
綿矢りさ『グレタ・ニンプ』
綿矢りささんに、新作『グレタ・ニンプ』についてお話をうかがいました。
グレた妊婦に引きずられ、価値観もひっくり返る!? 妊娠コメディ小説
「女性の服装やふるまいや言葉遣いなどは日本でもずいぶん自由になってきたと思う一方で、妊婦さんに対してはまだ“らしさ”が求められる傾向がありますよね。もっと自由に妊婦ライフを楽しめたらいいのにという願望も込めて、“わきまえない”ことを体現している主人公を書こうと思ったんです」
不妊治療に疲れ果てていた矢先に、自然妊娠した呉田俊貴・由依夫妻。喜びのあまり豹変していく由依へどう対応すべきか、俊貴は大いに戸惑う。その内面がユーモラスに描かれた綿矢りささんの『グレタ・ニンプ』に痺れた。妊娠を機に自分らしく変わっていく女性へのエールと、少子化の責任を女性にだけ背負わせようとする社会への強烈な批判と皮肉が詰まった本作。爆笑しながらぶんぶんと力強くうなずいてしまう。
「妊娠となると、女性の大変さが強調され、妊婦はこうすべき/いやダメ論争でせめぎ合うなど、どうしても女性中心になって、夫のことは置き去りにされがち。けれど、妻の妊娠は夫にとっても転機で、そばで支えているがゆえの心境の変化もきっとある。仕事にしても、家庭にどのぐらい配慮しつつやることになるのか塩梅が難しい。夫目線で書く方が面白くなりそうだと思いました」
由依の〈控えめだけど笑顔が可愛い〉ところに惹かれた俊貴だが、外見も言動も日に日にパンクになっていく妻の変化は、驚きの連続。
「実は由依自身が真面目に考えてこういう結果になったかなとも思うんです。妊娠出産に限らず、マニュアルやセオリーに沿ってきちんとやればすべてうまくいくわけではない。むしろ、由依は本当に体と心を大切にするために自分を解放することを選んだのだと思います。また、妻に無理やり理解させられたにせよ、俊貴は最後には由依の最強の応援団になった。いちばん変わったのは夫かもしれませんね」
ふたりの微笑ましい激変をぜひ見届けてほしい。
「本作は週刊誌連載だったんです。締め切りに背中を押されて、考えるより先に書き出す感じで向き合いました。デビュー20周年のころにはなかった感覚で、25周年を迎えて突如出現した早押しボタンみたいな(笑)。小説を書く仕事の、知らなかった一面を発見したなというか。その意味でも記念碑的な作品です」
Profile
綿矢りさ
わたや・りさ 1984年生まれ、京都府出身。2004年、『蹴りたい背中』で芥川賞、2019年、『生のみ生のままで』で島清恋愛文学賞ほか受賞歴多数。『すばる』で「シャブシャブ上海」を不定期連載。
information
『グレタ・ニンプ』
バレンタインデーに気になる彼にチョコをあげるか否かでハムレットばりに悩む女子大学生のプチパニックを描く「深夜のスパチュラ」を併録。小学館 1870円
anan 2483号(2026年2月10日発売)より

























