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『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』は背水の陣的な気持ちで作りました。
――まず、映画監督になるまでの経緯を教えてください。
大学時代にサークルを立ち上げて自主制作映画を撮り、CM制作会社へ入社しましたが、やはり映画を作りたいと思い、27歳で映画美学校へ入学しました。高橋洋さんや三宅唱さんのもとで学びましたが、その時もすでにホラーを中心に撮っていました。卒業後、映画を作ろうと思いながらも作らない日々が続いていた時に、日本ホラー映画大賞ができて、ここで勝負しなければ一生撮らないなと感じたんです。そこで、何も作っていなかった4〜5年の間に考えていた怖い表現を全部詰め込んでやろうと思って撮ったのが、『その音がきこえたら』でした。一応、賞に引っかかることができ、さらに第2回が開催されて、背水の陣的な気持ちで作ったのが『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』です。幸運にも大賞が取れた…という感じです。
――監督が手がけた『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』や『その音がきこえたら』は、モキュメンタリーや、登場人物の視点で撮られるPOVの手法を取り入れたホラー作品です。
子どもの頃に『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や、『ほんとにあった!呪いのビデオ』のような心霊ドキュメンタリー、白石晃士監督作品などを観て怖かった思い出があったんですが、直接的にその要素を取り入れたというわけではなくて。そうした作品の影響下にあるYouTubeチャンネルの『フェイクドキュメンタリーQ』や『ゾゾゾ』、大森時生さんが手がけたTV番組『このテープもってないですか?』を観た時に、“自分たちの世代のクリエイターが登場した” “自分たちが昔、怖いと思っていたものを今やろうとしている人たちがいる”という感触が強くあり、今の恐怖表現の最先端はここだと思ったことに大きな影響を受けています。
特に、『ゾゾゾ』的なクリエイティビティや恐怖表現のあり方はかなり参考にしていて。映像にファウンドフッテージの要素を取り込み、ジャンプスケア的なことには頼らず、あまりフィクショナルなことはしない恐怖表現になった気がします。自分がお客さんとしてホラー映画を観ている時に怖いと感じる瞬間を振り返ると、大きい音や叫び声を出す時じゃないなと思い、その感覚を信じるのであればうまくいくだろうと思いました。
VHSは今や、記録というより記憶に近い媒体に。
――作品に登場するVHSテープの映像がとてもリアルでした。演技の演出や質感は、どのように作り上げたのでしょうか?
まず演技に関していうと、先に場を作り、頭からお尻まで一通り撮影します。すると、俳優が演じるにあたり、たとえセリフを何行書こうとも、絶対にどこかに間が生まれます。そうして間ができると、人は自然と言葉が出てくるんですよね。たとえ子役であっても、「ここでは何を喋っていいよ」と伝えておくと、意外なまでにアドリブでしゃべり始めたりして。だから嘘がなく撮れる、という感じです。
映像に関しては、撮った映像をVHSテープに実際に焼くという作業を経ることで、本当に記録されたもののような感触、質感が得られることは大きいのかなと思います。昨年、『aftersun/アフターサン』という映画を観た時に思ったんですが、VHSは記録媒体というより、記憶に近いという印象があったんです。たしか、大林宣彦監督が「映画とは記録ではなく、記憶を伝える、風化しないジャーナリズム」とおっしゃっていましたが、そこから時代が巡り、今、デジタルは記録に近い感触だけど、ビデオはかなり記憶に近い媒体になっている気がしています。
だから、僕らが記憶として思い出す時の感触って、結構、ビデオの映像くらいの粗さというか、記憶に近いというか。人の記憶を覗き見るような感覚というのが、あのビデオの映像の中にはあるのではないかと思います。VHSは時間経過というものを完全に残してしまうので、そういう意味でも、実はフィルムに近い質感のものなのかもしれません。
『ゾゾゾ』のエピソードや実際の出来事が長編化のアイデアの源に。
――もともと短編として作られた今作ですが、長編化にあたり、新たに取り入れた要素はどんなものだったのでしょうか。
『ゾゾゾ』に「ジェイソン村」というエピソードがあり、作中では明言されていませんが、どうも骨壷が土に埋まっているのを見つけたのではないか、ということが示唆されていて、それが怖かったのを思い出しました。骨壷って、そんなに土に埋まることがあるものなのかな? と思って調べてみたら、骨壷の不法投棄にまつわる新聞記事を見つけたんです。山ではなく街中のゴミ捨て場みたいなところでしたが、これが現実に起こるのであれば、山という場所に捨てられていて、そのせいで人が消えるという現象も、信じられるかもしれないなと。この要素を入れることで長編にできるな、という発見がありました。
――ちなみに、監督ご自身は、これまでに恐怖体験をしたことはありますか?
友だちと3人で廃墟になったホテルを訪れた時、最後尾を歩いていたのですが、服のフードを引っ張られたんです。え? と思って後ろを振り返ったけど誰もいない、ということがありましたね。僕の身長は172cmで、かなり下から引っ張られた感覚があったから、おそらく110〜120cmくらいの子どもなのかなと。直前にそこで「だるまさんがころんだ」をしていたから、その時に遊びにやってきた子が、もうちょっと遊びたいと引き止めたのかもしれません。
ホラーにまつわる原体験でいうと、僕は北海道出身ですが、幼稚園の時のお泊まり会で、農家さんが作ったとうきび畑の迷路に行ったんです。小さな規模でしたけど、そこにお化けに扮した先生たちがいて、怖がりつつも楽しんでいた記憶がありますね。あとは、映画『学校の怪談』シリーズとか、図書館で読んだ江戸川乱歩の『少年探偵団』シリーズも。結局、そういうものがずっと好きなんですよね。
PROFILE プロフィール
近藤亮太
こんどう・りょうた 1988年6月28日生まれ、北海道出身。『その音がきこえたら』で第1回日本ホラー映画大賞MOVIE WALKER PRESS賞を受賞。テレビ東京「TXQ FICTION」の演出を担当。「行方不明展」の映像作品に参加。
INFORMATION インフォメーション
『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』
一緒にかくれんぼをしていた弟が失踪した過去を持つ兒玉敬太(杉田雷麟)は、行方不明者を探すボランティアを行なっている。ある日、母親からビデオテープが送られてくるが、そこには、弟が山にある廃墟で姿を消す瞬間が映っていた。霊感のある同居人の天野司(平井亜門)、そして、新聞記者の久住美琴(森田想)とともに、真相を暴くため、弟が姿を消した山へと向かうことに。近藤亮太監督初の長編作品となる。2025年1月24日公開。