働く女性、働いていない女性、そして男性も含め、あらがう人たちを励ますマンガとして話題を読んでいるこの作品。登場人物やストーリーの解説から、どんなところが人々をエンパワーしているのかを読み解きます!

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    舞台はマンガ編集プロダクション。そこに声優の夢を諦めた女性がたどり着き、物語が始まる

    第1話は、マンガからアニメに目覚め、声優を志した女性・倉石りのが主人公。若さとノリの良さしか武器がないと思っていた20歳のりのは、なんとか役を掴みたいと努力をする日々を送っている。しかしプロデューサーから「2人で飲みに行こう」と誘われたり、同志が音響監督から「今からホテル来れる?」と呼び出されたりなど、業界の嫌な慣習やセクハラに削られる日々…。

    これ以上アニメを嫌いになりたくないからと夢を諦め、掛け持ちでアルバイトをしていた塾の受付の仕事に専念しようとした矢先、今度はそこでもセクハラまがいの被害に。逃げ場がない中で、小さい頃にマンガを読んだときめきを思い出し、思い切って「30歳を前に、ずっと好きだった世界に飛び込んでみよう」と、マンガ編集の仕事に転職。そんな彼女が働く編集プロダクション『グラスキャンティ』と、そこに関わりのある漫画家や編集者、さまざまな人たちの、奮闘する日常を描く。

    こちらもチェック! 👀 作者・加藤羽入さんにインタビュー

    1〜2話ごとに、さまざまな“あらがう人たち”が登場。それぞれの世界がゆるく繫がっている、群像劇のような物語

    作者の加藤さんは、当初は“働いていて楽しい組織”のマンガを描こう、と思い、この物語を立ち上げたそう。

    「SNSなどでみなさんのつぶやきを見ていると、会社生活にストレスを抱えていらっしゃる方が本当に多くて、友達もよくそんな話をしていて。組織に対してストレスフルな印象を持っている人がこんなに多いなら、逆に、働いていることが楽しい、そんな組織の話をビジュアルで見せられたら、と思ったことが、連載スタートに関する一番最初の記憶です。ただ、私自身がほとんど組織で働いた経験がなかったので、取材のために改めていろんな方に話を聞いていく中で、ひとりひとり本当にたくさんの問題を抱えていて、バックグラウンドも千差万別なんですが、なんとなく、実は多くの人が同じことに苦しんでいるのでは…という感覚が出てきたんです。ひとりひとりの女性についてしっかり描くことが、結果的にいろんな女性やいろんな人の心に届く、ということに繋がるような気がして、こういった形のマンガになりました」

    登場する、あらがう女性たち

    オサダアイ

    倉石が担当する新人マンガ家で、少女向けの雑誌で“恋愛以外のマンガ”を描きたいともがいている。女の子2人が冒険する物語を描いているものの、商業的には売れてはいない。自分が子供の頃、仲良しの男の子との間柄を勝手に“恋愛”と決めつけられた、などの体験から、恋愛やそれを取り巻くあれこれが苦手に。「女の子はこうじゃなきゃ」という価値観にあらがいたけれど、その表現方法が見つからず…。

    九十九(つくも)リカ

    父親が“主夫”という環境で育てられ、母が好きな少女漫画を読んで育ち、成長する段階で「男なのに」「男らしさ」といった価値観に絡め取られそうになりながら大学生になった藤代一郎。彼が大学のサークルで出会ったちょっと強めの女性がツクモ。サークル仲間との時間の中で家事をこなす一郎が「家での家事は父がやっている」と言ったのを聞き、「未来から来た宇宙人じゃん カッコイー」とまっすぐ伝え、一郎の心をつかむ。就職をし、会社や社会に対して怒りがマックスに達し、「会社を興す!」と宣言。マンガ編集プロダクション『グラスキャンティ』を創業する。ちなみに一郎は会社を興す宣言を聞き、突然彼女にプロポーズ。以降30年、ともに歩んできた。

    田山伊織

    兄の影響で少年マンガに親しんできた、マンガ家を目指す大学生。得意なのは“エロ可愛い”女の子の絵。SNSでマンガがバズり、多数の編集部から連絡をもらった中に、自分が大好きなマンガ家を担当している男性編集者を発見。彼とともに、新しく立ち上がるウェブレーベルで、連載を目指して作品を描くことを決断。しかし、企画を出してもすべてボツ、打ち合わせに行くたびに勉強という名目で編集者の好きなアイドルの動画を延々見せられたり…といったことが重なり、精神的に疲弊。彼氏との関係も悪化。挙げ句編集者から「田山さんは男のことが分かっていない。体験しないとダメだから、プライベートで会おう」と誘われ、夢のためなら…と伊織もその誘いに乗ってしまう。

    御手洗幸乃

    38歳の女性向けマンガ雑誌編集長。担当する39歳の作家から「不妊治療を経て我が子と会えた、その間の不安や喜びを描きたい」と提案され、長い間見ていぬふりをしてきた“子どもが欲しいのか”という疑問と向き合う決心をする。絞り出すように夫に話をすると、「産む人は幸乃ちゃんだから… 幸乃ちゃんが望む形に」と言われてしまい、その後ケンカにまで発展。逃げるように実家に帰り、母の遺影を前に、とまどいながらも父に「孫が欲しい?」と聞いてみると、衝撃の回答が! それをきっかけに、自分が抱える固定概念に気が付き…。

    “女子的な理不尽あるある”の描写に胸が痛むけれど、それを乗り越える彼女たちに励まされる!

    悩みながら、もがきながら、自分が生きたいと思う道を探す女性たち。その結果たどり着いたり選び取ったりした結論には、今社会であらがいながら生きようとするわたしたちを、エンパワーしてくれる。

    「子どもを持つかどうか…の編集長の話は、実際私の身の回りにも同じことで悩んでいる人がたくさんいて、その中の1人が“最終的に子どもを持つという結論になるストーリーが、世の中に溢れすぎている!”と怒っていたんです。それを聞いて、持つか持たないかは個人が自由に決められる社会がいいと思ったし、もちろん持つ結論の物語が悪いわけでは決してないんですが、持たないという選択肢を取った人たちがいることも言っていくべきなのでは、と思い、描いたエピソードです」

    また、ライスステージの変化や今いる場所の違いによって、すれ違っていく女性たちの関係性を描く物語もあり、そのあたりもとてもリアルで、心に響きます。

    「別に喧嘩したいわけではないのに、そういった外的要因によってお互い嫌いになっちゃったり、距離ができちゃうことってあるじゃないですか。自分の生活がいっぱいいっぱいになったために、ぶつかり合ってしまう、というような…。そういったことがなるべくなくなるように、という願いを込めた描写を増やしたい、という意識は常にありますね」

    たまに挟まれるポップな描写と、シリアスさのバランスが絶妙!

    こういった題材を扱うマンガの場合、シリアスになりすぎて、読むのがつらくなる…といったことが起きがちですが、この作品にその心配は御無用。真面目なシーンの間に、「え、いったいどうした、このテンション?!」というようなポップかつ勢いのある描写が入ってくるので、しんみりしたり、心を掴まれたりしつつ、思わずくすっと笑ってしまう、そのリズム感とバランスが素晴らしい! さまざまな意味で心が元気になる作品です。

    information

    加藤羽入『君がまた描き出す線』

    1〜2巻 各¥858/祥伝社

    ©加藤羽入/祥伝社FEEL COMICS

    写真・内山めぐみ 取材、文・河野友紀

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