1955年に創刊し、以来日本の少女まんが文化の王道を進んできた、雑誌『りぼん』。今年70周年を迎えたこの雑誌に思い出があるanan読者は、たくさんいるはず。あの頃の思い出から、“今の『りぼん』”まで、世代の違う3人のまんが識者たちが、各時代に愛されたヒロイン像に迫ります。

Index

    ’60年代・’70年代|“ドラマティック”と“乙女ちっく”の2 本柱で人気を博す。

    1958年頃からまんがの比率が増え、その頃に少女まんが誌になったといわれる『りぼん』。その頃はどんな立ち位置の雑誌だったのでしょう。「当時はまだ若い女性、特に少女たちのためのメディアが少なく、当時の少女たちにとっては非常に貴重な存在だったのではないかと思います。まんが家が描く絵はファッションのお手本であり、また恋物語はやがて自分にも訪れるであろう恋愛の年頃への想像をたくましくもしてくれる。世界を知る縁だったのでは」

    というのは、女子まんがを研究している小田真琴さん。この時代の象徴的な作家といえば、’67年にデビューを飾った一条ゆかりさんだと言います。「ドラマティックでゴージャス。そして圧倒的な画力。存在そのものが、少女まんがにおいて革命的だったと思います。後進への影響も大きく、一条さんの登場で、少女まんがは1段上のステージに上がったと思います。その周辺作家、大矢ちきさんや内田善美さんの存在も忘れてはなりません」

    一方で’70年代に登場する陸奥A子さん、末頃に登場する田渕由美子さんを代表とする〝乙女ちっく〞な世界観も、この時代を語る上では外せない作品群。「ゴージャスでドラマティックと慎ましやかでかわいらしい乙女ちっく。まったく異なる世界観が共存しているという、ものすごい雑誌ですよね(笑)」

    その2つの価値観を経たことがその後に大きく影響している、と小田さん。「ドラマティックと乙女ちっくの2つがあったから、その後の圧倒的な存在感に繋がったのでは。『りぼん』は少女まんがの王道であり、だからこそ、女の子にとって共通のコミュニケーションツール、友人たちとの絆のような存在だったのでは、と思います」

    『砂の城』一条ゆかり
    ナタリーと、年の離れたフランシスの禁断の恋を描く大作。フランシスの出自、ナタリーの両親の死、行方不明事件…。力のある絵と物語に圧倒される。●りぼんマスコットコミックスDIGITAL 全7巻
    ©一条ゆかり/集英社

    『たそがれ時に見つけたの』陸奥A子
    たそがれ時に、街で偶然見つけた青年に一目惚れをした女子高生・松実を中心にした、高校生の恋愛群像劇。気持ちの描写が愛らしい、微笑ましい恋物語。●りぼんマスコットコミックスDIGITAL 全1巻
    Ⓒ陸奥A子/集英社

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    お話を伺った方

    小田真琴さん/女子マンガ研究家

    おだ・まこと 雑誌やWebなどで執筆。 「『砂の城』は笑っちゃうほどのドラマティ ックな展開が魅力。『銀曜日のおとぎばなし』は'80年 代に連載されていた温かく豊かなファンタ ジー。『お父さんは心配症』は全盛期の勢いと多 様性を代表する一作。今読んでも笑えます」

    好きな『りぼん』まんが

    • 「砂の城」一条ゆかり
    • 「銀曜日のおとぎばなし」萩岩睦美
    • 「お父さんは心配症」岡田あ〜みん

    ’80年代・’90年代|自分で選ぶことの意味や大切さを、教えてくれた。

    リリカルな時代を経て、人気は右肩上がり。’94年に255万部という売り上げを記録した『りぼん』。ライターの竹村真奈さんは、当時のリアル読者。「当時の少女まんが誌は、〝女の子の辞書〞みたいな存在でした。今の子たちがYouTubeやSNSで感情の言語化を学ぶように、当時私たちは少女まんが誌で〝心の使い方〞を学んだ気がします。その中で『りぼん』は、リアルな恋や学校生活を丁寧に描いていた雑誌でした。私のイメージですが、内向的だけど想像力が強く、かわいいものや感情表現に敏感、ちょっと背伸びをしたい女の子が夢中になっていたような記憶があります」

    登場するヒロインは、自分の意思を持ち恋も友情も全力。そんな前向きな姿に、読者はみんな憧れたそう。「例えば『天使なんかじゃない』の冴島翠は、恋も友情も自分の意思でまっすぐに進むタイプ。『姫ちゃんのリボン』の野々原姫子は最後の選択が素晴らしく、少女の自己受容と成長を描いた象徴的な作品だと思います。また吸血鬼と狼女のミックスという立場で、親の反対を押し切っても恋を貫く強い意思を見せた『ときめきトゥナイト』の江藤蘭世、そして恋よりも自己表現を優先する姿が眩しかった『ご近所物語』の幸田実果子…。いずれも誰かに選ばれる女の子ではなく、自分で選ぶ女の子が描かれていた。今思うとその姿は、社会が変わる前夜の、少女たちの自己表現だったのでは」

    一方で、『りぼん』に欠かせないギャグまんがにおいて、印象的な作品が多数生まれた時代でもあります。「特に岡田あ〜みんさんの登場は衝撃的で、こういった作品が載り、人気を博すことが、この雑誌の懐の深さを象徴していたと思います」

    ’80〜’90年代以降も、少女たちの心を捉えて離さないこの雑誌、愛される理由を聞いてみると、「どんな時代も女の子の気持ちに正直に向き合ってきたから、なのでは。純粋な恋も、友情のゆらぎも、自己表現の葛藤も、『りぼん』はいつも、〝今の少女のリアル〞と寄り添いながら、少し先の夢を見せてくれる存在です。大人になった私が今読んでも、あの頃の〝自分のまっすぐさ〞を思い出させてくれる、そんな力がありますね」

    『ご近所物語』矢沢あい
    主人公は、服飾デザイン科に通う高校1年生の幸田実果子で、夢はデザイナー。隣に住む山口ツトムとの恋や、彼女を取り巻く友人らの恋や人間模様を描く。●りぼんマスコットコミックスDIGITAL 全7巻
    Ⓒ矢沢漫画製作所/集英社

    『ときめきトゥナイト』池野 恋
    魔界の少女・江藤蘭世が、人間界で同級生の真壁俊に恋をする。前途多難でも恋を貫く姿が人気に。現在『クッキー』(集英社)にて続編連載中。●りぼんマスコットコミックスDIGITAL 全30巻
    ©池野恋/集英社

    『天使なんかじゃない』矢沢あい
    新設高校を舞台に、生徒会副会長に選出された主人公の冴島翠と、リーゼントヘアが特徴的な生徒会長に選ばれた須藤晃の恋や、友情を描いた群像劇。●りぼんマスコットコミックスDIGITAL 全8巻
    ©矢沢あい/集英社

    『姫ちゃんのリボン』水沢めぐみ
    身につけると他人に変身することができる“魔法のリボン”を手に入れた主人公・姫子の、恋や友情、心の成長を描いた作品。テレビアニメ化やミュージカル化といった展開も。●りぼんマスコットコミックスDIGITAL 全6巻
    Ⓒ水沢めぐみ/集英社

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    お話を伺った方

    竹村真奈さん/ライター

    たけむら・まな 編集者として手掛けた本は300冊以上、30冊の著書も。「『天使なんかじゃない』で恋愛や友情はきれいごとじゃないことを学び、『ときめきトゥナイト』で蘭世の恋に号泣。『お父さんは心配症』の天才的ギャグセンスで、少女まんがの常識を壊されました(笑)」

    好きな『りぼん』まんが

    • 「天使なんかじゃない」矢沢あい
    • 「ときめきトゥナイト」池野 恋
    • 「お父さんは心配症」岡田あ〜みん

    ’00年代・’10年代|内と外を繋ぐ、ドアのような存在だった。

    2000年代初頭は、ネットの波がゆるやかに押し寄せつつも、まだ主流になる前の時代。「当時少女まんが誌は、〝同じまんがを読んでいる友達同士〞を繋ぐ小さなコミュニティの中心に存在していたと思います。その後ネット文化が本格的に始まってからは、誌面で感じたあのときめきを、コミュニティの外に発信する時代になります。’10年代以降は、少女まんが誌は少女の内と外を繋ぐ出入り口だったのでは、と思います」

    と言うのは、まんがライターのちゃんめいさん。この時代の『りぼん』に登場したヒロインには、読者が真似したくなるような魅力が溢れていたそう。「例えば『GALS!』の寿蘭ちゃんは明るくて芯が強く、ファッションや生き方を含め〝なりたい〞と思える存在でした。また『チョコミミ』の洋服の着こなしを描いたページは、ファッション誌を見るように眺め、ワクワクしたのを覚えています。一方でヒロイン像も幅広く、『永田町ストロベリィ』の主人公は総理大臣の娘でした。あの頃は、女の子キャラの多様化がどんどん広がった時代だったと思います」

    当時『りぼん』を読んでいたのは、恋やおしゃれ、友達関係など、〝日常のリアル〞に興味を持ち始めた、そんな世代の女の子たちだった、とも。「ファンタジーよりも、少し背伸びをして現実を味わいたい、そんな層に人気だった印象があります。そんな私たちに、『りぼん』は成長を優しく導く小さな魔法のような存在でした」

    ちゃんめいさんは、『りぼん』は女の子の青春の入り口だと言います。「今も昔も、子供から少し大人へと移ろいゆく少女たちの気持ちに寄り添い続けている雑誌です。心のゆらぎを時に優しく肯定し、また物語を通して憧れの場所に連れていってくれる。どんな時代の女の子にとっても、〝自分の中の大人〞を見つけるきっかけであり、背伸びの味方であり続けたことが、これだけ長く愛されている理由なのでは、と思います。今でも、ページをめくるたび、少しずつ〝大人になる予感〞を教えてくれたあの感覚は、りぼんっ子にとって永遠だと思います」

    『GALS!』藤井みほな
    ギャルカルチャー真っ盛りの時代に描かれた、渋谷を舞台にした3人の女子高生ギャルの物語。楽しく遊び回るだけでなく、社会問題を扱う硬派な一面もあった。●りぼんマスコットコミックスDIGITAL 全10巻
    Ⓒ藤井みほな/集英社

    『c永田町ストロベリィ』酒井まゆ
    内閣総理大臣の父親を持つ一ノ瀬妃芽が、お金のために複数の女性と遊び歩くクラスメイトの男子・桐原夏野と出会い、反発しながらも惹かれていく恋物語。●りぼんマスコットコミックスDIGITAL 全5巻
    Ⓒ酒井まゆ/集英社

    『チョコミミ』園田小波
    チョコとミミ、2人の女子中学生が主人公の4コマギャグ作品。二人のファッションにフォーカスしたコーナーは、おしゃれまんがとしても人気を博した。●りぼんマスコットコミックスDIGITAL 1~11巻
    Ⓒ園田小波/集英社

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    お話を伺った方

    ちゃんめいさん/まんがライター

    まんが家インタビュー、コラム執筆などで活躍。「危険な雰囲気の夏野と誠実な広山、どっちがいい? と友人と盛り上がった『永田町ストロベリィ』。禁断の恋の薫りにドキドキした『アンダンテ』。『時空異邦人KYOKO』は美しい絵に感動…!!」

    好きな『りぼん』まんが

    • 「永田町ストロベリィ」酒井まゆ
    • 「アンダンテ」小花美穂
    • 「時空異邦人KYOKO」種村有菜

    種村有菜さんの描き下ろし表紙! 熊元プロレスさんに聞く『りぼん』偏愛も

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    取材、文・河野友紀

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