子どもから障がいがある方、高齢者まで、幅広い利用者さんに、様々なサービスを展開する「NPOグレースケア」(以降、グレースケア)。ここでは専業、兼業、アルバイトなど自分に合った働き方を選択できる。そこで自分らしく、介護や福祉のしごとに向き合う3人の働き方を紹介。

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    自分らしさが強みになる! ユニークで多様な介護の現場で働く

    series

    身近にありながら、具体的なしごとのイメージが湧きづらい介護の世界。でも実は、クリエイティビティを発揮しながら働ける場所なのです。個性溢れる施設で、モチベーションを持って働く人たちを通じて“介護のしごと”の魅力に迫ります。[本プロジェクトは厚生労働省補助事業 令和7年度介護のしごと魅力発信等事業(情報発信事業)として実施しています。(実施主体・マガジンハウス)]

    CASE1 常勤で週5日働きながら地域で社会活動を行う

    お話を伺った方

    Profile

    織田 創さん

    おだ・そう 老健で1年半経験を積み、グレースケアに転職し、実務者研修の資格を取得。来年、介護福祉士を受験予定。地域の未来を切り拓くために活動中。

    グレースケアに正社員として就職し、常勤で働く織田創さん。大学で政治を勉強していたという織田さんが、介護の道に進んだ理由を聞いてみると、意外な答えが返ってきた。

    「在学中から自分が将来何をしたいのかが分からず、卒業後フリーター生活を送り、2年半経っても結局見つけられなかった。ならば逆転の発想で、やりたいことではなく、やりたくないことを考えてみたら、最初に思いついたのが、“介護”でした。世間的に介護のしごとは大変、重労働とかマイナスなイメージを持たれることが多いけれど、でも大変じゃないしごとなんかこの世にないはず…。なのに自分の中で最初に浮かんできたということは、実は関心があるからなのかもと考え、思い切って介護の世界に飛び込んでみたんです」

    そんな織田さんは、まず介護老人保健施設(老健)に就職。

    「実際に働いてみたら大変なことは思ったより少なく、それよりも利用者さんと触れ合う毎日が楽しくて、僕に向いていると思ったんです。でも老健は、病院に入院していた方が安心して在宅生活を続けられるようにリハビリをメインに支援する場所なので、もっと利用者さんと一対一で向き合える場所で働きたいと思い、たどり着いたのがグレースケアでした。

    この事業所は、訪問介護や泊まり介助などを提供しているので、一人ひとりとじっくり向き合いながら丁寧なケアをできます。僕は認知症のある利用者さんの囲碁・将棋に付き添うサポートもしており、僕自身も将棋が趣味で、一局お手合わせすることもあるんですが、みなさん本当にお強い! 毎日が刺激的で、趣味を活かせるし、しごとを通していろんな場所に行けるし、新しい人との出会いも多い。最初は良いイメージがなかった介護のしごとですが、今は天職と言えるぐらい自分らしい働き方ができています」

    グレースケアで働く傍ら織田さんは、社会活動を行っている。仲間と市民団体を立ち上げたり、障がいのある方とリハビリバーを開いたり、三鷹市主催の福祉バザーの運営に関わっている。

    「大学時代に政治を学んだこともあり、ソーシャルアクションに興味があったし、介護のしごとに携わるようになり人の役に立ちたいという気持ちが強くなりました。高齢者や障がい者の垣根を越えていつでも誰でも安心して暮らせる社会の実現を目指して活動しています。グレースケアで働き出してから自分のやりたいことが明確になった気がして、しごと以外の部分でも積極的にアクションを起こせるようになりました」

    CASE2 1日2~3時間の訪問介護をしながら、家業の手伝いと子育てを

    お話を伺った方

    Profile

    恒川桃子さん

    つねかわ・ももこ グレースケアで訪問介護に携わって6年目。中3、中2、3歳の子どもを育てながら、夫が経営するラーメン店『ちくせん』の手伝いもこなす。

    3人の子どもを持つ恒川桃子さんは、昼に家業のラーメン店を手伝った後、子どもと一緒に夕食を食べるまでの数時間、訪問介護のしごとをこなしている。働き者の恒川さんが介護のキャリアをスタートさせたのは、第一子を出産した後のこと。

    「育児しながら働きたいと思った時に、ママ友から介護のしごとを紹介されたんです。その時は保育園に子どもを預けられず働けなかったのですが、保育園が決まり、『初任者研修』を修了し、デイサービスで働き始めました。無資格でも働けますが、育児を優先しながらパートタイマーで働くなら有資格者の方が採用してもらえると思ったんです」

    その後、第二子を出産し、職場復帰するタイミングで、デイサービスから訪問介護の世界へ。

    「デイサービスは働く時間がどうしても固定されますが、訪問介護は短時間から働けて自由度が高いので、育児中の私にピッタリでした。でも当時の勤め先が訪問介護の事業をやめることになり、その時受け持っていた利用者さんがグレースケアも使っていたので、こちらでお世話になることに。ここに来てからは高齢者だけでなく、子どもや障がいのある方のケアも行っています。

    訪問介護でいろんな方に深く関わるようになり、障がいを負って人生が大きく変わった人が世の中にたくさんいることを知りました。今、定期的に訪問している重度障がい者の女性利用者さんとは『一緒におばあちゃんになろうね』と話しています。私も年を取っていきますが、同じように利用者さんも年を取り、介護のカタチも変わってくるかもしれませんが、長い時間を共に過ごせればと思っています。ごはんを作り、雑談をして、時には一緒に買い物に行ったり、おしごとですが友人のような存在です」

    恒川さんは現在、固定の利用者さんの自宅を週5回訪問している。ラーメン店の昼の営業が終わった後の夕方に訪問することが多いため、夕食の支度や洗濯物をたたんだりと家事のしごとと、見守りケアが中心。夕食は、利用者さんのリクエストを聞いて食べたいものを作るとか。

    「利用者さん本人とそのご家族の人生や生活に寄り添えるのが、訪問介護の魅力です。高齢の利用者さんから家事の仕方を学ぶこともありますし、訪問する家庭の生活スタイルに合わせて家事をサポートするので家事スキルが格段に上がりました! また私自身、家業の手伝いや子育てでストレスが溜まることもあるのですが、利用者さんと過ごすひと時が楽しくて、リフレッシュできる時間にもなっています」

    CASE3 障がい福祉のことを知るために、ガイドヘルパーをする大学生

    お話を伺った方

    Profile

    相川悠楓さん

    あいかわ・ゆふ 法学部に通う大学3年生。2024年8月に資格を取得し、ガイドヘルパーのアルバイトを開始。就活が始まり、人の役に立つしごとを模索中。

    法学部で世界各地の法律や文化を学んでいる大学生の相川悠楓さんは、週1回のペースで、ガイドヘルパーのアルバイトをしている。

    「ガイドヘルパーは、重度の障がい者や移動等に支援が必要な人の外出や移動の介助を行う専門職のこと。ひとりで外出するのが困難な方に付き添い、見守りや道案内などを行い、安心安全で楽しいおでかけの時間をサポートする職種です。私の母が、障がいのある方やその家族に寄り添う相談支援専門員のしごとをしているので、ガイドヘルパーの存在を知り、これなら大学に通いながらでも空いた時間にヘルパー活動ができると思い、講習を受けて資格を取得しました」

    相川さんは以前から社会貢献活動に高い関心があり、障がい福祉の分野にも興味を持ったそう。

    「昨年の夏休みに、タイの小学生に英語を教える海外ボランティアに参加しました。現地で募集していたボランティア活動に応募したので、参加者に日本人はおらず、現地の子どもたちや、チャリティ精神に溢れる欧米人など、様々な国の方々と交流しながら1か月間滞在しました。そこから人の役に立つことをしたいと強く思うように! 自分に何ができるかを考えていた時に、母が携わっている障がい福祉のことを私は何も知らないと思い、まずこの世界に飛び込んでみることにしました」

    相川さんは、昨年11月から17歳の重度障がいのある女性のガイドヘルパーに。ふたりでいろんな場所に外出する中で、心がけていることは。

    「年齢が近いふたりでのおでかけは本当に楽しい! 良いパートナーになれていたらいいなと思っています。もちろん意思疎通を図ることは難しくもありますが、自己満足にならないように、常に相手が何を思っているのか自分なりに考えながら向き合っています。

    車いすの移動介助は大変ですが、楽しそうにしている顔が見られると元気がもらえます。車いすを日常的に使用していない人にとっては気づきにくいことがたくさんあり、いろんなことを知るきっかけになっています。ガイドヘルパーをするようになって、福祉の世界を身近に感じられて、自分事化して考えられるようになりました。この経験を活かして、誰もが自分らしく生きられる社会の実現に貢献できる人材になりたいです」

    利用者一人ひとりに合わせたトータルケアを実践

    お話を伺った方

    Profile

    柳本文貴さん

    やぎもと・ふみたか 大学在学中から障がい当事者運動に関わり、株式会社パソナフォスターでヘルパー養成や派遣を行う。老人保健施設、認知症グループホームを経て、NPO法人グレースケア機構を設立。介護福祉士、社会福祉士、保育士の資格を持つ。

    東京・三鷹を拠点に置く「NPOグレースケア」。訪問介護を軸に、看護、リハビリ、認知症ケア、長時間・夜間の付き添い、医療的ケア、整理収納、娯楽・旅行など、利用者の生活やニーズに合わせた、きめ細かなサービスを展開。また介護を通したまちづくり活動として、空き家を有効活用し、地域に役立つ場所の再生にも一役買っている。民家を利用してデイサービスやケア付きシェアハウスなどの運営も行い、誰もがあるがまま、心の向くままに暮らしていけるコミュニティを創出し、地域の助け合いの仕組みづくりにも注力している。

    「国や市の制度を活用しながら、制度だけに縛られない自費サービスも行っているので、利用者のやりたいことを叶えるためのサポートをできるのがグレースケアの強みです」と話すのは、NPO法人グレースケア機構代表の柳本文貴さん。現在、利用者はなんと500名を超えているそう!

    「利用者一人ひとりとじっくり向き合いながら丁寧なケアをするために、様々な資格や経験を持つスタッフが200名以上在籍しています。ヘルパーの働き方は、週1回1時間からフルタイムまでとまちまち。自分で勤務を組み立てられる『変形労働時間制』を採用しているため、学生や子育て中の人、会社員など多様なバックグラウンドを持った方が多く、キャリアを選択しながら自分に合った働き方を実践できるのが特徴です。ヘルパーは、介護福祉士などの介護資格とともに、管理栄養士、整理収納アドバイザー、アロマセラピストなど多彩な資格や経験を持っており、特技や趣味をケアに活かしながら楽しく働くこともできます」

    強みや興味に合わせてしごとをカスタマイズしている人たちの実例をチェック。

    地域密着型の高齢者や障がい者介護団体

    information

    NPOグレースケア

    写真・土佐麻理子 取材、文・鈴木恵美

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