――備前焼がテーマの作品ということで、陶芸や焼き物の知識がないと十分に楽しめないかもと心配でしたが、イマドキの女性、はるかの成長に共感できる部分も多くて、面白かったです。
ありがとうございます。はるかの年代ってちょうど就職難で、いろんな部分で悟らなければいけない時代に生きているし、夢を持つことを難しく感じている、本当にイマドキの女性だと思います。ドラマティックなことに人並みに憧れはあるけれど、夢はなかったはるかが、ある日、備前焼の大皿に出合い、自分の中に眠っていた強さと明るさが解き放たれたんです。その感覚って、きっとどの女性の中にも眠っていて、やりたいことにまだ出合えていない女性も、多いと思います。
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――大皿にすっかり魅了されてしまったはるかは、仕事を辞めて大皿を作った職人を訪ねて岡山県備前市の伊部へ行くわけですが、その行動力は素晴らしいですね。そこまでした理由はなんでしょう。
“知らない自分と出会った”というのが大きいんじゃないかなと思っています。今まで興味のなかったものに、見た瞬間に心が奪われるということがなかったから、自分への探究心から行ってみよう、作った人に会ってみようという行動力に繋がったんだと思います。
――奈緒さんは、そういう感覚を味わったことはありますか?
まさにお芝居がそうで、初めてワークショップで演技をさせてもらった時は大きな衝撃でした。私、基本的に感情の起伏が激しいわけでもないし、おりこうさんだね、って言われながら学生時代を過ごしてきたんです。でもお芝居をしてみたら、怒りの感情を表現できたり、すごく大きな声が出たりすることに驚いて、それがなんなのかわからなくて。そこから、お芝居がしたい! と思うようになったんです。当時、地元の福岡で所属していた事務所の方に「お芝居がやりたいんです」って初めて話した時は涙が止まらなくて。反対されてるわけでもないし、ただ思いを伝えているだけなのに、これなんの涙? って。言葉や理屈で説明できないからこそ、不思議な力が湧いてきたりするものなのかな、と思うとはるかが備前焼に出合った時の感情ってそういうことなんじゃないかな、って。その後、はるかの猪突猛進な性格からいろんな人たちを巻き込んでいくところも、面白いと思いました。
――“巻き込まれた”のは、主に平山浩行さん演じる師匠の修先生と、笹野高史さん演じる人間国宝の陶人先生でしたね。このおふたりとのシーンは多かったと思いますが、撮影中はどのようにチームワークを深めていきましたか?
笹野さんは、一緒にいるだけで学びがある方でした。オール岡山ロケだったんですが、笹野さんとのシーンの撮影は最初の5日間で集中的に行われたんです。2人でいる時に「君が主演の映画で僕がいろいろ言うのは違うかもしれないんだけど、ごめんね」と言いながら、監督やスタッフと、時には1人ですごく悩まれていて、それを私にも相談してくださって。キャリアの長い方が、いい作品にしたいとそこまで悩む姿にすごく勇気をもらったんです。私も笹野さんぐらいの年になった時に、同じように悩める人でありたいな、って思いました。現場では、いろんな笹野さんをフィルムカメラで隠し撮りしていたんですが(笑)、悩みながら窓を開けて、岡山の風景を眺めている後ろ姿は本当にかっこよくて、その写真は私のお守り代わりになりました。平山さんは、映画の中では厳しい師匠で笑顔のない役でしたが、実際はチャーミングな方。平山さんの写真はほとんど笑っています。私の体を気遣って肩の力を抜かせてくれたり、撮影が終わると温泉に連れていってくれるような、優しくて大きな方。だから完成作を観た時に「あれ、修先生って私が知ってる平山さんと全然違う!」ってびっくりしちゃいました(笑)。
――ギャップを知ってから観るのもいいかもしれませんね(笑)。映画の見どころを教えてください。
まず、岡山の風景がすごくきれいなこと。映像がかっこよくて、自然の音も岡山の風景の中から録っているので、音楽や音も含めこの映画が好きです。伊部に生きる人やその情熱、備前焼の素晴らしさが詰まった映画になっているので、映画館で観ていただければ、肌や鼓膜に触れるようなあったかさが体験できると思います。難しく考えずに、ふらっと映画館に足を運んでほしいです。
なお 1995年2月10日生まれ、福岡県出身。高1の時に地元の芸能事務所に所属し、モデルの仕事を始める。芝居を勉強するために20歳で上京し、テレビドラマやCMに出演。転機になったのは連続テレビ小説『半分、青い。』(NHK)と『あなたの番です』(NTV)。来年1月にスタートする『やめるときも、すこやかなるときも』(NTV)でヒロインを務める。
映画『ハルカの陶』は、第13回岡山芸術文化賞功労賞を受賞したコミックが原作。OLのはるかは、ある日デパートで偶然目にした備前焼の大皿の虜になり、仕事を辞めて、岡山県備前市に窯を持つ作家・修の弟子を志願する。陶芸家を目指すはるかの成長を描いた夢と情熱が詰まった物語。共演に平山浩行、笹野高史ほか。ユーロスペースほかにて全国公開中。
※『anan』2019年12月11日号より。写真・小笠原真紀 ヘア&メイク・つばきち インタビュー、文・若山あや
(by anan編集部)