
海宝直人さん
とある邸宅で起きた密室殺人。捜査にやってきた警官が容疑者たちを取り調べてゆく舞台『MURDER for Two』。登場人物は13人以上。しかし舞台上には2人の俳優とピアノ1台。彼らが体や表情、声を使って何役をも演じ分けてゆく。日本では2016年に初演され話題を呼んだ作品が、初演から続投する坂本昌行さんと、海宝直人さんで2022年に再演。そして今回ふたたびの邂逅。
物語はカオスだけど、ウィットに富んだ作品です
「段取りが多く大変な舞台ではあったけれど、喉元過ぎれば…で、達成感もあったし、また挑戦できるならばとは思っていました。でも、マサ(坂本)さんは『もう二度とやるもんか』とおっしゃってましたから、よくぞ引き受けてくれたと(笑)」
それもそのはず、数ある役のうち10役以上を引き受けるのが坂本さんなのだ。
「単純に出演者がふたりだけで出番が多いというのもありますが、セット転換も衣装替えもない中、ふたりで複雑な状況をお客様に提示していかなければならないんです。セリフの量があるうえに複雑な言い回しも多く、それをコメディとして見せていくのが難しいんです。さらにピアノの演奏もあり、演じる側は、場の状況から役柄、心情まで全部をしっかり体に落とし込んでから、自由になるところまでいかないといけない。何重にもハードルがある作品です」
事件の捜査をしてゆく警官・マーカスが自身の主な役柄となる。
「登場するキャラクターがみんな濃いんです。ときに妖艶なバレリーナ、ときに小生意気な子供たちに対し、僕がツッコミ役として、その瞬間ごとリアルに接することで、お客様に情景が見えてくるのかなと思っています。物語はカオスだけど、ウィットに富んだ作品です。これまで自分が培ってきたいろんな引き出しを全部開けて挑みたいです」
子役の頃から『美女と野獣』などのミュージカルに出演。アンサンブルなども経験しながら、今年、舞台芸能生活30周年を迎えた。
「役を背負ってお芝居して、心が動く。それが変わらずずっと好きなんです。ある日、ある瞬間にしか生まれない新しい感情があって、それは毎回必ず感じられるものじゃないけれど、思わぬタイミングに起こる。そのとき、やっぱりお芝居が好きだなと思うんですよ」
意外にも「もともと人前に出るのはそんなに得意じゃない」そう。それでも続けてきたのは「極度の負けず嫌いだからじゃないか」と分析。
「自分の表現とか自分の歌に対して、つねにこれでいいのかと疑い続けているし、自分がここまでいきたいと思い描いている表現になかなか到達できない葛藤があるんです。子供の頃から、素晴らしい俳優さんたちのお芝居や歌に触れるありがたい環境にいたこともあるのかもしれません。なかなか届かない理想に向かって今も進み続けている感覚です」
瞬時に役が入れ替わる!? 演劇ならではの面白さ

2022年舞台写真より。撮影・岡 千里
登場するのは、大女優やバレリーナ、精神科医など。それらのキャラクターを、見た目はメガネや帽子といった小道具の着脱のみで演じ分ける。瞬時に役が入れ替わってゆく面白さは、まさに演劇ならではの醍醐味。彼らと対峙してゆく海宝さん扮する警官・マーカスのポンコツ具合も相まってのドタバタ展開に爆笑必至。
Profile
海宝直人
かいほう・なおと 1988年7月4日生まれ、千葉県出身。劇団四季『美女と野獣』でミュージカルデビュー。近作に『イリュージョニスト』『この世界の片隅に』など。10月にCD『ever more』を発売予定。
Information
オフ・ブロードウェイ・ミュージカル『MURDER for Two(マーダー・フォー・トゥー)』
9月11日(木)~22日(月)六本木・EX THEATER ROPPONGI 作・詞/KELLEN BLAIR 作・音楽/JOEKINOSIAN 演出/SCOTT SCHWARTZ&J. SCOTTLAPP 出演/坂本昌行、海宝直人 S席1万1500円ほか プレビュー、宮城、福岡、新潟、大阪、愛知公演あり。
anan 2460号(2025年8月27日発売)より