「悪人に見えても子どもにだけは優しいとか、いい人だと思っていたら冷酷な面があったとか。誰にでも裏の顔があって、それをのぞき見る瞬間にぞくぞくします。これまでは、いい人の暗黒面を暴くことを軸にしていましたが、この作品では初めて、正義を絶対視する人がいたら周囲にどんな作用があるのかに挑戦してみました。と同時に、殺したはずの人から招待状が届いたら面白いかな、と思いついて書き始めたんです」
何につけても正義第一を貫く範子を殺してしまった、4人の元クラスメイトたち。行方不明とされたまま5年が過ぎたある日、彼女たちが受け取った招待状には範子の名前が…。
秋吉理香子さんの『絶対正義』は、誰もが持つ“正義”というものの危うさと怖さをあぶり出したノンストップ・ミステリー。フリージャーナリストの和樹ら4人のクラスメイトはみな、範子にピンチを助けてもらった経験を持つ。その一方で、法に触れないことを絶対の正義とし、人情やモラルといった緩衝材が入り込む余地のない範子の行動は、和樹たちや周囲の人々を苦況にも追い込む。
「『範子にイライラする』が、やがて『殺したいほど憎い』というような、湧き上がる殺意へ変化していく。そんな4人の気持ちに共感してもらえるように腐心しました」
範子の正義感は、昨今の過剰なバッシングなど世相にも通じるものだ。
「職場や学校、あるいはSNSの世界でも、正義を振りかざす人がいます。私自身も歩きタバコが苦手で、それを誰かと一緒になって糾弾できたら気持ちいいだろうなと。 正論で人を攻撃するのは快感。正しさゆえのおごりは誰の中にもあって、それゆえに怖いものだと思います」
差出人の正体や目的が明かされる最後の最後がまた衝撃的だ。
「最後のエピローグで読者が腑に落ちるよう、何度も書き直しましたね」
ちなみに、インタビューの最後に飛び出した発言にも驚かされた。
「実は私、長い間、純文学しか読んだことがなくて、投稿もずっと純文学系の賞にしていたんです。何かミステリー作品をという執筆依頼を受けて書いたのが『暗黒女子』です。発売直前まで“イヤミス”という言葉さえ知りませんでした(笑)」
恐るべし、自著がそこに分類されると知らずに書いていてこの後味…。