
今年横綱に昇進し、この十一月場所で5場所目を迎える豊昇龍関。夢だった横綱になるまでの軌跡、なってみての心境などを聞きました。
今年、一月場所で優勝決定巴戦を制して横綱に昇進した豊昇龍関。その後、ケガに苦しみ、横綱として過ごした4場所中2場所は途中休場。しかし先場所(九月場所)は優勝決定戦まで進み、最終盤まで場所を盛り上げた。そんな横綱にまずは子どもの頃の思い出を聞いてみた。

―― 小さいときはどんな子どもでしたか?
よくケンカをする子ども(笑)。ガキ大将みたいな感じですかね。でも勉強はちゃんとやってました。特に数学が得意でテストはだいたい満点でしたね。
―― 5歳から柔道、11歳からレスリングを始めたということですが、その頃、お相撲はやってなかったんですよね。
やってなかったです。こわかったもん(笑)。
―― それはどうして?
だって近くに横綱(叔父の朝青龍関)が一人いましたからね。体が大きいし、オーラもすごいし。相撲を見ても、相手を思い切り投げたり、吊り落としたりしていて。これは絶対ケガをするし、お相撲さんにはなれないな、と思っていたけど、なっちゃった(笑)。
―― 最初、日本体育大学柏高校にはオリンピックを目指してレスリング留学で来たんですよね。1年生のとき、五月場所を見学して相撲を始めることを決めたとのことですが、どんな心境の変化があったのですか?
俺もやりたいな、って思っちゃったんです。一回やってみたい、って。レスリングはいつでもできるけど、相撲は今しかないと思ったんです。人生は一度きりだから。
―― それでレスリング部から相撲部に転部したんですね。レスリングと相撲って、似ているところがありますか?
全然違いますね。だから全部一からやらなくちゃいけなくて。
―― 日体大柏の相撲部といったら強豪ですよね。いちばん苦労したのはどんなことですか?
全身、痛かった(笑)。その頃、体重が66kgしかなくて、周りは100kg超えている人もいるでしょ。当たるだけで痛くて。でももう相撲部に来ちゃったから、我慢してやるしかないと思ってました。
―― 高校時代の写真を見ると細身で筋肉質という感じでしたよね。そこからどうやって体重を増やしたんですか?
死ぬほど食いました(笑)。でもあまり太らないタイプだったから。
―― そして高校卒業後は立浪部屋へ入門。入門時の体重は100kgくらいでした。増えましたね!
でもまだ全然細かったですね。
―― 2018年の一月場所に初土俵を踏んでからは8場所連続勝ち越し。入門の翌年、2019年の七月場所には十両昇進を目指す幕下二枚目まで昇進。このとき初めて負け越して、拳を土俵に叩きつけていましたね。
初の負け越しもだけど、勝てば念願の関取になれる一番だったから、余計に悔しかったんです。
―― 花道を引き揚げるときも涙を流していましたね。今、負けてあそこまで悔しがる力士はそんなにいません。この人は強くなるんだろうな、と確信しました。
もともと負けず嫌いなんです。相撲はもちろんだけど、ゲームでも負けるのは大嫌い。
―― 負けたらどうするんですか?
自分が勝つまでやります(笑)。
―― そういう気持ちが横綱の強さの源なんですね。ちなみに今まで相撲を取ってきて、最も印象に残っている一番は?
去年の十一月場所、相星決戦で負けて優勝を逃した一番。それまででいちばん悔しかったです。
―― 勝った一番でなく、負けた一番が印象に残っている?
はい。その悔しい思いを、今年の一月場所に思い切りぶつけていった感じです。
―― それで巴戦を制して、見事優勝。ああいう決定戦のときって、緊張はしないんですか?
緊張するときもあるけど、あのときはそれよりも「チャンスだ」と思って熱くなりました。いろいろ考えても仕方ないし、今までやってきたことを信じよう、って。(巴戦で戦った)あとの二人は緊張してたと思うけど(笑)。
昇進してからの4場所はすごく勉強になりました
―― そしてその後、横綱に昇進。4場所、横綱として過ごしてきたわけですけど、新横綱の三月場所では右肘と首のケガで、七月場所も左足などのケガで途中休場となりました。横綱になってからの時間は、どんな時間でしたか?
大変でしたよ。まず横綱として相撲を取るということが大変。しなければならないことがいろいろあるし、すべきでないこともあるし。自分でも「横綱なんだから」と考えることがたくさんあった。すごく勉強になりましたね。
―― 経験したことがない思いをたくさんしたということですよね。
そうですね。横綱の気持ちは横綱に上がった人しかわからない、って言いますけど、それを身を以て知ったというか…。歴代の横綱はどうやってこれを乗り越えてきたんだろう、と何度も考えました。
―― 横綱は勝つのが当たり前、番付が下がることはないけれど、勝てなくなったら身を引くしかないという厳しい地位ですものね。横綱土俵入りは慣れましたか? 豊昇龍関の土俵入りはせり上がりがなめらかでカッコいいですよね。
ありがとうございます。せり上がりはいちばんきれいにしなくちゃいけないと思って、自分で動画を見ながら研究したんです。おもに膝を使う人が多いような気がするんだけど、自分は足首を使うほうがきれいにできます。
―― ところで横綱は、横綱になって良かったと思いますか?
どうですかね…。もちろん良かったと思うときもあるし、ダメだったかなって思うときもあるし…。
―― それぞれどんなときですか?
良かったと思うのは、やっぱり今まで「横綱に上がってほしい」と応援してくれた方々の願いを叶えられたこと。親方やファンの方たちに少しでも恩返しができたのかな、って。ダメだったかなと思うのは、やっぱり負けたとき。たまに、そう思っちゃいます。
―― 先場所は11日目まで連勝で単独トップを走っていましたが、この場所が始まる前に、ぎっくり腰をやっていたとか?
はい、場所が始まる4日前に。でもどうしても休場はしたくなかったので、場所前は稽古を休み、治療に専念して、親方と相談して出ることに決めました。
―― そんな状態でよくあんなに勝てたな、と驚きます。残念ながら優勝決定戦で敗れてしまいましたが、千秋楽に師匠(立浪親方)から「よくやったよ」と声をかけられていましたね。
あと一歩のところで優勝だったからすごく悔しかったけど、親方のその言葉でちょっと楽になったところはあります。
―― 師匠は近くで横綱を見ていたからこそ、いろいろわかるところがあったんでしょうね。横綱にとって、師匠はどんな存在ですか?
稽古場では厳しい。いつも自分にだけ厳しいんです(笑)。でも稽古場を離れるとあまり相撲のことは言わず、お兄さんみたいな感じ。親方とよくLINEしてるんですよ。親方がゴハン屋さんの料理の写真とかを送ってきて「今日、ここに行ってきたぞ。今度、一緒に行こう!」って誘ってもらったりして(笑)。うちの部屋の若い衆とか周りの人もみんな親方のことは好きって言いますね。
―― 素敵な師匠ですね。横綱は特に本場所中など、すごくプレッシャーがかかる場面が多いと思うんですけど、プライベートの時間でリラックスするためにしていることはありますか?
ゲームです。世界中と繋がるオンラインゲームが好きで、それをやっているとリラックスできますね。あとはアニメやモンゴルの映画を観たりとか。
―― 最近は何を観ましたか?
『キングダム』の新しいシリーズが始まったので、それを今ずっと満喫してます。
―― 『キングダム』のキャラクターの中では誰が好きですか?
やっぱり主人公の信ですよね。あと李牧も好き。
―― 信と李牧、横綱とかぶるところはありますか?
ないです(笑)。
―― 場所中はおうちで過ごして、あまり外に出ないんですか?
出ないですね。朝稽古に部屋に行って、昼ちょっと休んで、場所に行って相撲取って帰ってきて、そのまま家にずっといるタイプです。外に出ると疲れちゃうから。
―― 突然ですが、好きな女性のタイプは?
きれいで話がおもしろい人がいいです。
―― 有名人で好きな人は?
日本のドラマとかをほとんど見ないので、有名人を知らなくて。あ、小林幸子さんとは仲良くさせてもらってます(笑)。一緒に田植えにも行きました。
―― 今、いちばん幸せなときは?
やっぱり応援してくれる方々や両親、親方が喜んでくれるときがいちばん幸せな気がします。
―― 夢はありますか?
ずっと横綱になることが夢だったんだけど…。やっぱり夢が叶うと、一時、気持ちがちょっと落ちるときがあるんですよね。だからもう一度新しい夢を作らなくちゃと思って、今は2桁優勝を夢にしています。夢というより、目標かな? そのために頑張ろうと。
―― なるほど。これからどんな横綱になっていきたいですか。
「これぞ、横綱」とみんなから言われるようになりたいです。
―― では最後に、お相撲を見たことのないanan読者の皆さんにお相撲の魅力を教えてください。
相撲の取組って、3秒とか5秒とかであっという間に終わるものだけど、お相撲さんたちはその一番に勝つためにほぼ365日稽古をしている。一瞬に、ものすごい努力が詰まっているということを見てもらえたらうれしいですね。
Profile

豊昇龍智勝
ほうしょうりゅう・ともかつ 1999年5月22日生まれ、モンゴル出身。立浪部屋所属。叔父は元横綱・朝青龍。幼少から柔道、レスリングを始め、高校から日本へ。その年に大相撲を生で見たことをきっかけに相撲を始める。2018年一月場所で初土俵、2019年十一月場所で新十両、2020年九月場所で新入幕。今年三月場所で新横綱に。身長188cm、体重149kg。
Information
大相撲十一月場所
11/9(日)~23(日)、福岡国際センターにて開催。一年納めの九州場所の優勝争いに注目を。前売りチケットは完売なので「チケット大相撲」のリセールを狙って。チケットがなくても、会場正面の前庭でキッチンカーのグルメを楽しむことができる。またその横では力士たちが場所入りする姿を見ることができるかも!?
anan 2470号(2025年11月5日発売)より
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MAGAZINE マガジン

No.2470掲載
The TEAM 2025
2025年11月05日発売
ひとつの目標を目指して集まり、個々の才能や長所が混じり合うことでより高いパワーを発揮することができるチーム。そんなチームの現代における理想的な形や形成するための条件など多角的に考察する特集です。エンターテインメント界における注目チームにもフォーカス。4人の光る個性と大人の魅力に磨きがかかるA.B.C-Zは、メンバー4人によるグラビア&座談会が必見必読。まもなく結成15年を迎える超特急からはリョウガさん、ユーキさん、シューヤさん、マサヒロさんが登場。そして今年20周年を迎えたHANDSOME LIVEからは小関裕太さん、渡邊圭祐さん、東島京さん、本島純政さんに思いを語っていただきました。






























