悩みって、幸せな未来を期待できるから出てくるもの。
悩むって、誰にとっても辛いし、いやなものではありますよね。でも一方で、悩みには贅沢品という側面もあるんじゃないかなと思っていて。
例えば、いつ結婚するのかとか、やりたい仕事の見つけ方がわからないとか、未来に対するよりよい可能性をどこかで感じているからこそ、人は悩むと思うんです。僕なんて先日、出張で北海道に行ったときに、ジンギスカンにしようか、海産物を食べるか、これ以上ないほど悩みましたから! ちょっとお気楽な例だと思うかもしれませんが、コロナ禍以降、悩める幸せみたいなものを久しぶりにかみしめた体験でした。
つまり、何が言いたいのかというと、ここ3年ぐらいの間は未来が見えなすぎて、何に悩んだらいいのかわからなくなるような、特殊な状況下にあったと思うんです。出会いの場に行きたくてもステイホームだし、転職したくても先行きが不安定…。どこに向かっていくのかわからない不安と毎日向き合わされて、個人的な悩みを持つというある種の贅沢が、あとまわしになっていた人も多いのではないでしょうか。
もちろん生きていれば、自分ではコントロールできないような社会的な不安と向き合うことは、責任としてありますが、やっぱり虚無感とか何もできないくやしさは出てきますよね。改めてこの3年を振り返ったときに、そろそろそういう状況から脱却して、悩むことの幸せっていうのかな、そんな経験をいろんなやり方で取り戻していかなきゃいけないと僕は考えているんです。
良性の悩みは自分基準、悪性の悩みは他者基準。
ただ、悩みには、良性の悩みと悪性の悩みの両方がある気がしていて、そのどちらかによって受け止め方も変わってくると思います。
良性の悩みというのは、自分のなかに答えがある悩み。例えば、どんな仕事をしたいのかわからないとか、もっと身近なところでいうと何を食べたいかわからないとか、心が動かないときに出てくるものなんですね。そういう感覚がにぶってしまっているときには、0.2mmとかでいいので、ほんの少しでも心が動いた体験を、記録するといいと思います。外に出たときに、冬の始まりを感じる冷たい風が気持ちよかったとか、小さな“好き”を重ねていくのです。そのうちに、悩みが建設的なレベルに上がっていくような気がします。
一方、悪性の悩みはというと、他者が基準になっている悩み。あの人みたいになりたいとか、人と比べて自分は恵まれていないとか、結果的に自己否定に陥ってしまうんです。それにより自信をなくして、自分の居場所をどんどん削ってしまう。しかも、悪性の悩みが厄介なのは、例えば会社の人間関係がうまくいかなかったときに、自分の人間関係全般に問題があると思ってしまうなど、広がっていくし、連鎖していく。
こんなふうに悪性の悩みに引きずり込まれてしまうのは、極端に謙虚な人だったり、他者から認めてもらうのが得意ではない人だったりするんです。おそらく、親に溺愛されたとか、親友が自分の個性を認めてくれているとか、自分をまるごと受け止めてもらえた経験がある人は、他人と自分を比べて落ち込むことって、そうないと思います。「だから何?」とはね返すことができるんです。でも、そういう後ろ盾がないと、自分に自信が持てないぶん、他者基準になって悪性の悩みにはまってしまう。
こういう方に僕がお伝えしたいのは、「ハッピーを持ちましょう」なんです。「幸せを持ちましょう」だとちょっと重い気がしていて。英語のハッピーと日本語の幸せって、ニュアンスが違うじゃないですか。ハッピーのほうがお気楽というのかな。例えば配信ドラマを観るのが好きなら、その間は友だちから連絡が来てもスルーするとか、なんかそういう自分を最優先にする時間が、ハッピーをつくる気がします。他人の要望や期待に100%応えない自分を、まずは大事にしてほしいですね。
あとこれは、お悩み全般の受け止め方に対する僕の考えなのですが、良性の悩みは幸せな悩みでもあるので、何時間でも考えていいと思うんです。でも、例えば「明日上司に相談してみないとわからない」みたいな自分だけでは解決できない悩みなら、そこに付き合う時間をなるべく減らしたほうがいいと思います。問題について考えるという、その時点でできる限りのことはやったわけだから、それ以上背負う必要はないんです。そしてもう一つ、人は意外と思い思いにふるまっているということ。例えば、感情的になっている人を前にしても、それはその人がやりたいようにやっている状態なので、「楽しそうだな」と脳内変換すると、変に引っ張られずに済みますよ。
しいたけ.さん 占い師、作家。早稲田大学大学院政治学研究科修了。哲学を研究するかたわら、占いを学問として勉強する。近著に『しいたけ.のやさしいお守りBOOK』『しいたけ.の小さな開運BOOK』(共に小社刊)。公式サイトhttps://shiitakeofficial.com/
※『anan』2022年11月30日号より。イラスト・100%ORANGE 取材、文・保手濱奈美
(by anan編集部)