うananのマンガって感じ。この方が描く女の子がもっと見たくなりました。
応募作全体に対しては、バイタリティのある主人公の物語をもっと読みたいと思いました。想いを丁寧に描こうとすると、マイナスな感情に目が向きがちになります。特に新人のときはそうだと思います。でも私としてはエンタメは、『明日も頑張ろう』と思わせてくれるものであってほしいと思う。読者を元気にする、その気持ちで一度作品を描いてみてほしいです。そうすると作品の幅も魅力もグッと広がると思います」
塚原あゆ子さん(演出家、映画監督)
「マンガでも、小説でも、映像でも、なにか自己表現をするときには、作者の顔が見えていることはもちろんですが、誰に見せたいか、誰を喜ばせたいかといった、見せたい相手の顔も見えていることが、創作のスタート地点として大事だと思っています。そういう意味で今回の応募作の中には、その両方の顔が見えている作品が見当たらなかったので、私としては大賞を選出することはできませんでした。
エンタメというのは、人と時代の間にあるもので、だからこそ時代性があることもとても大事だと思います。そういう意味で、準大賞に選ばれた作品はテーマがまさに話題の事象なので、今anan のマンガとして送り出すならこの作品なのかな、と思いました。私が選んだ『アキオとシロクマ』は、シロクマがかわいかったということと、絵柄がウェブトゥーンぽいこと、映像化という観点で考えたときに画が見えた、というところでしょうか。個人的には、読後にちょっとシロクマの抱き枕が欲しくなりました(笑)。
今、誰に向けて何を訴えたいのか。そういった強いアピール力を作品の中に盛り込むことの大切さを、選考会を通じて私自身も深く痛感させられました」
選考委員
Profile
松田奈緒子
まつだ・なおこ マンガ家。長崎県出身。代表作に『レタスバーガープリーズ. OK, OK! 』『重版出来!』など。雑誌『Kiss 』(講談社)で連載をしていた『非合法ロマンス』(第15回anan マンガ大賞準大賞)が全3巻で完結。
東村アキコ
ひがしむら・あきこ マンガ家。宮崎県出身。代表作に『海月姫』『かくかく しかじか』、『東京タラレバ娘』(第6回ananマンガ大賞受賞)など。『Cocohana 』(集英社)で『銀太郎さんお頼み申す』、『ビッグコミックオリジナル』(小学館)で『まるさんかくしかく』を連載中。
塚原あゆ子
つかはら・あゆこ 演出家、映画監督。埼玉県出身。「TBSスパークル」演出家、映画監督。主な監督作品に『MIU404 』『最愛』、映画『グランメゾン★パリ』『ラストマイル』など。現在10月スタートのドラマ『ザ・ロイヤルファミリー』(TBS系)の撮影中。