「お話をいただいて本を読みましたが、正直、おいそれと“やります”とは言えない内容でした。僕の役は、共感されるどころか、反発しか予想されない男。こんな男を演じて大丈夫なのかって、心底悩みました。でも考えてみると、これまでにとんでもない役はたくさんやってきているし、役者・遠藤憲一のイメージをここでぶっ壊してもいいかなって。守りに入ってる自分に気がついて、やろう、踏み出そうと決めました」
遠藤さんが演じる恭一郎は、コンピューター会社の企画開発部長。仕事で窮地に陥った日、深酒をし、深夜帰宅すると、14歳の息子が殺されたという連絡が入り…。
「恭一郎は息子を失いパニクっている状態で、いろいろととんでもないことをやらかしていくんです。たとえば、週刊誌に手記を書くんだけど内面を吐露しすぎて世論に叩かれたり、死に際の息子の状況が知りたくて面会謝絶の被害者の病室に忍び込んだり…。“え、なんでそうなっちゃうの!?”ってことばっかりやるんですよ。一生懸命やればやるほど、ヘンなことになっていく様が、ちょいちょい描かれていて。確かにシリアスなドラマではありますが、演じているこっちも、正直“おい、おまえ大丈夫か!”って思いながら、演じている部分もあるので、そこはぜひ、突っ込みながら見ていただきたいです」
息子を殺めた少年の母親と、恋に落ちる主人公。一般的にはなかなか共感されにくいキャラクターですが、だからこそ、遠藤さんはやりがいがあると語ります。
「今回は、主人公に共感してもらえなくてもいいから、ドラマとして“続きが見たい”と思わせる作品にするのが目標。なので、思いつく限り、演出家はもちろん、スタッフにいろんなアイデアを提案させてもらっています。でもその物づくりがすごく楽しい。前のドラマから休みなく現場に入っていることもあり、体力的に結構大変なんですが、かつてないくらい充実していますね」
「オトナの土ドラ」と名付けた枠でのドラマ。そんなドキドキも、期待できるのでしょうか…?
「僕が思う大人のドラマは、繊細な心模様を描きながらエッジがあって、映像が美しく、そして色っぽさがあること。今回もそういう場面はもちろんあります。とはいえ僕も、58歳でまさかキスシーンを演じるとは思っていなかったし、しかも結構ラブラブなんですよ(笑)。でも大人のドラマゆえ、軽い感じでは許されないと思っているので、モットーは、激しく美しく。20~30代のみなさんをドキドキさせられるよう、頑張ります(笑)」
『それぞれの断崖』 小杉健治の同名小説を原作としたドラマ。恭一郎の妻を田中美佐子さん、恭一郎と恋に落ちる加害者の母親を田中美里さんが演じる。毎週土曜23:40~、フジテレビ系「オトナの土ドラ」の枠で放送中。
えんどう・けんいち 俳優。1961年生まれ、東京都出身。初期はVシネマを中心に活躍した後、’09年ドラマ『湯けむりスナイパー』でブレイク。12月に出演映画『午前0時、キスしに来てよ』が公開予定。
※『anan』2019年8月14日‐21日合併号より。写真・中島慶子 スタイリスト・中本コーソー ヘア&メイク・村上まどか
(by anan編集部)
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