志村貴子『そういう家の子の話』1

志村貴子『そういう家の子の話』における「そういう家」とは、何らかの宗教を熱心に信仰している家を指している。これは本人の意思にかかわらず、“家がそうだから”信者として生きてきた、宗教2世を中心としたオムニバスだ。作者の志村貴子さんは、その当事者でもある。


“普通の家”ではないことを知った宗教2世、それぞれの生き方

「歌劇学校を舞台とした『淡島百景』という作品で、宗教2世の女の子を主人公にした回があるのですが、自分の家のことを題材に絡めたのはそれが初めてでした。マンガの形にすることで、何かしら吐き出したいという欲求は常に抱えていて、その気持ちを少しずつ育んでいたのだと思います。オムニバスにしたのは、自分が好きな形式だからというのが一番ですが、『そういう家』と括られても、当たり前ですけど熱量や関わり方はそれぞれなので、いろんな視点で描いてみたかったのです」

軸として描かれるのは、とある宗教の子供会でいつも顔を合わせていた幼なじみの3人。28歳になったイラストレーターの恵麻は、ひとり暮らしの際に持たされた仏壇を処分し、自分の家のことは誰にも話していない。浩市は恋人との結婚を考えるものの、“信者か否か”を理由に両家から待ったがかかってしまう。沙知子は実家暮らしで、特に疑問を持たず宗教活動を続けてきたが、些細なことを機に反抗心が芽生える。

「どのキャラクターにも、自分の要素がちょっとずつ入っているのだと思います。もやもやし続けているけれども、家族を否定しきれなかったり、実家にそのままいたらどうなっていたんだろうと想像してみたり。宗教2世はどういう人生を歩んでいくのか、私自身が知りたいのでしょうね。どの作品を描くときもそうなのですが、着地点をはっきり決めておくことのほうが少なくて。描きながら、自分の感情や視点に気づくことも多いので、私にとってマンガを描くことは、思考を整理する作業なのかなと思っています」

そのうえであくまでも大事にしているのは、マンガとしての読み心地。ノンフィクションのように何かを暴いたり、糾弾するつもりはないし、当事者や周辺の人がしんどくなる話にはしたくない、と強調する。

「たとえば涙が溢れるほど悲しかったり、つらい思いをしているときでも、どうでもいいようなくだらないことで笑って、気が抜ける瞬間ってあるじゃないですか。人生はそういうことの連続なのかなと思ったりもするし、かっこ悪さやみっともなさがちゃんと描かれている物語こそ、自分の理想なのだと思います」

複数の視点を通して、ひとつの事象を深掘りしていけるのは、オムニバスの醍醐味。宗教とは。家族とは。結婚とは。登場人物と共に迷いながら、考えていきたい作品だ。

Profile

志村貴子

しむら・たかこ マンガ家。1997年『ぼくは、おんなのこ』でデビュー。原作ドラマ『おとなになっても』がHulu 独占配信中。「ハツコイノツギ」連載中。

Information

『そういう家の子の話』1

同じ宗教を信仰する家庭に育った3人の幼なじみを中心に、宗教2世と呼ばれる人たちの仕事や結婚、家族との向き合い方を細やかに描いたオムニバス。小学館 770円 Ⓒ志村貴子/小学館

写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

anan 2456号(2025年7月23日発売)より
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No.2456掲載

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2025年07月23日発売

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