『あした死ぬには、』で40代女性が直面するあれこれを描き、大きな反響を呼んだ雁須磨子さん。今作の主人公は、さらに上の50代だ。
人生を折り返してなお、転々と。50代女性が出会う新しい自分
「自分の年齢も上がってきて、自然な流れでチャレンジしようと思いました。ただ、体力の低下や、自分が輪の中心から外れてしまう寂しさみたいなことは、前作でしっかり描いたので、今回は悩むことから目をそらしてきたタイプにしてみました」
50歳の葉子は仕事を辞め、故郷の福岡に戻ろうとしている。18歳で上京して細々と役者業を続けてきた彼女は、独身で子どももおらず、すべての決断が自分に委ねられてきた。
「悩めないからここまできちゃったけど、踏ん切りの遅さによって起こるいいことも、きっとあるはず。みじめさを経験するのは、悪いことばかりじゃない気がします」
引っ越しや職探しなど、新しいことを始めるのは以前よりパワーがいるうえ、ハードルも高くなっている。世知辛い思いをすることで、改めて年齢を自覚するのだが、1巻では母親との関係も興味深く描かれている。地元に戻っても、なぜか葉子はなかなか実家に足を運ばないのだ。
「甘えが許されているのでしょうけど、最近の自分の物語作りの気分として、理由がないような行動を成立させてみたいのです。母に会いに行かないことに特別な理由があるわけではなく、母も怒るわけでもない。とはいえ老齢なので会わなければいけない何かが今後起こるかもしれませんが、長女にとって母親とはどんな存在なのか考えていきたいです」
再スタートの地で彼女はどんな人と出会い、何を思うのか。家族、仕事の同僚、訳ありっぽい大家さん親子など、ドラマが動き出しそうだ。
「葉子みたいに楽観的で、職業柄、警戒心の強いタイプは、どうやったら積極的に他者と関わりたくなるのか気になるところです。例えば困っている若者がいたら、手を差し伸べることができるのか。付き合えそうもないのにフラれに行くみたいなことになりそうだけど、50歳だからそれくらいやってもいいんじゃない!? なんて思ったりします(笑)」
年をとるのは悲観することではない。当たり前だけど軽視されがちな価値観と向き合い、マンガとして新しい景色を見せてくれるのが嬉しい。
「若い人が読んだ時、うわ年とるの怖い!ってばかりじゃなくこれでいいんだと思ってもらえるような話にしたいです。怖いことはいろいろあるけど、実際、大丈夫ですから!」
Profile
雁 須磨子
かり・すまこ マンガ家。福岡県出身。1994年デビュー。BLから青年誌、女性誌まで幅広く活躍。『ややこしい蜜柑たち』『毎分毎秒』など著書多数。
Information
『起承転転』1
誰かの妻にも母にもならず、「なんにでもなれる」と思ってきた50歳・葉子の再出発。加齢の現実を受け入れつつ、いかにして新たな自分と出会うのか。太田出版 1320円
anan 2471号(2025年11月12日発売)より
MAGAZINE マガジン

No.2471掲載
とっておきの贈り物 2025
2025年11月12日発売
anan恒例の手みやげ・ギフト特集。スイーツライターのchicoさん、ギフトコンシェルジュの真野知子さん、フリーアナウンサーの宇賀なつみさん、料理家/管理栄養士の長谷川あかりさんといったananおなじみのフード賢者たちのトレンド感ある手みやげグルメの紹介のほか、俳優の梅沢富美男さんや、元TBSアナウンサーの堀井美香さんら食通の有名人によるこだわりのセレクトも。いま贈りたいギフトの最適解が見つかる一冊です! 松井玲奈さんによるエッセイや、注目の芸人コンビ・例えば炎の贈り物にまつわるストーリーも必読。


























