寒さを乗り切る先人の知恵を味わう。
「中国の漢方やインドのアーユルヴェーダなどでは、昔から、バランスのいい食事を摂ることで体調が整ったり、病気の予防につながるといわれています。そういった考え方は世界各地に自然発生的にあり、人々は自分たちが暮らす場所で育った旬の食材やスパイス、ハーブなどの調味香辛料を使って、地域の気候や風土に合う料理を作っていたんですよね。それらは地産地消による独自の食文化として、今に伝えられているのです」と語る郷土料理研究家の青木ゆり子さん。
今回紹介するのは、世界各国からピックアップした、体を温めてエネルギーをチャージするスープ。北欧や東欧をはじめ、暑いイメージのインドやペルーの中でも寒暖差が激しい山岳地帯など、寒い地域に伝わる郷土色豊かなスープたちだ。
「寒冷地域では、必然的に温かいスープを食べられるようになります。日本でも、東北や北陸の郷土料理には、汁物や鍋が多いですよね。体温が上がると免疫力もアップするので、理に適っているんですよね」
使う食材は、各地域でとれる旬のものが中心。気候や土壌に適応しながら定着していった、人が生きるために必要不可欠な食べ物だ。
「その中から、食べると元気が出たとか、体がポカポカするとか、経験によって素材を選び、組み合わせていったのではないでしょうか」
そんな先人たちの知恵が詰まった世界のスープを食卓に取り入れて、この冬はおいしく、健やかな毎日を。
【ハンガリー】グヤーシュ
羊飼いの野外料理が起源の具だくさんシチュー。
中央アジアからやってきた遊牧騎馬民族がルーツのハンガリーの人々。じゃがいもや牛肉がごろごろ入ったこのシチューは、9世紀頃に牧童が野外で作っていた料理が始まり。南米からもたらされた唐辛子を改良したパプリカによって、体を温める効果がさらにアップ。
【材料/2 人分】
牛肉(角切り)…200g 玉ねぎ(みじん切り)…中1/2個 にんにく(みじん切り)…1かけ にんじん(皮をむいて輪切り)…中1/2本 じゃがいも(皮をむいて乱切り)…中1個 赤パプリカ(薄切り)…1/4個 トマトピューレ…50ml パプリカパウダー…大さじ1 ローリエ…1枚 キャラウェイシード…ひとつまみ(なければ省略可) 塩…大さじ1/2 黒こしょう…小さじ1/4 バター…大さじ1 水…500ml トッピング[パセリ…少々]
【作り方】
1、鍋にバターをひき、玉ねぎを少し色づくまで炒め、にんにく、パプリカパウダーを加えて混ぜながらさらに炒める。
2、1に牛肉を加えて炒め、にんじん、じゃがいも、赤パプリカ、トマトピューレ、水を加えて混ぜ、ローリエ、キャラウェイシード、塩、黒こしょうを加える。
3、2の具材がやわらかくなるまで20~25分ほど弱火で煮込む。味を見て、お好みで塩(分量外)を足す。スープ皿に盛り、パセリを飾る。
【インド】パラク・ショルバ
新鮮なほうれん草の風味に唐辛子をピリリと効かせて。
一年中暑い印象のインドだけど、北部の冬は寒い地域もありスープが好まれる。この地で栽培されるほうれん草が主役のスープは、元は中東から伝わったそう。唐辛子を効かせにんにくやしょうがもトッピングした一皿は、さっぱりしながらもピリ辛味で体はポカポカ。
【材料/2 人分】
ほうれん草(ざく切り。ゆでる。冷凍でもよい)…200g ミントの葉…5~6枚 青唐辛子…1/2本(なければ、唐辛子粉…小さじ1/4~お好みの量) 牛乳…150ml 水…200ml 塩…少々 黒こしょう…小さじ1/4 レモン汁…小さじ1/2 トッピング[バター(あればギー)…大さじ1/2 にんにく(薄切り)…1かけ しょうが(千切り)…大さじ1/2 生クリーム(フレッシュクリームでもよい)…適宜]
【作り方】
1、ほうれん草、ミントの葉、青唐辛子をミキサーまたはフードプロセッサーでポタージュ状にする。
2、鍋に1、牛乳、水を入れて沸騰させる。黒こしょう、レモン汁を加えて1分ほど中火で煮込み、塩で味を調える。
3、トッピング用に、フライパンにバターを入れて熱し、にんにくを炒める。
4、2をスープ皿に盛り、お好みで生クリームを回しがけ、3としょうがをトッピングする。
【チェコ】クライダ
クリーミーだけどさっぱりとした味わいが魅力。
エネルギー源になる栄養がたっぷり入った、南ボヘミアが起源のマッシュルーム入りクリームスープ。クリームスープ自体はヨーロッパで幅広く親しまれているけれど、卵を入れるのがチェコ式。酸味があってさっぱりしているので、冬はもちろん、夏でもおいしく食べられる。
【材料/2 人分】
玉ねぎ(さいの目切り)…中1/4個 マッシュルーム(薄切り)…100g 小麦粉…大さじ1 野菜スープの素…小さじ1 じゃがいも(皮をむきさいの目切り)…中1個 バター…大さじ1 A[オールスパイス・パウダー…ひとつまみ(なければ省略可) ローリエ…1枚 黒こしょう…ひとつまみ] 塩…少々 生クリーム…70ml グラニュー糖…小さじ1 白ワインビネガー…大さじ1~2(米酢でも可。好みの量) 水…500ml トッピング[ディル…少々 半熟卵(市販の温泉卵でも可)…2個]
【作り方】
1、鍋にバターを入れて溶かし、玉ねぎとマッシュルームを加えて、具材がやわらかくなるまで5分ほど炒める。
2、小麦粉を加えて、ダマにならないよう30秒ほど炒める。
3、さらに、水と野菜スープの素を溶かし入れ、鍋の底についた小麦粉をこそぎ落とすようによく混ぜる。じゃがいも、A、塩を加えて混ぜ、沸騰したら火を弱めてじゃがいもがやわらかくなるまで約10分煮込む。
4、火を止めて、生クリーム、グラニュー糖、白ワインビネガーを加えて混ぜる。味を見て、お好みでビネガーと塩(各分量外)を足す。
5、スープ皿に盛り、ディルと半熟卵をトッピングする。
【ノルウェー】ブロムカルスッペ
風邪予防&腹持ちがいいカリフラワーをたっぷりと。
地中海東部で生まれ、寒さに強く、ノルウェーでも栽培されているカリフラワーは、ビタミンCをたっぷり含むので風邪の予防に役立つとも。そのため、北欧にはカリフラワーを使った料理がさまざまあり、こちらのスープもその中の一つ。食物繊維が多く、満腹感たっぷりなのも魅力。
【材料/2 人分】
カリフラワー(茎を取り除き、房を小さく切り分ける)…1/2個(約250g) 玉ねぎ(みじん切り)…中1/4個 水…400ml 野菜スープの素…小さじ1 牛乳…100ml 生クリーム…15ml(お好みで) バター…大さじ1/2 塩、こしょう…各少々 トッピング[ベーコン(薄切り)…15g 長ねぎ(薄切り)…10g]
【作り方】
1、鍋にバターをひき、玉ねぎを炒める。
2、1にカリフラワー、水、野菜スープの素、牛乳を入れて沸騰したら、火を弱めてカリフラワーが柔らかくなるまで5分ほど煮込む。
3、2からカリフラワーを1/4ほど取り出したら、残りをスープごとミキサーまたはフードプロセッサーにかけてポタージュ状にする。お好みで生クリームを加え、塩、こしょうで味を調えて混ぜ、鍋に戻し少し温める。
4、トッピング用に、フライパンでベーコンをカリカリになるまで炒め、長ねぎを加えて、長ねぎがしんなりするまでさらに1分ほど炒める。
5、スープ皿に3を注ぎ、3で取り出しておいたカリフラワーと4をトッピングする。
PROFILE プロフィール
青木ゆり子さん
世界の料理 総合情報サイト「e‐food.jp」代表。郷土料理研究家、コラムニスト。日本の47都道府県、世界約70か国250都市、首都圏の駐日大使館、各国のコミュニティレストランなどを訪ね、さまざまな郷土料理の取材をし、その道の専門家や現地の人から調理法や食文化を学ぶ。