森崎博之
りんと通る声に、熱いまでのリアクション。言葉の端々には、裏表のないキャラクターがにじみ出る。個性的な面々が集まるチームナックスのリーダーを務める、森崎博之さん。
「まとめない、引っ張らない、すごくない、の“3ない”リーダーですよ」と、自身を茶化しつつ、「でも、誰よりもナックスを愛しているんです」。そう、言い切る。メンバーの中でひとり北海道に拠点を置き続けるのも、
「そこが僕たちの原点だから。フィールドに出る仲間の後ろで陣地を守る、ゴールキーパーのような存在でありたいんです」
原案と6年ぶりの演出を手がける今回の公演にも、故郷への深い思いが。終戦の混乱時、北海道で実際にあった戦いを元にした物語は、
「10年以上前から形にしたいと思っていたもの。骨太なテーマですが、みんな40代になった今、全員で向かい合うことに。もちろん、チームナックスらしさも忘れていません。誰もが観たいナックスを演出します」
結成20年を過ぎ、ひと区切りの意味も?
「とんでもない。一番年下の音尾が80歳になるまで全員続けますから! これ僕だけが言ってますが(笑)、でも、あいつらならできる気がするんです」
安田 顕
5人でいるときの安田顕さんは、賑やかなメンバーの中で一歩引いているような雰囲気。
「主張しないほうだと思いますよ。僕がやいのやいの言っても、誰かしら何か言ってくるから(笑)。それに、たとえば稽古で煮詰まっても、本番までに何とかするやつらだってことは長年の付き合いでわかっているし。信頼しているんです、口には出しませんけどね」
そんな安田さんにとって、チームナックスは“素”に戻れる場所なのだそう。
「個人で他のカンパニーに行くときは、毎回、新しい自分と出会える感覚。でもここ(ナックス)では、変わらない自分でいられる。ナックスの舞台は、3年に一度くらいのペースでやっていますが、ちょうどいいサイクルで根本に立ち返ることができるんです」
ファンも心待ちにしている今回の舞台では、壮絶な戦争体験により、泣くことができなくなってしまった男・桜庭仁平を演じる。
「いつもそうあるべきだと思うんですけど、とくにこの作品は、『“いたこ”になりたい』という思いが強い。これまであまり知られていなかった史実を、自分の体をとおして、エンターテインメントという形でお客様にきちんと届けたい。やる意義は大きいと思います」
戸次重幸
結成して21年目となる今年。「チームナックスにとって、すごくいい時期がきたと思っています」と笑顔で明言する、戸次重幸さん。
「メンバー全員が男40代。人生にはいろんな時期があるけれど、今はみんな、川の下流にある石みたい。角が取れ、丸く、ツルツルとした状態になっています。発破直後の岩石のように尖っていた頃は、“自分と合わない”とかメンバーの嫌な部分に目がいっていたけど、最近は、いいところを見るようになりました。“こいつのここが好きだ”と思いながら過ごすほうが、やっぱり、いいですよね」
一緒に仕事をするのも安心感があるそう。
「一人のときは“いい評価は自分のおかげ、悪いのは自分のせい”という、わかりやすい方程式がありますよね。それが、チームの場合には“評価がよかったらこいつらのおかげ、悪かったらこいつらがなんとかしてくれる”となる。野球と一緒で、たとえ自分が打てなくても、誰かが打てば勝てるんです」
チームだからこその目標も胸に抱いている。
「いつか、ナックスで映画を撮りたいんです。多くの人の目につかなくてもいい。登場人物は5人だけ。観た後には何も残らないけど、面白かったと思えるコメディがいいですね」
大泉 洋
大泉洋さんは、かつて、“ナックスの客寄せパンダ”だという自覚でいたのだそう。
「でもそれでよかったし、ナックスが大きくなるためだったら、できることをいくらでもやろうと思っていました。ナックスというのは、僕が大学に入って、“腐っていてはいけない!”と踏み出したときに出会った、特別な仲間なんです。しかもとにかく面白く魅力的な奴らなので、その魅力を世の中の人にわかってほしいという思いがあったんですよね。だから、“『水曜どうでしょう』の大泉洋”というキャラで客が呼べるなら、という感じでした。でも今やナックスは、全員がパンダ状態(笑)。ナックスとして認められたいと思っていた僕的には、本当に嬉しい限りです」
公演中の舞台は、第二次大戦後の北海道で起きた史実を元にした作品。これまでの彼らにはない、シリアスな内容となっている。
「数年前だったら、“そんなテーマ、重いんじゃない?”って断っていたかもしれないですが、僕らも40代半ばに差し掛かり、下の世代に何かを残したいと考えるようになったんですかね。楽しく笑ってもらう芝居もいいですが、今回は、観てくれた人の心に何かを残せるような舞台になるよう、頑張ります」
音尾琢真
学生時代の先輩後輩で結成されたチームナックスで、一番若い音尾琢真さん。「何年経っても、学年の上下関係は変わらないんでしょうね。良くも悪くも(笑)」と苦笑するが、強烈な個性で突き進んでいく4人を静かに見守る、穏やかで冷静な、調和の人だ。
「もともと受け身なんだと思います。ただ、納得しないことには首を縦に振らない。芯は頑固で、それを囲むようにして、柔軟な素材をいろいろ取り揃えている感じです」
その芯にあるものとは、芝居への情熱だ。
「演出家の飴屋法水さんや小川絵梨子さんを筆頭に、芸術のために人生のすべてを注いでいるような方々と一緒に仕事をして、自分もそっちに行きたいと思ってしまったんですよね。ただ、そこについていくためには、一切の嘘も妥協も許されない。生半可な覚悟はダメなんだと学ばせてもらいました」
目前に迫った3年ぶりとなるナックスの公演も同様。相応の覚悟をもって臨んでいる。
「他の作品と違うのは、メンバーやスタッフに対しての評価も全部ひっくるめて、自分のこととして感じるんです。それだけに覚悟の度合いは強まりますよね。21年かけて培ってきたものを見せられたらと思っています」
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