エンタメの力でポジティブマインドに。
2025年は、どんなエンタメ作品がヒットするのか。2024年に顕著だった傾向から、予想されることがあるという。
「やはりSNSの影響です。これまでもその傾向はありましたが、2024年に象徴的だったのはNetflixシリーズの『地面師たち』が社会現象といえるほどのムーブメントを巻き起こしたこと。ピエール瀧さんが演じた役の台詞『もうええでしょう』がネットミーム化したことが大きかったと思います。有料コンテンツ内のこの台詞が流行語大賞にノミネートされたことにも驚きです」(noteプロデューサー・徳力基彦さん)
SNSで話題となるカギは、ショート動画映え。
「見た目や台詞、キャラクターなどが瞬間的にキャッチーであること。そんなワンシーンの切り抜き動画がSNSで回ってくると、その作品を見ていない人は、作品自体に興味がわいて実際に視聴する、というサイクル。こうしたヒットの仕方は、2025年も続くと思います」(「SHIBUYA109 lab.」所長・長田麻衣さん)
あまり深く考えず、シンプルに楽しめる切り抜き動画が、コンテンツに辿り着く入り口に。
「2024年のトレンド分析をすると、全体的に“疲れ”が感じられます。2023年にコロナ禍での行動規制がなくなり、コミュニケーションも情報も一気に増え、収拾がつかなくなっているのかも。2025年も疲れからの療養期間が続く兆し。コンテンツも複雑なものより気軽でわかりやすいものが求められそうです」(長田さん)
結果、人気が予測されるのは、“アゲ”のコンテンツ。
「例えば、直球の恋愛ドラマなど。2024年、TVerでの配信などをきっかけに平成のドラマがZ世代に流行りましたが、『かっこいい♡』『キュンとする!』と、感覚的に楽しめるところが支持されたのでは。ポジティブさがあり、見ているだけで元気をもらえる。そんな作品が好まれやすくなっています」(長田さん)
エナジーチャージという点では、オーディション番組にも、そこに通じるものがあるという。
「オーディション番組の人気は続きそうですが、視聴者はよりリアルな人間ドラマが見られる番組を支持する傾向。いま話題の『No No Girls』や『PROJECT 7』はまさにそう。参加者が自分の課題と向き合い、成長する姿に感情移入し、応援したくなるのだと思います」(長田さん)
切り抜き動画映え名場面がヒットのカギ。
まずはキャッチーな切り抜き動画がSNSで回ってきて、そこから作品自体に興味を持つ人が増え、ヒットにつながるという流れ。『地面師たち』のような決め台詞や名場面があると強い。
支持されるのは元気をもらえるコンテンツ。
情報の海に溺れて、みんなお疲れ気味…。今は難しいドラマや映画よりも、単純に見て、楽しんで、ポジティブな気持ちになりたい。そんなムードに合う映像作品がヒットしそう。
リアルな人間ドラマに感情移入する人続出!
制作チームの思いが感じられる作品を見たい。
映画やドラマは切り抜き動画が視聴のきっかけになるほか、こんな選び方をする人も増加傾向。
「以前はキャストを中心に作品を選ぶ人が多かったと思いますが、最近は、制作チームを軸に選ぶ人が増えている印象です。例えば、10月期のドラマでは『海に眠るダイヤモンド』(TBS)が話題ですが、プロデュースは新井順子さん、演出は塚原あゆ子さん、脚本は野木亜紀子さんで、3人は過去にもドラマ『アンナチュラル』などで度々タッグを組んでいます。今はネットの普及で制作者の思いなど作品の背景を視聴者が詳しく知ることができる時代。制作チームの信頼度により、『海に眠るダイヤモンド』も見たいと思った人は多かったのでは」(徳力さん)
では、2025年1月期のドラマで注目の制作者は? 早稲田大学教授でテレビドラマ論などが専門の岡室美奈子さんに伺うと、
「2024年は『虎に翼』(NHK)の吉田恵里香さんや、『海のはじまり』(フジテレビ)の生方美久さんなど女性脚本家が活躍しましたが、2025年も期待が持てます。例えば、大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)の森下佳子さん。これまで大河ドラマ『おんな城主 直虎』や、『JIN‐仁‐』(TBS)などを手がけていて、歴史ものがうまい。また、『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』(フジテレビ)の脚本家の一人である蛭田直美さんは、『舟を編む ~私、辞書つくります~』(NHK)でのこまやかな台詞が印象的でした」
また、韓国ドラマは2024年もヒット作が登場したが、日本と韓国の俳優の共演というケースもじわじわ盛り上がっている模様。
「二階堂ふみさんとチェ・ジョンヒョプさんが共演したドラマ『Eye Love You』(TBS)は話題になりましたよね。日本と韓国のコラボ作品は、今後も注目されると思います」(長田さん)
TikTokなど縦型プラットフォームで見られる数分間のコンテンツ「ショートドラマ」は、メディア革命を予感させる!?
「これまで監督を務めるには専門の知識や経験が必要でしたが、ショートドラマアプリ『BUMP』では、作り手の可能性を広げることに挑戦している。現に、俳優の福田沙紀さんが、BUMPで監督デビューしました。文章の世界では、ブログなどの登場で一般の人が記事を発信できるようになりましたが、映像エンタメも作り手の間口が広がるかも」(徳力さん)
『虎に翼』後も女性脚本家に力作の期待大。
日本×韓国のコラボ作品がアツい!
Netflix新作ロマンスシリーズ(タイトル未定)
主演は小栗旬、ヒロインはドラマ『ムービング』などで知られるハン・ヒョジュ。対人関係に大きな悩みを抱える男女二人が、チョコレートをきっかけに偶然の出会いを果たすロマンティック・コメディ。赤西仁と中村ゆりも出演。2025年Netflixにて世界独占配信予定
ショートドラマを機に映像クリエイターの門戸が開く?
ショートドラマという新たなコンテンツの登場で、文章でいうブログのような感覚で、一般の人がドラマ監督を務められるようになるかも? 話題になれば、プロへの転身もあり!?
PROFILE プロフィール
徳力基彦さん
noteプロデューサー。ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。Yahoo!ニュースへのエンタメ関連の寄稿も行う。
長田麻衣さん
若者マーケティング機関「SHIBUYA109 lab.」所長。毎月200人のZ世代と対話を行う。TBS系『ひるおび』月曜コメンテーターなどメディア出演や寄稿も多数。
岡室美奈子さん
早稲田大学教授。専門はサミュエル・ベケット、テレビドラマ論、現代演劇論など。著書に『テレビドラマは時代を映す』(ハヤカワ新書)などがある。